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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 302

(ヤバイ!俺、死ぬ!)
パサンは思った。
敵騎兵が地響きと土煙を伴いながらどんどん近付いて来る…。
指揮官の号令はまだ無い。
パサンはふと股間が生暖かくなったのを感じた。
小便を漏らしたのだ。
パサンだけではない。多くの兵士が恐怖で漏らした。
脱糞した者もいた。
だがもう皆そんな事どうでも良かった。
敵騎兵は目前…
もう敵の表情まで判る…笑っている…いや、引きつっているのか…どうでもいい…死ぬのだ…殺されるのだ…
その時、指揮官が剣を振り上げて叫んだ。
「撃てえぇぇーぃっ!!!!」
皆は引き金を引いた。
訓練した通りに…

 ズダダダダダアアァァァァー―――ンッ!!!!

途端に迫り来る騎兵達が目の前(と言っても五十メートルほどはあるのだが)でバタバタと倒れた。
突然…あまりにも突然の大逆転に兵士達も半ば唖然とする。
「前列、後退!後列、前へ!」
指揮官の号令に我に返り、後ろへ下がる。
代わって後ろに控えていた二列目が前に出て、倒れた味方に前進を阻まれて詰まった敵に第二射目を叩き込んだ。

その後は…もう一方的な虐殺だった。
三列交代で、最前列が撃ったら後ろへ下がり弾込め、次の列が前に出て撃つ…の繰り返し。
敵はと言えば、一旦始めてしまった突撃を止める事が出来ず、後から後から突っ込み続けて、銃撃の餌食となる哀れなる生け贄を送り込み続けた。
敵は信じていたのだ。
いかに新兵器の威力が凄くとも、圧倒的な軍勢を投入すれば必ず打ち破れると…。
結果、八万の大軍の九割九分を損耗するまで、この愚行は続けられた。
まさに一度発動すれば止まらない、残酷な大量虐殺装置が完成したのである…。
だがナスィーム州軍の指揮官達が特に無能だったという訳ではない。
太守を始め、彼らは今まで何百年と続いた旧時代の戦法でなら、そこそこ良い戦いをしただろう。
つまり名将でも愚将でもなく“凡将”だったのだ。
突如として目前に突き付けられた全く新しい戦法を前にして、頭を切り替える事が出来なかったのだ。
ナスィーム州軍は八万の将兵ことごとく討ち死にし、残り僅か千人たらずになった所で、ようやく太守自らが突撃中止の命令を下した。
あまりに遅すぎた決断だった。

事ここに至ってナスィーム太守は腹を括った。
「…皆の者、もはや大勢は決した。この上は潔く敵陣に斬り込んで、華々しく散ろうではないか!!」
「「「…っ!!!!」」」
皆は息を呑んだ。
「お…お待ちください父上!!」
彼の息子が異議を唱える。
まだ若い彼は死にたくなかった。
「おそれながら…降伏という選択肢も…」
「…無い!!」
太守は即否定する。
「王家に寄生し、国家を私物化する奸賊の軍門に降るぐらいならば、最期まで戦って戦場の露と消えた方がマシじゃ!!」
「そ…それならば後退して籠城戦を…」
「それもならん!!州都には籠城できる程の食糧の蓄えが無い!!飢えと渇きで餓鬼のようになった所を攻め込まれて終いじゃ!!そんな事になるぐらいならば、今まだ気力が充実している内に残り全員で敵に突っ込み、敵兵の一人でも二人でも道連れにしてやろうではないかぁっ!!」
「くっ…父上!御免!!」
そう言うが早いか、太守の息子は父の胸を剣で貫いたのだった。
「ぐあぁぁっ!!?ば…馬鹿な…血迷ったか…」
「フンッ…悲壮美に酔って命を捨てたがる愚か者と心中するのは御免だからな…」
息子は父親の亡骸を見下ろして吐き捨てる。
そしてナスィーム州軍は討伐軍に降伏した…。

「お…終わったんだ……」
敵陣に翻る白旗を見たパサンは全身の力が抜けて、その場にヘナヘナとへたり込んだ。
隣の兵士が笑いながら話し掛けて来る。
「ハハハ…パサン、お前漏らしてるじゃねえか…」
「へへ…そう言うお前だって…」
「あぁ…でも俺達、生きてるんだな…」
戦場には敵の死体の山が築かれていた。
味方も少なからず死んだ。
僅か数時間の間に一体どれだけの命が散って逝ったのだろう…。
そう思うと自分達が生きている事が、ちょっと信じられない気分だった。
カシールとレザも生きていた。
「…うおぉぉっ!!!!うおえああぁぁぁっ!!!!うおえぇぇぇっ!!!!」
カシールは地に平伏して大声で泣きじゃくっている。
彼は大小便を漏らしていた。
「……」
その隣ではレザが無感動に突っ立っている。
意外にも彼は小便の一滴すら漏らさなかった。

その後、ナスィーム州都への入城を前にして両軍の指揮官達の間で会談の場が持たれた。
ファフラビ将軍はナスィーム州軍の降伏を受け入れ、降伏した全ての将兵の罪を問わない事を約束、さらに士族階級には身分の保証と帯剣まで許した。
寛大な処置に太守の息子を始めナスィーム州軍は感謝した。
ところが、
入城を前にして事態は一変する。
「ファフラビ将軍閣下に至急のお知らせぇっ!!」
「何事だ?」
「王都のヤヴズ・ジェム大執政閣下より書状でございます」
「ふむ…」
ファフラビはそれを受け取って読んだ。
「何ぃ…っ!?」
一瞬、彼は明らかに不快そうに眉をしかめたが、やがてフゥ…と溜め息を吐くと、部下達に向かって信じられない事を言い放った。
「…皆、よく聞け。我が軍はまだナスィーム州都には入城しない…否、出来ないのだ」
「はあっ!!?」
「ど…どういう事でございますかっ!!?」
「実は…いま討伐軍の別働隊がナスィーム州都に向かって進軍中で明日には到着するそうだ。入城一番乗りはそちらに譲って欲しいと…」
「「「…っ!!!?」」」
部下達は彼の言葉が信じられなかった。

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