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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 315

「ネ…ネショ…なに?」
「ネイション・ステイト!…国民国家とも言うわ」
「…聞き慣れぬ言葉ですね。具体的にはどのような物なのですか?」
「簡潔に言えば、貴族・士族・平民・奴隷…といった旧態依然とした身分制度と、それに伴う特権を全て廃止して、全ての民を等しく“国民”として統合し、強力な中央集権体制を築くのよ。国の官職は宰相から平役人に至るまで全て世襲ではなく個人の能力によって任命される。さらに国力を底上げするために全国民に教育を義務付け、産業の発展にも力を注ぐわ。その下で軍備の近代化と増強を図り…!」
得意げに語るサーラをアルトリアが制して尋ねた。
「あの、ちょっと失礼…王族は残るのですか?」
「あぁ、王族は良いの。国民統合の象徴として君臨するから…」
「…それはまた…随分と都合の良い“国民国家”ですね…」
「ま…まぁまぁ、アルトリア…」
今度はセイルがサーラに尋ねる。
「…でもサーラさん、そんなに強い国を作って一体どうするの?人々が平等になるのは良い事だけど、あまり権力が集中するのは…」
「それはね…西方世界の脅威からこの東大陸を守るためよ!」
「西…!」
そう言えばアリーも前に似たような事を言っていたな…とセイルは思い出す。
するとサーラはまたもや机の引き出しを開け、今度は何やら丸められた紙を取り出した。
「見て…!」
それを机上に広げて二人に見せる。
「これは…地図ですね」
「どこの地域の地図なの?」
「これはね…この世界の全ての大陸を記した世界地図よ」
「…えっ!?」
セイルは驚く。
「そんな…学校で習ったのと全然違う…!?」
「騎士学校の授業で使われてるのは我が国を中心に誇張して描かれた観念的な絵地図だからね。こっちが本当に正しい世界の形よ…」
サーラの言う通り、騎士学校の地理の授業で見せられた世界地図は、全世界の七割ほどを占める超大国イルシャ王国を中心として、その周辺に近隣諸国や他大陸が小さく配置されている…といった物だった。
だが今セイル達が見せられた地図では、イルシャ王国は確かに世界最大の国だが、それでも全世界の陸地の一割にも及ばない。
一方、西大陸にはゼノン帝国がイルシャ王国に迫る大きさで、周辺の属国を含めれば面積の上ではイルシャを凌駕している。

セイルは目の前に広げられた地図を見、また学校の授業で見せられた地図を思い出し、そのあまりの違いに思わず嘆息した。
なるほど…自分達は自国を過剰に強大に表現した歪んだ地図を見せられて世界を知った気になっていたのか。
いや、何も騎士学校の生徒達だけに限った話ではない。
恐らくイルシャ人の九割方は、自分達の国こそ(些細な問題は多々あれど)世界で最も優れていて強大で富み栄えている国なのだ…という幻想を信じている。
だが現実は目の前の地図だ…。

セイルは地図の西大陸を指差して尋ねた。
「この大陸にはどれだけの人が住んでるの?」
サーラが答える。
「…大陸全体で約3億人といった所らしいわ。ちなみに東大陸は約5億人ね」
アルトリアが言った。
「人口は東大陸の方が多いのですね」
「あくまで現在時点での人口はね…西大陸は100年前まで人口が2億に満たなかった…それがこの100年で3億を超えたのよ。一方東大陸はここ500年ほどずっと5億人前後を維持している…これが何を意味しているか解る?」
「つ…つまり、いずれ東大陸は西大陸に追い付かれ、追い越される…って事?」
「…ええ、このまま行けばそうなる日も遠くはないでしょうね…。もちろん人口=国力と単純に結び付けられる物でもないけれど…」
言いながらサーラは眉間にシワを寄せる。
「……」
「……」
セイルもアルトリアも言葉が無い。
今まで大して意識する事も無かったが、まさか世界がそのような情勢になっていたとは…。
だが思えば、一連の動乱の全ての始まりでもある、あのバムとブムのクーデターの原動力となった新兵器“銃”だって西大陸から入って来た物だ。
もう既にその脅威は実際に東大陸に大いに影響を及ぼし始めているのだ。
西大陸諸国は今まさに日の出の勢い…それに対して永きに渡る泰平の果てに腐敗・堕落・疲弊しきったイルシャ王国が立ち向かうためには、サーラの言う通り国の在り方を変えるしかないのかも知れない。
根本的な所から、徹底的に…。
古い殻を脱ぎ捨てて、新たに生まれ変わるために…。


「…さて、小難しい話はこれぐらいにして、ちょっと気分転換でもしない?」
サーラはちょっと重くなってしまった空気を払拭するかのように笑顔で二人に尋ねる。
「「…?」」

…そして、サーラはセイルとアルトリアを“ある場所”に案内した。
「…着いたわ!ここよ」
「うわぁ〜!凄いね!」
「ふむ…これは素晴らしい!」
「ウフフ…我が城自慢の大浴場よ♪」
そこはかつての後宮区にある王族のみが使用を許された大浴場であった。
幸い、この辺りは戦闘で破壊される事も火災で焼け落ちる事も無く、殆ど無傷の状態で残っていた。
床も壁も天井も白亜の大理石で統一された浴室は、ちょっとした広間ほどの広さがある。
天井は高く、南側には壁が無く幾本もの石柱によって支えられ、向こうには緑の木々の生い茂る庭園、その先には王都の街並みが見渡せる(王宮自体が王都の中でも高い丘の上にあるからである)。
巨大な浴槽にはお湯が張られ、湯気が立ち上っていた。
つまりは半屋外温水プールだ。
ちなみに季節的には既に冬のはずだが、このイルシャ=マディーナのある地域は冬でもそんなに冷え込まないのである。

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