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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 31

アリーは尋ねた。
「…それで黄色と緑、どちらの跡へ陣地を移すつもりですか?」
「そうですねぇ…」
サーラはパサンに手渡された地図を眺めて少し考えてから、皆にも聞こえるよう大きな声で答えた。
「決めました!黄色チームの陣地跡へ移動します!…セイルくん」
「はい、何でしょう?」
「あなたには旗手になってもらいます。もし移動中に敵に襲われた時には何としてでも旗を守り抜いてください。あなたの任務は大変重大ですよ」
「ぼ…僕にそんな大役を!?無理です!!出来ません!!」
全力で拒否するセイル。そんな彼の両肩にサーラは手を置いて言った。
「いいえ、セイル君。いざという時には戦いながら旗を守る…これはあなたにしか出来ない任務です。あなたを見込んで頼んでいるんです。もちろん私達も全力であなたを守りますよ。お願い出来ますか?」
「…それは命令ですか…?」
「命令ではありません。一応あなたには拒否する権利がありますが…」
「……解りました。やりますよ」
セイルは一瞬の逡巡を見せたが、やがて溜め息混じりに答える。それを見たサーラの表情がパッと明るくなり、彼女は言った。
「ありがとうございますセイルくん!さぁ!行きましょう皆さん!」
「「「おぉーっ!!!!」」」

(ついに来た!この時をずっと待っていたんだ!)
その場面を皆とは異なる興奮で迎えていた男がいた。タルテバだ。彼はスパイだった。送り込んだのは…言わずと知れたジェムだ。
(サーラ姫は黄色チームの跡地に陣を移す!この情報を一刻も早くジェムの元に届けなければ!)
タルテバはチラッとドルフの方に目をやった。ドルフは呑気にアクビをしている。タルテバは思った。
(…こいつは使い物になりそうに無いな。まあ良い。こっちにも監視要員は必要だ。それぐらいならこの腕力だけが取り柄の馬鹿にも出来るだろう。ここはやはり僕自身が走らなければならないか…いや、それも良い。僕の手によって青チームに勝利がもたらされるんだ。そうすればジェムの奴だってこの僕の力を認めざるを得ないだろう…)
そう考えたタルテバは急に腹を押さえて苦しそうにうずくまった。
「う…うぅ〜…」
それを見たサーラは尋ねる。
「アサド・タルテバ君、どうかしましたか?」
「す…すいません…急にお腹が痛くなってしまいまして…ちょっと失礼させていただきます…いえ、なに…本当にほんのちょっとですから…済んだらすぐに戻りますんで…はい」
「ハァ…解りました。行ってらっしゃい」
「はい!それでは…」
タルテバは茂みの中へと消えて行った。

(やった!上手く抜け出せたぞ。後は青チームの陣地へ向かうだけだ!)
タルテバは一目散に走った。目指すは青の陣地だ。走りながら彼は思う。
(ククク…ジェムの野郎、これでこの僕を見直すぞ。何てったって僕が奴に勝利をもたらすんだからな。もう僕の実力を認めざるを得まい!そして僕は卒業後、ジェムの下で出世するんだ!いや、それだけじゃない。僕はいつかジェムだって超えてやる!そして偉くなってやる!偉くなって僕を馬鹿にした奴らを全員見返してやるんだ!)
彼はセイルと同じ士族階級だったが、彼の実家アサド家の家格は士族としてはかなり下の方で、幼い頃から貧しい暮らしを強いられて来た。
士族や貴族と言っても下の方になると悲惨な物で、平民と殆ど変わらないかヘタするとそれ以下だ(経済的な側面から言えば商人の方が遥かに裕福と言って良いだろう)。時には士族としての矜持を曲げて平民に頭を下げねばならない場面さえ少なくない。タルテバの屈折した性格と上昇志向はそういう所に起因していた…。

「そうか…では今現在赤チームの旗は黄色チームの陣地へ向かって移動中という訳だね?」
「はい!ジェムさん」
タルテバの報告を受けたジェムは直ちにシャリーヤに命令した。
「聞いた通りだ。全兵力の三分の二を連れて赤チームの旗を穫りに行け。僕はここで吉報を待っているよ」
「はっ」
シャリーヤ達は出発して行った。その背を見送りながらジェムは余裕の表情でつぶやく。
「フッ…勝ったな。しかしあの聖剣の勇者クンと一度も刃を交える事無く終わってしまうのは残念でもあるなぁ…」
本陣に三分の一を残したのは白チームを警戒しての事だ。聞けば旗手はあのセイルだという。本来ならば自ら出向いて戦いたい所だが(白チームという何を考えているのか良く解らない未知の脅威が存在し続けている以上)大将が軽々しく本陣を空けて出て行く訳にはいかない。
ジェムは思い出したようにタルテバに労いの言葉をかける。
「そうそうタルテバくん、ご苦労だったね」
「いっいえ、こんなのたいした事じゃないですよ!(おい、それだけかよ!こっちは苦労して、お前に貴重な情報を提供したんだぞ!)」
タルテバはジェムの労いの言葉を素直に喜ぶが、本心では労いだけの言葉だけで見返りの約束がないのを苛立っていた。

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