PiPi's World 投稿小説

剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 312
 314
の最後へ

剣の主 314


…その話を聞きながらセイルは思う。
(…そう言えばアルトリアって500年前の建国期に生きてたんだよなぁ…)
イルシャとゼノン…現在の世界秩序の基幹を成す東西の両大国の誕生に目の前の少女が立ち会っていたなんて…にわかには信じ難い話だが、どうやら事実らしい。
そしてそのアルトリアが選んだ自分…聖剣の勇者としての重みを改めて考えさせられるセイルであった。
(…なぜ僕なんだろう…そして、なぜ今…?)

…そんな事を思っていると、ノックの音がして、サーラ付きの女官のイーシャが現れた。
「…サーラ様!寝室にいらっしゃらないと思ったら、やはりこちらにおいでだったのですね」
「あら、イーシャ。おはよう」
「おはようございます。…それにしてもサーラ様、昨夜はお楽しみだったようですねぇ〜?」
口元を隠して含み笑いを浮かべるイーシャにサーラは言う。
「いえ、それが…楽しんでないのよ」
「またまたぁ〜、ご冗談を…」
「いえ、冗談ではないのですよ」
「うんうん…」
アルトリアの言葉にコクコクと頷くセイル。
「ご安心ください皆様。この事は決して口外いたしませんから…ウフフ♪」
そう言ってイーシャは部屋を後にした…。
「…いやあれ絶っ対しゃべるだろ!」
セイルは叫ぶ。
「明日にはもう王宮中の女官に知れ渡ってるパターンだよ!」
焦るセイルをサーラは宥めた。
「まあまあセイル君、落ち着いて…イーシャはあれでそこそこ信頼できる女官だから」
アルトリアが言う。
「あくまで“そこそこ”なのですね…」

その後、サーラに朝食に誘われたセイルとアルトリアは食卓を共にした。
食事中、セイルはサーラに尋ねる。
「…サーラさん、これからどうするの…?」
「そうねぇ…今日は市民達への慰問を兼ねて街の視察に行くわ。…そうだ!もし良かったらセイル君とアルトリアさんも一緒に来ない?」
「…あ…あぁ、うん…(そういう意味で訊いたんじゃなかったんだけど…)」
(聞き方も悪いが)少し見当違いの答えに戸惑うセイルにアルトリアが隣から小声で一言…。
(サーラ殿はとりあえず目の前の課題に集中する事で本質的な問題から目を背けようとするタイプですね)
(うん、そうやって人をタイプ別に分類しようとするのが君の悪いクセだね)
(分類は大切ですよ?)

…こんな平穏な日常に思わず忘れがちになるが、イルシャ=マディーナの都は依然としてヤヴズ・ジェム配下の20万の軍勢に包囲されているのである。
戦いが始まった当初こそ、数の優位に任せて盛んに攻勢を掛けて来たジェム軍であったが、立て籠もるサーラ軍10万の守りが予想以上に堅い事を悟ると、戦法を兵糧責めに切り替えてきた。
サーラ軍にとって幸いだったのは、包囲軍がジェム直属の近代化された軍ではなく、昔ながらの装備の地方太守達の連合軍だった事にある。
もし大砲などバンバン撃ち込まれたりした日には、対砲撃用の構造になっていないイルシャ=マディーナの城壁は破られていたかも知れない。

…さて、サーラの視察に同行したセイルとアルトリアである。
サーラを先頭に彼女の側近達や護衛の騎士達の一団が街中に姿を現すと、市民達は諸手を挙げて歓迎した。
「…あっ!サーラ様だ!」
「サーラ様!?」
「本当だ!」
「サーラ様ぁ〜!」
その様子を見たセイルは感心して思う。
(サーラさん、ずいぶん民衆に慕われてるんだなぁ…!)
隣を歩いていたユーナックが尋ねてきた。
「驚いた?」
「はい。ジャディード=マディーナとは偉く様子が違います」
ユーナックは得意げに言う。
「そりゃそうだよぉ♪サーラは何よりも民衆の事を第一に考えてるからね…」

彼の話によるとサーラは配下の全軍に対して行軍中、または占領時における民衆への略奪・暴行を厳しく戒め、軍紀を乱す者は容赦なく罰した。
さらに市内の治安の回復・強化に努め、食料を配給制にして全ての階層の市民達に平等に行き渡るようにし、限られた資材で都市の再建に着手し、第一に城壁、第二に市民達の暮らす家々、第三に王宮や国の施設…という優先順位で工事を進めていた。
包囲下にも関わらず、それだけの事を行ってきた…。
…いや、むしろ包囲下だからこそ、支配者層と被支配者層が分離するような事態は絶対にあってはならない。
離反した民衆が敵と呼応し、内側から城門を開けて陥落…という最悪のケースも過去の戦争ではあった。
もっとも例えそのような状況下になくとも、サーラは民衆を大切にしただろう。
以前から彼女は下級の士族や平民に対しても親しく接していた。
ゆえに民衆からの人気が高く、それを他の王族や貴族達に危険視され、彼女は辺境の東方鎮台府に島流しにされたのだ…。

視察から戻ったサーラはセイルとアルトリアを自らの執務室に呼んで尋ねた。
「街の様子を見てどう思った?」
「街の皆の顔が生き生きしてた事が凄く印象的だったよ!ジャディード=マディーナでは皆どこか怯えているような…でなければ死んだような顔をしてたからね」
「民の態度には治める者の人柄が繁栄されると言います。サーラ殿は良き統治者であらせられるかと…」
「フフ…ありがとう、そう言って貰えると嬉しいわ」
そう言うとサーラは机の引き出しから一冊の本を取り出した。
「それは…?」
「これは私のバイブル…西大陸の啓蒙思想家が書いた本なんだけどね、この本が私の目指す理想の国の在り方に明確な“形”を与えてくれたわ」
「サーラさんの目指す国ってどんな国なの?」
セイルに問われ、サーラは答えた。
「それは…国民国家(ネイション・ステイト)よ!」

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す