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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 307

「何故だ!!?ずっと座して事の成り行きを見守っていたクセに!!なぜ今になって急に!?」
「それが…どうやら原因は我々のようなのです…」
「はあぁっ!!!?何で我々が関係あるのだ!!?」
「実は…ナスィーム太守家は先祖を遡ると前イルシャ時代にイシュマエル家から分家した傍系に当たりまして…それでイシュマエル・アクバルは『同族に惨い仕打ちを与えたヤヴズ一族を断じて許さぬ』と…」
「――――っ!!!?」
絶句するザム。
彼は自らの足元に侍るナスィーム太守の妻子を見た。
(あぁ…っ!!思えばワシはこの一族にもっと配慮すべきだったのだ!!もっと大切に扱うべきだったのだ!!)
だがもう遅い。
取り返しはつかない。
後から後から悲痛な表情をした部下達が駆け込んで来て、耳を塞ぎたくなるような報告をもたらす。
「ほ…報告!!イシュマエル・アクバル率いる軍勢が我がナスィーム州に向かって進軍を開始!!その数……約15万!!!!」
「報告!!将軍閣下に王都の大執政閣下より召喚命令です!!なお、大執政閣下は大変なお怒りとの事!!」
「…あ…あぁぁ…」
ザムは頭を抱えた。
(何という事…ワシのせいでイシュマエル家を敵に回してしまったというのか…このままではワシは殺される!怒り狂ったジェムに殺される!そうだ!あの世にも残虐な真鍮の雄牛に入れられて灼熱の中で絶叫しながら蒸し殺されるのだ!!嫌だ!!ワシは死にたくない!!何か…何か無いか!?ワシが助かる方法は…!!)
ふと顔を上げたザム…その目にファフラビが映った。
彼も不安げな表情で、自らの側近達と何やら話し合っている。
コイツだ!!…とザムは思った。
彼はファフラビとその配下の軍に、自らが生き延びる唯一の道を見付けた。
「ファ…ファフラビ将軍!!」
「…はあ?何か?我々はこれより陣に戻り、今後の事について打ち合わせねばならぬので、そろそろ失礼したいのですが?」
今までとは打って変わって強気になるファフラビ。
それはそうだ。
ザムがジェムの不興を買ってしまった今、もはや彼に媚びる必要性は全く無くなってしまったのだから。
「ま…まあまあ、そうツレない事を言うな…。き…貴殿とワシの仲ではないかぁ…」
「…はいぃ?」
「こ…今回の件だが…水に流そうと思う…そう!これは事故!不幸な事故だったのだ!だ…だからこのような金など受け取る訳にはいかん!うん!その兵士も無罪放免とする!連れて帰ってくれて構わん!」
ザムは金塊とパサンを差し戻す…どころか掌を返したようにファフラビに媚び始めた。
ファフラビは眉を顰めながら問う。
「……貴殿の目的は、何だ?」
「…我らで力を合わせてイシュマエルを討つ!!」
…それがザムが(自分が助かるために)導き出した答えだった。
「「「……」」」
「そ…そういう事だ。力を貸していただけぬかぁ…?ファフラビ将ぐn…」
「ふざけるなっ!!!馬鹿も休み休み言え!!」
ファフラビはキレた。
「貴殿も今聞いたであろう!!イシュマエル軍は15万!!我々は私と貴殿の軍を合わせても5万弱…まず勝ち目はあるまい!!」
「れ…劣勢は承知している!!だからこそ貴殿に頼んでいるのだ!!き…貴殿は3万の兵で8万のナスィーム州軍を破ったではないか!!た…頼む!!この通りだ!!助けてくれぇ!!ワ…ワシはまだ死にたくないんだよおぉぉっ!!!」
終いにはザムはその場に泣き崩れ、ファフラビの足にすがりついて哀願し始めた。
「何と情けない…貴様それでも将軍かぁ!!?フンッ…所詮は大執政の血縁というだけで取り立てられただけの小役人だったという訳だな…離せっ!!」
「ああぁぁぁぁっ!!!待ってくれぇ!!!ワシを見捨てないでくれえぇぇ!!!」
「…ファフラビ将軍!」
見かねたザム配下の騎士の一人が進言する。
「失礼ながら…確かに我らはナスィーム州の太守一族をはじめ、その臣下達、そして領民達に対して酷い仕打ちをいたしました!それはイシュマエル家に敵意を向けられる理由としては充分でしょう!…しかしそれに関しては貴殿らも無関係とはいきますまい!なぜなら実際にナスィーム州軍を討ち破ったのは貴殿らなのですから!!…それを知ればイシュマエルはきっと貴殿らも敵対視いたしましょう!解りますか!?我々は同じ立場なのです!」
「そのような事…承知の上だ!その上で私は貴軍との共闘は拒否する!」
「な…何故だあぁ!!?そんなにワシが嫌いかぁ!!!」
ザムが叫んだ。
「ならば…」
ファフラビは先ほど死んだ老騎士を指差して言う。
「…彼を生き返らせる事が出来たら、私は貴殿らに力をお貸ししよう」
「……っ!!!?」
再び絶句するザム。
それは無理だ。
死んだ人間は生き返らない。
この世界に存在するどんな高等な魔術を使ってもそれだけは不可能なのだ。
「…そういう事だ。もう我々は共に轡(くつわ)を並べて戦えるような関係にはなれない…いや、なりたくない!…では、これで…」
そう言うとファフラビは側近達と共に老騎士の死体だけを回収して帰って行った…。
一方、金塊と一緒に取り残されたパサンは、風雲急なる展開と自身の行く末に戸惑うばかりであった…。
(俺、どうなるの!?)


広間を後にしたファフラビ達は…
「それにしてもマズい事になった…」
「ですな…あの騎士の言っていた通り、イシュマエル参戦の理由がナスィームの仇討ちならば、我々もその“仇”の対象範囲内ですぞ」
「…いや、仇討ちというのは建て前で、イシュマエルは単にヤヴズ憎しの感情で動いただけではありますまいか?」
「うむ、イシュマエル・アクバルのヤヴズ嫌いは有名だからなぁ…」

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