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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 299


しかし、彼らがいざ戦場へ到着してみると、まさに予想外とも言うべき事態が待っていたのである。
「…ええぇぇぇっ!!!?もう戦いは終わったぁ!!?」
「そうだ。逆賊アルシャッドはヤヴズ・ジェム閣下御自らが御成敗なされた。それに伴い反乱軍も瓦解…自然消滅だ。閣下も既に王都へお戻りになられた。お前達、来るのが少し遅すぎたな」
国軍(今や事実上ジェムの配下)の将軍の一人から事情を聞いたハディードは驚いた。
そして思った。
(…という事は…我々は戦わなくても良いという事じゃないか!!やった!!帰れるんだ!!)
ハディードは喜びで顔がほころびそうになるのを耐える。
戦場で手柄を立てる機会が無くなったが、そんな事を残念がるヤツは彼の率いるイスカンダリア市義勇軍には居ない。
戦争が楽しみだと豪語していたパサンやカシールだって喜ぶだろう。
何と言っても無事で帰れるのだ。
こんなに嬉しい事は無い。
…ところが、その希望は将軍の次の言葉によって終了した。
「…ま、遅すぎという事は無いか…まだまだ活躍の場は残っているからな」
「…は?しょ…将軍、それは一体どういう意味ですか?」
「どういう意味って…あのなぁ、我々が何のために未だ当地に留まっていると思っておるのだ?残敵掃討のために決まっておろうが!…イルシャ・サーラを始め、反乱軍に同調して挙兵した者達は大勢いる。これらを見逃す訳にはいくまい?それに反乱軍の残党共の一部が盗賊化し、各地で治安を乱し始めている。これら全てを掃討するまで戦いが終結したとは言えぬぞ」
「そ…そんな…」
ハディードは一転、見る間に顔が青ざめて気色が失せていく。
その様子を将軍は訝しげな目で見て言った。
「何だその顔は?まさか戦わずして帰れるとでも?」
「め…滅相も無い!」
「そうだな。武人として戦いで名を上げる機会を得られた事を幸運に思うが良い!ハッハッハッ!」
「あはあは…」
ハディードは泣きたい気分だった。

…その後、事の次第は兵士達にも伝えられた。
彼らは反乱軍に呼応して挙兵した一州に対して差し向けられる討伐軍の指揮下に加わる事が決まった。
兵士達は愕然とした。
「う…うぅ…うぅぅ…」
レザはガクガクと震えながら地面に突っ伏して、さめざめと泣き出した。
「うおおおぉぉぉぉぉぉ…っ!!!!」
カシールは絶叫した。
彼はあらん限りの声を張り上げ獣のように叫んだ。
彼は戦いを前にしての猛りのように装っていたが、それが恐怖から来ている事は誰も解っていた。
王太子が死んで反乱軍は瓦解したと聞いた時、彼が一瞬だけ見せた、心の底からの安堵の表情を皆は見逃さなかった。
ハディードは言う。
「みんな…聞いてくれ…我々はファフラビ将軍配下の部隊としてナスィーム州討伐作戦に参加する事となった…想いはそれぞれと思うが、これが俺達の使命だ…腹を括ってくれ」
「「「……」」」
皆は一様に不安げな表情を浮かべながらも黙って頷いた…泣きじゃくるレザと叫び続けるカシールを除いて…。

彼らが討伐軍に編入されるに当たって、全員に小銃が支給された。
というのも軍司令官のファフラビ将軍というのが大の“西方かぶれ”であり、西大陸の最新戦術を自らの軍にも取り入れていたからであった。
「こんなモンで戦うのかぁ…?」
パサンは与えられた銃を構えて撃つ真似をしながら言う(もちろん弾は入っていない)。
仲間の兵士達も口々に疑問や不満を口にした。
「うわっ、重…こんなの担いで戦場を走り回らなきゃならないのかよ…」
「いや、そんなに走り回る事は無いらしい…聞いた話だが、隊列組んだまま行進して、合図で一斉に撃つらしいぜ?」
「えぇっ!?じゃあ手柄を立てる機会は…?」
「無いだろ…そういう戦い方じゃあ…」
「な…なんか、想像してた戦争と違うな…」
「ふ…ふざけるなあぁぁーっ!!!!」
叫び声に皆が一斉に振り向くと、またカシールが顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。
「こんな武器は騎士道精神に反する!!剣一本、槍一本で敵陣に斬り込み、白刃を交えて戦うのが真のイルシャ騎士ではないか!!大勢で固まって飛び道具で一斉に攻撃するなど臆病者のする事だ!!俺はこんな武器を使う事は断固拒否する!!」
カシールは銃を地面に叩き付けようとしたが…。
「オイやめろ馬鹿!!それ一丁でお前の年収なんて軽く上回る額だぞ!!」
仲間の一人がそう叫ぶのを聞いて、彼は黙って銃を下ろした。

一方、指揮官であるハディードとサラームはファフラビ将軍の天幕に呼び出されていた。
「来たな」
ファフラビは珍妙な服装をしていた。
西大陸風の鎧に身を包み、その上からイルシャ風のドルマン(前面に肋骨状の紐飾りのある軍衣)を羽織り、腰にはこれまた西大陸風の革ベルト、剣はイルシャで主流の三日月型の細身の曲刀…つまり東西折衷であった。
彼は軍装のみならず、普段の衣服も、屋敷も、食事も、全てがこんな調子なのだった。
この天幕の中の調度品も西大陸風の物とイルシャ風の物が入り乱れていた。
(カオスだ…)
ハディードは思う。
サラームも何と言って良いか解らず口をつぐんでいる。
当のファフラビは侍従に何かを持って来るよう命じた。
「おい、あれを…」
「かしこまりました」
やがて侍従は二丁の銃を持って持って来た。
だがそれは兵士達に与えられた物とは異なり銃身の短い“短銃”だった。
「それを君達に与えよう」
「「ははあ!」」
二人は銃を受け取った。
なるほど、指揮官は直接攻撃には参加しない。
これは身を守るための用心という訳だ。
だから小型で携帯しやすい物でいいという訳だ…そう二人は思った。

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