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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 309

「そ…そんな…!?」
「…私と君に救われた事でヤツは我々に並々ならぬ恩義を感じたはずだ。今後は私達の言う事なら何でも聞くだろう。良い手駒が出来た…。そもそもイシュマエル家と敵対する直接的な原因を作った時点でヤツを楽に死なせてやる気は無い。利用できるだけ利用してボロボロになるまで使い尽くし、最期にあの雄牛に放り込んでやるつもりさ」
「……」
恐るべきオムの本性にレムは言葉も無かった。

一方、ジェムは腹心のシャリーヤを伴い、件の雄牛の製作者であるハイヤーム博士ことアリーの元を訪れていた。
「こ…これはこれは…!ジェム閣下自らこんな汚い研究室においでくださるとはお珍しい…!」
アリーは驚いてジェムを出迎えた。
彼の恋人で今は助手でもあるアイーシャは今はどこかに出掛けているのか姿が無い。
そのアイーシャを人質に取られて半ば強制的に従わされているアリーとしては、ジェムは内心もっとも自分の研究室に迎え入れたくない相手であった。
…とはいえ一方でジェムは大切なスポンサー(パトロン?)でもある。
新兵器を開発する事…それ自体は楽しいアリーであった。
どうもこの両人の関係は一筋縄ではいかないようだ…。
ジェムは言った。
「アリー君、例の新式銃、試作品が完成したそうだな…」
「は…はい!明日にでも試射を行おうと思っていた所です。…とゆうか閣下、王宮内であまり“アリー”と呼ばないでいただきたいのですが…」
アイーシャにさえ二人きりの時にしか本名で呼ばせていないアリーであった。
そんな彼の頼みを華麗にスルーしてジェムは言う。
「試射だが、今日しよう。これからだ。的(まと)はこちらで用意した。可能だね?」
「それはまた急な…しかし可能です。ちなみに的とは…?」
その問いにはジェムに代わってシャリーヤが答えた。
「…的には囚人達を用意してあります。処刑も兼ねての試射です」
(そんな事だろうと思った…)
新兵器の試験で生きた人間を撃たせるなんて、相変わらず趣味が悪い…とアリーは思う。
いくら囚人だからって人の命を何だと思っているのだろうか。
…だが、一方で彼はこうも思うのだった。
自分が開発した兵器が実際に作動し、人を殺す所を見てみたい、と…。
それは技術者としての純粋な興味と探究心であった。
彼は、ただただ技術者であった…。
この日までは…。

一行は新式銃の試射を行う試験場へとやって来た。
王宮の敷地内の一角にある中庭で、ちょっとした広場である。
新式銃は既に何人かの召使い達によって運び込まれていた。
布が掛けられているが、シルエットは大砲のようだ。
「これがそうなのか?」
「はい!この新式銃は実に一丁で一千騎をも薙ぎ倒す恐るべき兵器でして、実戦に投入されれば戦局を一変させること間違い無く…」
「御託は良い!早く見せろ」
「は…はい!」
アリーは布を取った。
現れたそれは銃と言うには奇妙な外見をしていた。
大砲の砲架のような物の上に複数の銃身が環状に配置された機械が乗っており、根元にはハンドルのような物が付いている。
アリーは興奮しながら説明を始めた。
「いかがですか!?これが私の発明した新兵器“回転式連射銃”です!!この銃は一分間に120発の高密度射撃が可能であり、騎兵はもとより西方大陸の銃兵も敵では…」
「だからそういうクドい解説はいらん!…百聞は一見に如かず。実際に撃ってみよう。シャリーヤ、囚人達を連れて来い」
「かしこまりました、ジェム様」
そう言うとシャリーヤは踵を返して立ち去ったが、すぐに十数名の兵士達と共に三十人近い囚人達を引き連れて戻って来た。
「…っ!!?」
それを見たアリーは思わず目を疑った。
囚人達の数が予想以上に多かった事、そしてどう見ても女性と子供にしか見えなかった事…。
「…あ…ああ…あの!閣下!!」
「何かね?」
「あ…あの人達は一体どのような罪を犯したのですか!?子供や…赤ん坊までいるではありませんか!!?本当に死に値する罪を犯した囚人なのですか!!?」
「…うるさい男だな、君も…撃てれば誰でも良いだろうが…」
「良くありませんよ!!」
シャリーヤが答えた。
「…あれらは恐れ多くもジェム様に逆らった反逆者の妻子達です。情け容赦は不要です」
「反逆者…の…家族…って…それ罪人じゃないじゃないですか!!駄目です!!!撃てませんよ!!!」
アリーは必死に訴えるが、ジェムは冷たく言い放つ。
「…君は何を言ってるんだ?君に選択権なんて無いよ?僕が試射をしたいと言った。君は命令に従うだけだ」
「きょ…拒否します!そんな命令は…聞けません!」
「ふ〜ん…ではアイーシャ嬢がどうなっても良いと…」
「…っ!!!!」
それを言われたらアリーは逆らえない。
彼は目を背けたくなる思いで射線上に並ばされた女子供達を見た。
誰もが皆、恐怖に恐れおののいている。
泣き叫ぶ子供、抱き合う親子、我が子を庇うように覆い被さる母…。
(僕は…これからこの人達を殺すのか…嫌だ!出来ない!出来る訳が無い!!)
アリーの手足はガタガタと震え始め、顔は血の気が失せて真っ青になっている。
そこへ準備完了を告げる無慈悲な兵士の声がした。
「弾帯の装填が完了しました!いつでも撃てます!」
女子供達から悲鳴が上がった。
ジェムは嬉々として言う。
「さあ!見せてくれたまえ!君の発明した兵器の威力を!!」
(…やりたくない!やりたくない!殺りたくない!!殺りたくない!!)
アリーは出来れば今すぐにでも逃げ出したい思いだった。
だが…
ふと彼の脳裏に愛しい少女の顔が浮かぶ。
(殺りたくない…けど…殺らないと…アイーシャさんが…)
…要するにどっちを取るかなのだ。
たった一人の大切な女(ひと)と、見ず知らずの大勢の人々、その命を両天秤に掛けて、どちらを取るか…。
「……」
アリーは改めて女子供達を見た。

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