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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 306

「…どうぞ、併せてお納めください!」
「……」
ザムは黙ってその供物台の上の金塊を見ている。
「…ザ…ザム殿?いかがなされましたか…?」
「…いやぁ…これだけなんだなぁ…って思ってさぁ…」
「…はいぃっ!?」
「…だからぁ…お前達が今回の件で我々に対して申し訳無いと思う気持ちは『これだけなんだなぁ…』って思ったの……解る?」
「…はっ!!ひょ…ひょっとして足りなかったでしょうか!?」
「さぁ〜?どうでしょうねぇ?」
小馬鹿にするように言うザム。
ファフラビの側近達は顔を真っ赤にして震えている。
「ば…倍!!」
ファフラビは言った。
「本日持参した倍の量の金を明日にでも持って参ります!!」
「んん〜?聞こえなぁ〜い」
「うっ…三倍!!」
「……」
「……?」
「…ハァ…」
「…あっ!!ご…五倍!!い…いえ!!十倍!!」
「…お前、そんなに急に用意出来んのかぁ?」
「……」
ファフラビは黙ってしまう。
「……ヒャハハハ!!!」
突如ザムが笑い出した。
「金塊はそれでかまわん。」
ファフラビの側近たちはあからさまに安堵するが、ザムは続けた。
「だが…誠意の示し方ってものは他にもあるんじゃないのかい?」
「と…申しますと?」
「お前の末娘、たいそう美しいと聞いたのだが…」
ファフラビが一瞬凍りつき、そして次の瞬間憤怒に顔面が真っ赤になった。
「こ…ここまで侮辱されて黙っていては騎士としての面目が立たん…っ!!」
ついにファフラビの側近の一人である老齢の騎士がそう叫び、剣の柄に手を掛けた。
「ば…馬鹿!!」
「早まるなぁ!!」
周りの者達が慌てて止めるが遅かった。
「ひいぃっ!!!?」
まさか抜くとは思わなかったザムは驚いて情け無い悲鳴を上げ震え上がる。
「きき…貴様ぁ!!?ぬ…抜いたなぁ!!?今この瞬間、貴様は国に逆らう反逆者となったぞぉ!!!貴様だけではない!!!貴様の主君も同罪だぁ!!!ヤヴズ家の者に刃を向けるという事がどういう事か、その身をもって思い知るが良い!!!!」
たちまち武装した兵士達が広間に雪崩れ込んで来て、一同を取り囲む。
「クッ…まさかこんな事になるとは…」
「こ…こうなったからには、むざむざ殺されてやる事もあるまい…」
「おう、あの腐れ外道にせめて一太刀でも…」
「あぁ…これが我らの最期か…」
まさかの展開にファフラビも他の側近達も覚悟を決めて剣に手を掛けた…ところがである。
「ファーッハッハッハッハァッ!!!!これは片腹痛い!!!この剣、誰が貴方に向けると申した!!?ヤヴズ・ザム殿!!!」
高らかに笑ってそう言ったのは、剣を抜いたあの老騎士である。
「な…何だとぉ!!?今さら言い訳とは見苦しいぞ!!!」
「言い訳かどうか、その目でご覧あれ!!!」
老騎士は剣を返し、その切っ先を自らの喉元に当てがった。
「な…何をする気だ!?」
「まさか…っ!!」
ファフラビと側近達は慌てた。
老騎士はザムをキッと見据えて言う。
「ヤヴズ・ザム殿!!貴殿に真のイルシャ騎士の死に様という物をお目にかけてしんぜよう!!」
次の瞬間、老騎士は躊躇う事無く自らの喉を掻っ捌いた。
「「「キャアアアァァァッ!!!!?」」」
女達の悲鳴が響き渡る。
鮮血が勢い良く噴き出し、石の床に見る間に血溜まりが広がった。
「い…いひいいいぃぃぃっ!!!?」
ヤヴズ・ザムは金切り声を上げて失禁した。
当の老騎士は平然たるもの、あまつさえ微笑さえ浮かべている。
そのまま彼は前のめりにバッタリと倒れて息絶えた。
「…あ…あぁぁ…」
もはやザムは先程までの虚勢はどこへやら、完全に萎縮しきっている。
「「「……」」」
ファフラビと他の側近達も唖然としていた。
誰も、何も、言わない。
もはや如何ともし難い状況である。

そこへ…
「…ヤヴズ・ザム将軍閣下に至急のお知らせぇ!!将軍閣下ぁ!!一大事にございますぅ!!…っ!!?」
ザム配下の騎士が息を切らして広間に飛び込んで来た。
彼は広間の異常な光景(元から異常という話もあるが)に一瞬怯んだものの、すぐ気を取り直してザムに報告した。
「将軍閣下!たった今入った魔信(魔導通信)の報告によりますと…」
「…ぁ…ぅえあぁ…?」
「心してお聞きを…イシュマエル家が…イシュマエル・アクバルが反ヤヴズ・ジェム閣下の立場で挙兵したそうでございます!!」
「い…いい…イシュマエルがぁっ!!?そ…それは本当かぁっ!!?」
ザムは激しく動揺する。
それはもう、今さっき目の前で壮絶な死を遂げた老騎士の事など吹っ飛ぶぐらいに…。
いや、彼だけではない。
イシュマエル起つ…その報はこの場に居合わせた全員を動揺させるのに充分なインパクトであった。

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