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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 294


セイルとアルトリアは大広間でサーラを待っていた。
かつて“謁見の間”と呼ばれ、王の御前に文武の百官が平伏したその広間は、今やそれが嘘だったかのように静まり返っている。
サーラが王都を攻めた際、この王宮も戦火に晒されたらしく所々崩れて焼け落ちていた。
(イルシャ王族と王国の繁栄の中心であり象徴だった王宮が今やこんな有り様とは…)
セイルは広間の天井に開いた穴から見える青い空を見上げて、そんな物思いに耽った。
恐らく大砲か投石機の流れ弾でも落ちて来たのだろう。
崩れたまま直される事も無い宮殿は今のイルシャ王国の荒廃を表しているかのように思えた。
そこへ…
「セイル君…!!」
とつぜん静寂を破って響き渡った自分を呼ぶ声にセイルは振り向く。
片腕を失い過酷な砂漠越えを果たしてまで遥々会いに来た…その人の姿がそこにあった。
「…サーラさん!!」
「セイル君!セイル君!本物ね!本当に本当にセイル君なのね!」
サーラはセイルの胸に飛び込んだ。
「あぁ…逢いたかった!必ず来てくれるって信じてたわ!」
「うん!僕もサーラさんが危ないって聞いて、いても立ってもいられなくなって来たんだよ」
「ジェムに気に入られて側近に取り立てられたって聞いてたわ。それでも私を選んでくれたのね…ありがとう…ありがとう…」
サーラは涙を流しながらセイルに感謝した。
セイルは思う。
(こんなに喜んで貰えるなんて…色々な物を失ったけど、やっぱり来て良かった!)
(良かったですね、セイル様…)
そんな二人をアルトリアも微笑ましく見ていた。
サーラの事があまり好きではない彼女も思わず頬が緩むのだった…。

ところでサーラが広間に入って来た時、一人の若い男の騎士を伴っていた。
護衛役か何かだろうと思っていたその騎士が不意に口を開いた。
「良かったね、サーラ。大切な人と再会出来て。私も嬉しいよ」
優しげな微笑みを浮かべてサーラに語り掛ける彼に、サーラもまた笑顔で応える。
「ええ、ユーナック…」
「…?」
その会話にセイルはふと違和感を覚えた。
(サーラさんを呼び捨て!?この人一体何者なんだ!?)
セイルは改めてユーナックと呼ばれた青年騎士を見た。
騎士にしてはやや線が細いような気もするが、その口調や立ち振る舞いからは品の良さが感じられ、無骨な軍衣に身を包んでいてさえ優美さを醸し出している。
そして顔立ちは…嫌味な程の美男子である。
同じ男であるセイルが思わず嫉妬する事も忘れて見入ってしまう程…。
ぶっちゃけ女にモテそうだ。
(…美男子…名前で呼び合う仲……えっ!まさか…!?いや、まさかですよね?サーラさん!?)
セイルの胸中に一抹の不安が生じ、急速に広がっていく。
セイルが騎士を気にしている事に気付いたサーラは彼を紹介した。
「…ああ、セイル君。紹介するわね。彼はユーナック。もと東方鎮台軍所属の騎士で、今は私の側近よ。東方鎮台府に来たばかりで右も左も分からなかった私の相談に乗ってくれて、色々と支えてくれたの」
「は…はあ…」
「はじめまして、クルアーン・セイル殿。私はユーナックだ。サーラを助けに来てくれた事、私からもお礼を言わせてくれ」
そう言うとユーナックはセイルに向かって頭を下げた。
「い…いやぁ…どういたしまして…(やっぱりナチュラルにサーラさんを呼び捨てに…!何なんだ!?この人サーラさんの一体何なんだぁっ!!?)」
表向き平静を装いながら内心激しく動揺するセイルに、ユーナックは更に言う。
「君の話はサーラから聞いているよ。聖剣の勇者なんだってね」
「し…知ってるんですか!?」
「ああ、君がサーラの初めての相手という事も知ってる」
「そ…そんな事まで話したんですか!?サーラさん!!」
サーラは少し頬を赤らめ、おかしそうに答えた。
「ええ、話しちゃった♪ごめんね、セイル君。…こんな事言うのも何だか照れ臭いけど、彼は私が唯一、心を許して何でも話せる存在なの。本当に私にとって公私共に掛け替えの無いパートナーなのよ」
それはセイルにとってトドメの一言だった。
「は…“話しちゃった♪”って…掛け替えの無いパートナー…?…公私…共に…?」
彼は自分の中で信じていた何かが音を立てて崩れていくのを感じた。
そんなセイルの内心を知る由も無いサーラはユーナックを小突く。
「…ってゆうかユーナック!サーラって呼ぶのは二人きりの時だけにしてって言ってるじゃな〜い」
「ああ、ごめんごめん♪…以後気を付けます、サーラ姫様」
「もう♪ふざけないでよ〜」
「……(え…何…この展開…どういう事…これ…)」

セイルとアルトリアは王宮の一角に部屋を与えられ滞在する事になった。
さすが王宮というべきか、部屋は贅の限りを尽くした豪華な造りだった。
だが部屋に入った途端、セイルはベッドに倒れ込んで突っ伏してしまった。
泣いている様子は無い。
涙も出ないという物だ。
まさに茫然自失…。
まあ、当然と言えば当然かも知れない。
たった一人の女のために、誰もが羨む(セイル自身は少しも嬉しくなかったが)地位を捨て、(育ての)母親からは毒を盛られる程に恨まれ、利き腕を失い…それでも彼女の元に駆け付けてみたら、彼女には既に大事な人がいてヨロシクやってました…と来た。
もう救いようが無い。
(何というか…かける言葉も見付からないな…)
そんな哀れ極まる主の姿に彼の剣であるアルトリアも声をかける事すら出来なかった。
いや、今は何も言わない方が良いのかも知れない。
ただ側にいるだけで良い。
そういう時が人にはある。
アルトリアは黙ってテーブルの前に腰掛け、剣の手入れを始めた…。

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