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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 298

あわや刃傷沙汰かと思われた矢先…
「そこまでっ!!!!」
「「「…っ!!!!」」」
突如として響き渡った一喝。
サラームだ。
その後ろではハディードが困惑した表情でオロオロしている。
「カシール、ここはひとまず剣を収めろ」
「うぎぎぎぎぎぎ…っ!!!!」
自身の信条が絶対のカシールも、このサラームにだけは一目置いていた。
彼は剣を収めると、レザを殺す勢いで睨み付けながら立ち去って行ったのだった…。
「「「ふぅ…」」」
皆は安堵の溜め息を吐く。
「ありがとうございます、小隊長殿。助かりましたよ…」
パサンはレザに代わりサラームに礼を言った。
「気にするな。これも俺の仕事だ」
レザはふてくされたようにつぶやく。
「…余計な事しないでくれれば良かったのに…」
兵士の一人が言った。
「この馬鹿野郎!一体なに考えてんだよ!?カシールみたいなプライドの塊みたいな馬鹿を怒らせたりしたらお前マジで殺されるぞ!?」
「アイツに人を殺す度胸なんて無えって…まあ半殺しにはさせられるかも知れねえどな…てゆーか、ぶっちゃけそれを狙ってたっつーか…」
「お…お前!負傷すれば戦闘に参加しなくて良いと思って…!」
今まで黙っていたハディードがサラームの後ろから口を挟む。
レザは言った。
「ケッ…こんな訳の解らない戦いで死ねるかってんだ。あなただって本心ではそう思ってるんでしょう?え?ハディード中隊長…。誰もがそこのパサンやサラーム小隊長殿のように強くないんだ。俺達は弱い人間なんですよ…」
だが…
「この大馬鹿野郎がぁっ!!!!」
「うぼあぁっ!!!?」
突如、サラームがレザに思いっきり平手打ちをお見舞いしたのだった。
レザは鼻血を噴き出させながら1メートル近く吹っ飛んだ。
「…な…な…な…っ!!?」
「この甘ったれがぁ!!若造が解ったような口を聞くなぁ!!恐怖と戦っているのが自分だけだなんて思ったら大間違いだ!!パサンも…ワシも…皆も同じく苦しんでるんだ!!」
「「「……」」」
殴られたレザはもちろん、他の皆もポカーンとしている。
サラームが大声を上げるなんて…ましてや手を上げるなんて、今まで見た事が無かったからだ。
「む…」
皆が固まっている事に当のサラームも気付く。
「す…済まん…ワシとした事が、少し取り乱した…」
そう言って彼はレザや皆に頭を下げ、その場を後にした。

少しして…
「サラーム…今、少し良いかな…?」
「中隊長殿…!」
サラームは野営地から少し離れた雑木林で素振りをしていた。
そこに現れたのはハディードだった。
サラームは剣を収めて片膝を付き、頭を深く下げようとしたが…
「…あぁ!良いって良いって…堅苦しいのは無し」
ハディードの手には酒の入った瓶と杯二つがあった。
「その…少し飲まない…?」
「これはこれは…ご一緒させていただきます」
「…うん」
ハディードの口元が少し緩む。

二人は地面に並んで腰を下ろした。
「ま、飲もうよ」
「いただきます」
ハディードはサラームの杯に酒を注ぐと、自分の杯にも注ぎ、クッとあおった。
それを見たサラームも杯に口を付ける。
しばらくは二人とも無言で飲んでいた。

やがて、ハディードが先に口を開いた。
「済まん…サラーム…」
「…なぜ中隊長殿が謝るんです?むしろ謝るのは私の方です。感情を抑えきれず…」
「い…いや!お前がした事は、本当なら俺がしなきゃいけない事だったんだ!…でも、俺は何も出来なかった…。情け無い話だが、俺はただお前の後ろでオロオロしてるだけで…。いつだってそうさ…。あぁ…サラーム、俺は本当に中隊長失格だよ。人をまとめ、導いていく能力も無いのに、家柄だけで選ばれた…。しかも部下にナメられないようにと、見苦しいまでに必死になって…自分のプライドを守るだけで精一杯で部下を気遣う余裕も無い…つくづく人の上に立つべき人間じゃないんだ…。お前の方がよっぽど中隊長に相応しい、サラーム。俺とお前が逆だったら良かったのに…」
「中隊長殿…」
ハディードがこんなに胸の内を吐露したのは初めてだったのでサラームは少し驚いた。
そして彼は言った。
「中隊長殿、あなたはまだお若い…これからです。これから成長するんですよ。最初から何でも出来る人間なんて居ません。今は…学び、吸収する時…修行期間とでも思えば良いのです。上手くいかなくて当たり前ですよ…」
「サラーム…」
「中隊長殿、焦らず一歩々々進んで行けば良いのですよ。中隊長殿に至らない部分があるというのであれば、僭越ながらこの老いぼれがフォローさせていただきます!」
そう言いながらサラームは自分の胸を拳でドンと叩いて笑った。
それを見てハディードも笑って言う。
「サラーム…ありがとう!俺、頑張るよ!まだまだ無力な中隊長だけど、これからも頼む!」
「ははは…お任せください!」
サラームは“ハディードは大丈夫だろう”と内心で思う。
彼は自分の無力さを自覚し、そして変わろうとしている…。
今まさに第一歩を踏み出した所だ。
まだ将来は判らない…だが、あるいは彼は名指揮官になるかも知れない…とも思った。

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