PiPi's World 投稿小説

剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 293
 295
の最後へ

剣の主 295

…どれぐらいそうしていただろう。
小一時間ほど経った頃、沈黙が支配していた室内に不意にノックの音が響き渡った。
「どうぞ?」
セイルが無反応なのでアルトリアが応じる。
「失礼いたします、クルアーン・セイル様。私、サーラ様の侍女をしております、イーシャと申します」
そう言いながら姿を現したのは、年の頃20前後の美しい女性であった。
「…何です?」
それでようやくセイルは、うざったそうにベッドから顔を上げる。
「はい、サーラ様がお呼びでございます。是非ともセイル様とお話したいと…ですが、お疲れのご様子ですね? お断りいたしましょうか?」
「え…?」
それを聞いたセイルの表情に少し明るさが戻った。
「(是非とも話したい…だって?…そうか…そうだよ!やっぱりサーラさんは僕を必要としてくれてたんだ!)…わ…わかりました!すぐに行きます!行こう!アルトリア!」
「はい、セイル様」
「あぁ、良かったぁ…ではご案内いたします。こちらへ…」
二人はイーシャと名乗った侍女の案内でサーラの待つ元へと向かった。

「セイル君!よく来てくれたわ!」
サーラの執務室にて、彼女は期待に目を輝かせてセイルとアルトリアを出迎えてくれた。
だがセイルはそれより気になる事を尋ねる。
「えっとぉ…何故に皆さんお揃いで…?」
執務室にいたのはサーラだけではなかった。
先程ラブラブっぷりを見せ付けてくれたユーナックを始め、サーラの側近連中がズラリと顔を揃えていたのだ。
「セイル君、君には訊きたい事が山ほどあるわ。何せヤヴズ・ジェムの側近として政権の中枢にいたんですもの。君の情報は貴重よ。色々と教えてちょうだい」
「……あ……あぁ…話したいって…そういう事ね…」
「…え? 当たり前じゃない。他に何があるの?」
「いいえ…」
そして、サーラや側近達は新都の様子やジェムの周辺の事について口々に質問した。
質問に答えながらセイルは思った。
(あぁ、そうか…この人が必要なのは僕じゃない…僕の持つ情報なんだ…さっき涙を流して喜んでくれたのも、これで敵の中枢の貴重な情報が手に入るから…僕自身との再会を喜んでくれたからじゃないんだ…)
かくして彼の気持ちは泥沼の中へズブズブと沈み込んで行くように落ちていくのだった…。

「もーイヤッ!!!!」
部屋に戻るなりセイルはそう叫んでベッドに倒れ込んだ。
「セイル様、お気を落とさないでください」
「あぁ…アルトリア、笑ってくれよ。この哀れな僕を…」
「そうご自分を卑下なさらないで…」
「はぁ…解ってるさ。仕方の無い事なんだ。人の心は変わる物…。僕はサーラさんの心を支配しようなんて思っちゃいない。あの人が幸せならそれで良いよ…でも…それでも…思わずにはいられないじゃないか!僕は一体何のためにここまで苦労して来たんだ!?…って!」
「お察ししますよ」
セイルをなだめすかしながらアルトリアは思う。
(それにしてもサーラ殿の態度も無いものだ。これは一言もの申してやらねば気が済まんな…)

その翌日、アルトリアはサーラの部屋を訪れた。
「お会いいただき光栄です、サーラ殿」
「こちらこそ、アルトリアさん。あなたの方から私を尋ねて来るなんて珍しいわね。で、今日はどういったご用件で?セイル君は居ないの?」
「居りません。サーラ殿、セイル様は非常にショックを受けておられます」
「はあ? どうして?」
キョトンとした顔で聞き返すサーラに、アルトリアは怒りを通り越して呆れた。
「…ご自覚が無いのですか…」
「はあ!?私が原因だっていうの!?」
「はい」
アルトリアはキッパリと言い切った。
「胸に手を当てて良ーく考えてご覧なさい」
「……」
サーラは考えた。
「……やっぱり身に覚え無いわよ!私セイル君が落ち込むような事なんかした!?」
「……」
あぁ…駄目だ…この女は…とアルトリアは思った。
今すぐセイルを連れて王都を去るべきかと本気で考える。
だが、もしこの女の心に一片でもセイルへの想いが残っていれば…と思い直し、彼女はサーラに告げた。
「…あなたと…あのユーナック殿との事ですよ!」
「ユーナック!?どうして彼が出て来……」
そこで黙るサーラ。
何か思い当たったようだ。
「…ちょっと待って!あなた達は“物凄い勘違い”をしてるわ!」
「勘違い?何を仰います。誰の目から見てもあなた方は恋仲ではないですか」
「私とユーナックが恋仲!?ウフフ…冗談じゃないわよ〜!アハハハ…ッ!」
「は…はあ…?」
急に大笑いしはじめたサーラにアルトリアは首を傾げる。
「はぁ…はぁ…あぁ〜、ごめんなさい。でも彼とは本当、そんなんじゃないのよ。だいいち彼は…」
サーラはアルトリアの耳元に口を寄せて何事か囁いた。
「……えっ!?…それは真ですか…?」
「本当よ。あんまり人には言わないようにしてるんだけど、そういう事なら仕方ないわね、セイル君にも教えておきましょう」

セイルはベッドから出る気にならずダラダラしていた。
何というか、何もやる気が起きない。
サーラは遠い僻地で頼る者も無く、きっと心細い思いをしているに違いない…だから何を置いても彼女の元へ行き、支えてあげたい…力になりたい…その一心でここまで来た。
だが現実は違った。
サーラは飛ばされた先で信頼に足るパートナーを見付けて、自分の助けなど必要としてもいなかったのだ。
(…結局、僕は一方的な思い込みで全てを捨てた…その結果がこれだ…とんだピエロだよ…何だ…何なんだよ、これ…)
そこへ、ノックの音がしてサーラの侍女のイーシャが入って来て言った。
「失礼いたします、セイル様。サーラ様がお呼びでございます。大切なお話があるからと…」
セイルはふてくされ気味に応える。
「…大切な話?…もう僕の知ってる事は全て話しましたよ…それとも何ですか…まだ何か隠してるとでも…?」

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す