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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 301

「うぅ〜っ!!うぅぅ〜っ!!!ううぅぅぅ〜っ!!!!」
カシールは全身をガクガクと痙攣させるように震わせながら銃身を曲がるほど固く握り締めて恐怖に耐えていた。
周りで仲間が一人、また一人と敵の矢に倒れていく…。
即死する者もいる。
運悪く死ねず、わめき、のたうち回る者もいる。
次は自分の番かも知れない…いや、このまま続けば時間の問題だ…そう思うと恐怖で発狂しそうになる。
そして同時に狂おしいまでの生への欲求…。
生きたい…死にたくない…こんな場所、今すぐ逃げ出したい…。
「…ぐぁっ!!?」
カシールのすぐ隣で短い悲鳴が上がった。
それは彼の熱狂的忠君愛国主義者の仲間の一人だった。
片目に矢が深々と突き刺さったその兵士はバタリと倒れた。
幸か不幸か、矢は脳まで達していたらしく、彼は即死だった。
だが、倒れる一瞬、カシールは彼と目が合ってしまった。
『…何で…何で俺なんだよ…他の誰でもなく…どうして俺なんだよ…教えてくれよ…カシール…』
クワッと大きく見開いた片目が、そう語りかけてきた(…ようにカシールには思われたのだ)。
「うあああぁぁぁぁぁぁっ!!!?」
カシールの中で何かが切れた。
彼は叫んだ。
銃を放り出して暴れ始めた。
「カシールが狂ったぞぉ!!」
「取り押さえろ!!」
「うああぁぁぁぁっ!!!!離せぇっ!!!はなせえぇっ!!!」
数人がかりで押さえつけるが、物凄い馬鹿力で抵抗するカシール。
その時だった。
「も…もう耐えられない!!俺は逃げる…!!」
ついに一人の兵士が銃を放り捨て、隊列を離れて逃げ出した。
「お…おい!待たんかぁ!!」
それに気付いたサラームが短銃を構えて叫ぶ。
だが兵士は止まらない。
「くっ…」
サラームは狙いを定める…が、引き金に掛けた指が動かない。
だが次の瞬間…

 パァーンッ…

一発の銃声が響いて、その兵士は倒れた。
腹を撃ち抜かれた彼は、地面の上で苦しみ、もがいている。
「「「……」」」
皆は彼を撃った者の方を見た。
視線の先にいたのは…涙目でガタガタと震えながら硝煙のくすぶる短銃を構えた…ハディードだった。
「ちゅ…中隊長殿…」
サラームも、他の皆も、その光景に目を疑った。
何より当のハディード自身が“信じられない”という顔をしているのだから。
「…うっ…オエェッ…オゲエェェ…」
ハディードはその場に崩れ落ち、地面に吐瀉物をぶちまけた。
「ちゅ…中隊長殿…!」
サラームが慌てて駆け寄る。
「…だ…大丈夫…大丈夫だ…小隊長…」
助け起こそうとするサラームをハディードは片手で制し、フラフラと立ち上がる。
その姿に皆は息を呑んだ。
あの家柄だけが取り柄だったヘタレのボンボンが今、必死に己に与えられた使命を果たそうとしているのだ。
彼が撃った兵士はもうグッタリとして、血溜まりの中でピクピクと痙攣していた。
「うおぉ〜っ…うぉっ、うっ、うぐおぉ〜っ…」
一方、カシールは数人がかりで組み伏せられ、激しく嗚咽していた。
「うっ、うぇっ、も…もう嫌だぁ!帰りたい…家に帰りたいよぉ!ママの所に帰りたいよおぉ!うええぇぇぇっ!!」
泣きじゃくるカシールの前に一人の兵士がつかつかと歩み寄る…と次の瞬間、彼はカシールを思いっ切りブン殴った。
「いつまでもギャアギャア喚いてんじゃねえ!!」
レザだった。
「このヤロウ…ふざけやがって!普段はデカい口を叩いていやがったクセにイザとなったらこのザマか!…立て!ほら!立てよ!!銃を持て!!もう敵は目の前に迫ってるんだ!!泣き喚いてる場合じゃねえんだよ!!ママに会いたかったら戦え!!戦って生き残るんだ!!」
レザはカシールの襟首を引っ付かんで無理矢理に立ち上がらせると、落ちていた銃を拾って彼に持たせた。
「…うっ…うぅ…うえぇ〜!!ママぁ!!ママぁ…!!」
カシールは幼子のように泣きじゃくりながらも銃を握り締めて立ち上がる。

パサンはそれら一連の光景を息を飲んで見ていた。
戦場とは、人が試される場でもあるのかも知れない…と彼は思った。
生と死の交錯する究極の状況下で、ある者は最も醜い部分をさらけ出す…だが逆に、最も気高い部分も…。

そんな事を考えていると誰かが叫んだ。
「敵が来るぞぉ!!」
どうやら敵軍が突撃の構えを見せて来たようだ。
ついに本当の戦いが始まるのである。
「…中隊、射撃姿勢を取れぇっ!!」
ファフラビ配下の指揮官の号令に、兵士達は一斉に敵陣へ向けて銃を構えた。
彼らを守っていた槍兵部隊は既に射線上から退避している。
つまり彼ら銃兵部隊が敵前に晒されているという事だ。
もしここに突っ込まれれば待つのはさぞかし悲惨な結果だろう…。
ファフラビ配下の指揮官が叫ぶ。
「良いか!私の命令があるまでは絶対に発砲するな!タイミングを誤れば全滅だからな!なお、撃ち漏らした敵兵の掃討は側面支援担当の槍兵部隊に任せ、貴様らはただただ敵陣中央に銃撃を叩き込む事だけに集中すれば良い!解ったな!」
そしてついに敵軍が突撃を開始した。
まず騎兵部隊、その後に歩兵部隊が吶喊(叫び)しながら突っ込んで来る。

 ドドドドドドドドドドドド…

八万の人馬が一斉に移動する衝撃に大地も揺らぐ。
果たしてこの大軍を僅か三万…半分以下の兵で受け止められるのか…皆の胸に不安感が生じ始める。
ドォンッ…ドォンッ…という音が辺りに響き始めた。
味方の砲兵部隊が砲撃を始めたのだ。
それは一発ごとに敵騎兵を2〜3騎ほど吹き飛ばしたが、今や天から地へと駆け下るが如き勢いで攻め寄せて来る八万の大軍にとっては蚊に刺された程度であった。

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