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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 318

サーラは何か言おうとしたが、言葉に詰まってしまったようであった。
そして…

 ザッパアァァンッ!!!!

…何を思ったか、彼女は勢い良く浴槽に飛び込み、そのまま反対側まで泳いだ。
泳ぎ着くと外に広がる王都の街並みの方に顔を向けたまま言った。
「あなたの言いたい事は解ったわ、セイル君…。でも私にとってアルシャッド兄様は、もう心情的には肉親じゃないの…赤の他人みたいなものよ…。彼の死を聞いた時も、何も感じなかった……けど……まぁ…一応兄妹やってた縁もあるし…せいぜい地獄に堕ちないよう、暇な時にお祈りぐらいはしてあげようかしらね…」
「サーラさん…」
それがサーラなりの精一杯の強がりである事に気付き、思わず頬のほころぶセイルであった…。



その頃、ナスィーム州都を占拠中のヤヴズ・ザムとファフラビは…
「ファフラビ将軍!ヤヴズ・ザム閣下がお見えです!」
「今忙しいから帰れと言え!」
…ここ、州都郊外に構えられたファフラビ将軍の陣では朝から将兵達が慌ただしく駆け回っていた。
どうも彼らは陣を畳んで、移動の準備をしているようであった…。
「それが…もう来ております…」
「なにぃ…!?」
「ファ…ファフラビ将軍!!」
伝令兵を押し退けて作戦指揮用の天幕に姿を現したヤヴズ・ザムをファフラビは嫌そうな顔で迎える。
「ハァ……何ですか?」
「き…聞いたぞ!!イシュマエルと戦わずして逃げるとは本当なのかぁ!!?」
「逃げるとは人聞きの悪い…我らは“転進”するのですよ」
「言い方などどうでも良い!!占領した都市を独断でみすみす敵に明け渡すなど、もしもヤヴズ・ジェム閣下に知られたら後で処罰されるぞ…!!」
「独断ではない。我らは王都(ジャディード=マディーナ)からの命令を受けて行動しております。…今こちらへ向かっているイシュマエル軍は、千頭から成る戦象部隊を有している。我が自慢の銃兵部隊も象が相手ではひとたまりもありませんからなぁ…そこの所を王都へご報告したら“ナスィーム州都放棄もやむなし”と転進のお許しがいただけたのですよ」
つまりファフラビの(イルシャ王国内では)近代戦の知識と経験が豊富な銃兵部隊を象とぶつけて失ってしまうよりは、後方に下げて温存した方が得策だ…とジェムや王都の将軍達は判断したようである。

イシュマエル・アクバルの戦象部隊は(他にそんな部隊を持っている所が無い事もあって)イルシャ王国では有名だった。
大量の象を養うには莫大な金が掛かるのだ。
その戦力は凄まじく、かつての戦乱期には、並み居る敵の歩兵・騎兵を容赦なく踏み潰し“神々の力を持ってしてすら彼らの進撃を阻めないだろう”とさえ言われた程であった。
そして戦乱が収まってから二百年以上も平和な時代が経過した現在でも、それは健在なのだった。

「ちょ…ちょっと待て!!ワシらは王都からの撤退…もとい転進の命令など受けてはおらんぞ!?」
「それはつまり、貴殿らにはナスィーム州都に踏みとどまってイシュマエル軍を迎え撃って貰いたい…という王都の意向であろう」
「無理じゃあ!!!」
ザムは叫んだ。
「奴らは15万!!対して我らは僅か2万ぞ!!?籠城したとしても、この街の貧弱な城壁では一日と持つまい!!お…王都は我らに死ねと申すかぁ!!?」
軍衣にすがりついて訴えるザムをファフラビは鬱陶しげに振り解いて怒鳴りつけた。
「そんな事を私に言われても知らぬ!!貴殿のお身内にでも尋ねてみれば良かろう!!」
「うっ…うぅ…うぅぅ…うぅ〜…うぅ〜…」
冷たく突き放されたザムはその場に突っ伏してうずくまり、ガタガタと体を震わせながら“うぅ〜、うぅ〜”と唸り始めた。
「あ…あのぉ…将軍…?」
随伴して来た彼の部下の武官(彼も主君のあまりの醜態にさすがに呆れていたが)が恐る恐る声を掛ける。
ザムの姿は泣いているようにも、恐怖に恐れおののいているようにも見えたが…
「…っ!!」
…ふと彼は何を思ったか、突然顔を上げてガバッと立ち上がった。
「…逃げねば…」
そしてポツリとつぶやく。
「…はあ…今、何と…?」
「逃げると言った!!いや、転進じゃ!!…確かにジェム閣下のお許し無く兵を退けば後で処罰されるやも知れぬ!だがここに踏みとどまってイシュマエル軍と戦えば間違い無く死ぬ!!ワシは目前に迫った危機から逃れる事を最優先する!!…という訳で我々も撤退の準備を始めるぞぉ!!!」
「は…はいぃ!!!」
そしてザムはファフラビに一瞥もくれず、急いで陣を後にしたのだった。
後に残ったファフラビは吐き捨てるように一言…。
「清々しいまでにクズめ…!」

ファフラビ軍よりも後に準備を始めたはずなのに、ヤヴズ・ザム軍の撤退は実に素早かった。
…いや、もう金品と美女達を馬車に詰め込めるだけ詰め込み、隊伍も組まずに這々(ほうほう)の体で逃げ出す…という、仮にも正規の軍の撤退とは言い難い状況ではあったが…。
馬車に乗せきれなかった女達は縛って数珠繋ぎにして連れて行った。
兵士達の中には鎧兜の上から略奪した金銀の装飾品をジャラジャラと身に付けている者さえいた。
その様はまさに盗賊のようであった…。
大将のヤヴズ・ザムは兵士達に担がせた大きな輿の上で(彼は尻の皮が剥けるのを嫌がって馬には乗らなかった)杯を片手に二人の美女を侍らせていた。
「グフフヘヘヘ…ワシはこんな所で終わる男ではないのじゃあ…ワシは死なんぞ…この命ある限り、逃げて逃げて逃げて逃げて…生きて生きて生き抜いてやるんじゃあ…グワハハハハハ!!!」
…まったく、往生際が悪いのも、ここまで来ると大したものである。

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