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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 308

「もしそうならば我々はイシュマエルと戦わなくて良いという事に…」
「ああ、ヤヴズ・ザムがイシュマエルに討たれる所を高みの見物と洒落込めるのだがな」
「あやつはもう終わりでしょうな。頼みの大執政にも見放され…」
「なに…全ては己の傲慢さが招いた結末だ。あの男に対しては憐れみすら感じぬな」
「それより私は転封の件がどうなったかの方が気になるのですが…」
「確かにな…大執政は大変な怒り様だと言っていたが、その怒り、まさか我らにまで向かんであろうな…?」
「とにかく一度、王都に連絡を取ってみる必要がありそうだ…」
ファフラビは総括するようにそう言うと、次に急に声を潜めて続けた。
「…場合によっては我らも身の振り方を考える必要がある…かも知れんぞ…」
「「「……」」」
側近達はその言葉の意味する所を各々に察した。
ある者は力強くうなずき、ある者は固唾を飲み、またある者は神妙な顔をして黙り込んだ。

だがザムもただ座して死を待つほど諦めの良い性格ではなかった。
彼は城内に臨時に設けた魔導通信施設(と言っても床に描かれた魔法陣のみ)を使い、自ら王都のジェムに連絡を取った。
「繋げ」
「はっ…」
ローブを身にまとった魔術師が念を送り始めると魔法陣が光り輝き始める…。


‐新王都ジャディード=マディーナ王宮‐

広間の床に描かれた巨大な魔法陣が光を放ち、その中央にゼムの像が映し出されている。
『ヤ…ヤヴズ・ジェム大執政閣下様におかれましてはご機嫌麗しく…』
「ゼム将軍…これが麗しいように見えるかね?」
その魔法陣を取り囲むようにジェムと彼の側近数人が腰掛けている。
自分に向かって恭しく礼をするゼムにジェムは眉間にシワを寄せて言った。
「…だいたい将軍、僕は君に魔信ではなく直接会って話を聞きたいと思っていたんだが?王都への召喚命令はまだ聞いていなかったかな?」
『そ…それはもちろん心得ております!…が閣下!小官には現在ナスィーム州に向けて進軍中のイシュマエル軍を迎え撃つべく軍の指揮に当たらねばならぬという使命がございますれば王都への召喚命令は誠に心苦しいながら…!』
「黙れ!!誰が貴様にそんな命令を下した!?」
『…ヒィッ!!?も…申し訳ございません!!しょ…小官はただ大執政様のお役に立ちたい…その一心でして…!!』
ジェムはキレた。
彼は立ち上がって叫ぶ。
「役に立ちたいだと!!?良く言えたものだな!!他者から勝利を譲り受けておきながら占領統治一つまともに出来ず、挙げ句に新たな敵を招いたその口が!!!」
『ヒイィ〜ッ!!?お…お許しくださいぃ!!!この通りでございます!!どうか!!どうか命ばかりはあぁ!!!』
ゼムは震え上がり、その場に平伏してジェムに詫びた。
だが今更そんな事でジェムの怒りは収まらない。
「聞く耳持たん!!!貴様には死を持って償ってもらうぞ!!雄牛に火をくべて待っているからなぁ!!」
『イヤアアァァァ〜ッ!!!?』
「…お…お待ちくださいませ!大執政閣下!」
そこに、ジェムの側近の一人が声を上げる。
高級武官の軍装に身を包んだ青年であった。
彼の名はヤヴズ・レム…やはりジェムの血縁で引き立てられた者だ。
「レムか…何だ!?」
「ど…どうかゼム将軍に今一度名誉挽回のチャンスを…!我らは同じヤヴズ一族ではございませんか…!」
「何を寝ぼけた事を!!同族だからこそ無様な失態を演じた者には容赦してはならないのだ!!」
「閣下、恐れながら…私もレムと同意見でございます」
そこへ更にもう一人…高級文官姿の青年が口を挟む。
彼はヤヴズ・オム…やはりヤヴズ一族の縁者であった。
レムもオムも年齢は共にジェムよりも十歳ほど上に見える。
見た目は、レムが小太りでどことなく気弱で人が良さそうなのに対し、オムは痩せぎすで眼光鋭く油断ならなそうな印象だ。
「オム!お前までゼムを処刑するのに反対か!」
「はっ…もし今閣下が怒りに任せてゼム将軍を処刑すれば“ヤヴズは一族同士で殺し合っている”という話が広まり、結果的に我らの敵を喜ばせる事になります」
「うぬぅ…(確かにイルシャ・サーラやイシュマエル・アクバルなどは喜ぶだろうな…)」
ジェムは少し考えてからゼムに告げた。
「…解った。ゼム将軍、今度の貴様の罪、不問としよう」
『ほ…本当でございますかぁ!!?』
「ああ、レムとオムに感謝するんだな」
『あ…有難うございますぅ!!有難うございますうぅ!!』
「良かったなぁ…ゼム将軍…本当に良かったぁ…」
「……」
泣きじゃくりながら感謝するゼムを、レムは暖かい目で、オムは冷めた目で見ていた…。

「オ…オム殿!」
「…レム君か、何か…?」
その後、一同が解散して各々の部屋へと戻っていく途中の回廊で、レムはオムに声を掛けた。
「あ…あの、先程のゼム将軍の助命の件、助け舟を出してくれて有難う。正直あそこで君が賛成の意見を述べてくれて助かったよ。僕一人だけではジェム閣下を説得出来なかっただろうからね…」
「…別に君を助けた訳じゃない。私はヤヴズ一族全体の利益を考慮して、ここでゼムを殺す事は得策ではないと判断したまでだ…」
「フフ…そんな事言って、本当は君もゼム将軍を助けたかったんだよね?確かに将軍とは特別親しい訳でもないけど、それでも一応同じヤヴズ一族だからね、殺されるのを黙って見ている事なんて出来ないよ…」
オムはハッ…と短い溜め息を吐いて言った。
「…君は随分とおめでたい頭をしているな、レム君…」
「はあ…?」
「私がゼムを助けたのは“ヤツは利用価値がある”と踏んだからだ。肉親の情などでは断じてない」

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