PiPi's World 投稿小説

剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 295
 297
の最後へ

剣の主 297

泣き出したサーラを逆にセイルが慰めるという本末転倒な構図に…。
だが次にサーラの口を突いて出た言葉は予想の斜め上を行く物だった。
彼女は縫合痕も痛ましいセイルの腕のあった場所を撫でさすりながら言った。
「嬉しい…!!こんな姿になってまで私のために駆け付けてくれたのね!?」
「そ…そう来る…?」
「しかも“こんな姿”って…微妙に失礼な物言いですね」
セイルを哀れんで泣いてくれた訳ではなかった。
まあ哀れまれる方が嫌か…ともセイルは思う。
サーラは泣きながら続けた。
「…アルトリアさんから聞いたわ。この傷、お母様に毒を盛られたのが原因なんですってね…それも嬉しい!セイル君はお母様より私を選んでくれたのね!」
「な…なぜ僕の母に対抗心を…?」
そもそも会った事も無いのに…。
ユーナックが補足説明する。
「愛する男が母親より自分を選んでくれたって、女子の本懐じゃん♪」
「私には解らないな…」
アルトリアは首を捻った。

兎にも角にも、こうしてセイルはサーラの陣営へ加わったのだった…。



…さて、ここで時間を少し遡り、アルシャッド王太子がジェムに殺された直後の頃の事…。

港湾都市イスカンダリアから義勇兵(事実上強制)として反乱軍(アルシャッド軍)討伐に参加する事となったセイルの友人パサンは、家柄だけが取り柄のポンコツ中隊長ハディードや、歴戦の勇士で頼りになる小隊長サラームらと共に、一路、戦場となっているイルシャ王国内陸部を目指していた…。

その途上、ある夜営地にて…
「もうすぐだなぁ!本物の戦争…く〜っ!腕が鳴るぜぇ!」
夕食時、兵士達は焚き火を囲みながら話し合っていた。
「パサン、お前、怖くないのか…?」
「怖い?そりゃあ全然怖くねえって言えば嘘だけどよ…でもそれ以上に楽しみだ!俺の剣が実戦でどれだけ役に立つのか、早く確かめてみてえ!」
パサンは肉のスープの入った皿と匙を地面に置くと、腰の剣を抜いて火の光にかざした。
「はあぁ〜…俺もお前みたいな楽観主義者になれたらなぁ…」
パサンに質問した兵士は、そう言って深い溜め息を吐いた。
「何だよレザ?お前は戦場に恐怖しか無えのか?」
「あ…当たり前だろ!?」
レザと呼ばれた兵士はパサンに言った。
「死ぬかも知れないんだぞ!?」
「そりゃそうだ。でもよ、そんな事考えてたら戦えねえじゃねえか」
「考えちゃうよ!むしろ考えないってどういう神経してんだよ!?」
「ちょっと落ち着けよ、お前」
「そうだよ。みんな不安な気持ちは同じさ」
他の兵士達がレザをなだめる。
レザは頭を抱えて震え始めた。
「俺は死ぬのが怖い…いつも自分が戦場で死ぬ時の事を想像しちまう…考えちゃ駄目だって解ってるのに…それで、怖くて、怖くて…気が狂いそうになるんだ…」
「この軟弱者めがああぁぁっ!!!!」
とつぜん輪の外から怒鳴り声がし、皆は驚いて一斉に振り向く。
熱血クソ真面目男のカシールが顔を真っ赤にして仁王立ちしていた。
事実上強制選抜の義勇軍に自ら望んで志願した物好きである。
それだけなら、まあ“物好きな馬鹿真面目野郎”で済むのだが、彼の場合、その馬鹿真面目さを他の連中にまで強要するから質(タチ)が悪い。
実際、仲間達と共にイスカンダリア総督マリクシャーの手先となって(もちろん当人達にそんな意識は無いが)義勇軍へ志願せねばならない空気を扇動して作り上げた。
彼ら自身は“自分達は正しい行いをしているのだ”という揺るぎない信念に従っているだけだ。
カシールは興奮して唾を飛ばしながらレザに向かって叫んだ。
「この腰抜けめえぇぇっ!!!死ぬのが怖いだとぉ!!?貴様それでも誇り高きイルシャ騎士かぁ!!?来い!!!俺が貴様の軟弱な根性を叩き直してやる!!!」
「ふ…ふざけんな!!この脳筋野郎!!死ぬのが怖いと思うなんて人間として当然の感情だろう!!?お前だって本当は怖いんだろう!!?」
「は…はあっ!!!?お…お…俺が死を恐れているというのか!!?馬鹿を言うな!!!俺は死など怖くない!!!この命を王家のために捧げる覚悟はとうの昔に出来ている!!!適当な事を言うなぁっ!!!!」
そう言うとカシールはレザを思いっきり殴り飛ばした。
「ぐふぅっ!!?」
「レ…レザ!?大丈夫か!?」
「カシール!何もいきなり殴る事は無いだろ!?」
兵士達はレザを助け起こす。
だがレザはカシールを見て吐き捨てるように言った。
「ヘッ…言い返せなくなったら暴力に訴えるのかよ…本当に分かり易いヤツだよ、お前は…」
「何だと貴様……もう一度言ってみろぉ!!!!」
「ほら!!そうやって大声で喚き散らすのは恐怖の裏返しだろう!!お前は他人はおろか自分さえも騙して生きる臆病者なんだよ!!俺は自分が恐怖している事を認めて受け入れてる!!つまりお前は俺より弱い人間なんだよ!!」
「「「……」」」
皆もう言葉が無かった。
一体どうしてしまったんだコイツは…?
「レザ……ブチ殺す!!!!」
カシールは剣を抜いた。
兵士達は大慌て。
ある者は必死にカシールをなだめすかし、ある者はレザを諫める。
「お…落ち着けよカシール!!!」
「レザ!!今のはさすがに言い過ぎだ!!カシールに謝まった方が良いよ!!」

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す