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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 290


その頃、セイルとアルトリアは村で手に入れたラクダに乗り、王都を目指して砂漠を進んでいた…。
「結果的にライラ先生を騙した事になってしまったなぁ…」
「お気になさらない事です。片手でも戦える術を修得した今、セイル様があの女と戦うメリットは何一つありません。強いて言えばウマル殿の仇討ちでしょうか…」
「…いや、今になって思えば、先生は仇とは少し違う気がしてるんだ。あの人はお祖父様の最期の希望を聞いただけ…強いて言えば“介錯人”かな…」
「…セイル様がそう思われるのならばそれでよろしいでしょう。いずれにせよ無益な戦いは避けられる物ならば避けるに越した事はありません」
「ああ、今はサーラさんの力になるために王都を目指すのみ!…片腕を失った時は絶望したけど、僕はもう迷わないよ」
「その意気です、セイル様!さぁ、参りましょう!」
夜空には大きな月が輝き、二人の行く先を照らしていた…。


それから数日後、二人は補給のため小さなオアシスの村に立ち寄った。
だが…
「こ…これは…!?」
「…酷いですね…」
…村は壊滅状態だった。
家々は破壊され、そこら中に村人と思しき人々が無残な骸を晒していた。
剣のような物で斬り殺された者、槍のような物で突き殺された者…様々だ。
悲惨なのは若い女達…大抵が全裸か半裸に剥かれており、凌辱された痕跡があった。
「な…何だよこれ…!?一体この村に何が起こったって言うんだっ!!?」
「襲われたんでしょう」
「誰にっ!!?」
「…村人は五十人前後といった所…それをここまで徹底的に殺し尽くせるという事は、かなり大規模な盗賊団か…あるいは…」
激しい怒りと憤りを露わにするセイルに対してアルトリアは幾分…いやかなり冷静だ。
彼女がルーナ女王と共に生きた五百年前の戦乱期には良くある光景だった。
「…あった。犯人の有力な手掛かりですよ、セイル様」
アルトリアは半分燃えて崩れた家の瓦礫の中から布のような物を拾い上げた。
元はもっと大きな物だったが一部分だけ燃え残った切れ端のようだ。
だがそこに縫い込まれている紋章にセイルは見覚えがあった。
「これは…王家の紋章…っ!!?」
「…です。恐らく…アルシャッド王太子軍の敗残兵達の仕業でしょう」
王太子と王妃達の死後、その軍は崩壊し、兵士達は散り散りに逃亡したという…。
その一部が盗賊化して村を襲ったようだ。
「信じられないっ!!」
「いえ、充分に有り得ます。敗走中の軍という物は統制などありませんからね。いや、倫理観も…人としての良心も…理性すらも…」
「で…でも彼らだって騎士だろう!?…主君に忠節を誓い、己を律し、弱き民を守る…イルシャ騎士の精神を持っているはずだ!!」
「そんな物…死の恐怖の前には何の意味もありませんよ」
敗残兵は悲惨だ。
故郷から遠く離れた地で、いつ殺されるやも知れぬ恐怖と不安に脅えながら逃げ続ける。
しかも統率を取る将軍も上級士官も居ないとなれば…集団心理も相まって…
「…略奪・暴行・虐殺すらも厭わない、本能剥き出しの烏合の衆の誕生って訳か…」
「そういう事です。狂気という物は伝染性を持ちます。心身共に弱り切った集団なら特にね…ま、ある意味、彼らは彼らで必死で生き残ろうとしているんでしょうね…」
セイルは物のように転がる村人達を見ながら絞り出すように言う。
「…それでも…人間ってこんなに残酷になれるのか…同じ人間に…こんな惨い事を…」
「しますね」
即答のアルトリア。
「残念ですがセイル様、いくら騎士だの何だの言っても、しょせん人間などその程度ですよ」
「……」
押し黙るセイルを余所にアルトリアはオアシスの方へと向かう。
それほど大きくないオアシスには、水を吸って膨れ上がった複数の死体が浮かんでいて、水は赤黒く染まっていた。
「う〜む…ここの水は当分飲めそうに無いな…食料は諦めていたが、水もか……セイル様〜!これ以上ここに留まっていても仕方ありません!補給は諦めて先を急ぎましょう〜!」
村の方にいるセイルに向かって呼び掛ける。
するとセイルが不可解な事を言いながらオアシスの方に来た。
「アルトリア!その前にやらなきゃいけない事があるよ!」
「はあ…?」
アルトリアは嫌な予感がした。
「あの…やらなきゃいけない事…とは何です?」
「決まってる!この事を近隣の村々に知らせるんだ!」
「……あ…そちらでしたか…良かった…」
「?…何だよ?」
「いやぁ、失礼ながらセイル様の事ですから、殺された村の人達を埋葬する…なんて仰るかと思いましたよ」
「…それは考えたけど諦めたよ。五十人分の墓穴を二人で掘るなんて無理だし…」
「……(考えたのか…)」

…という訳で二人は進路を変更し、そこから最も近い隣村を目指した。
「…地図によると、そろそろ見えて来るはずなのですが…」
「ア…アルトリア!あれ…!」
不意にセイルが地平線の彼方を指差した。
二人の行く先…これから行く村があるはずの辺りから黒煙が上がっている。
「あれは…まさか襲撃を受けているのか!今、まさに!」
「急ごう!」
「はい!」
二人は村に向かってラクダを飛ばした。

「……」
「一足違いだったようですね…」
村に辿り着いた二人が目にしたのは、最初の村とほぼ同じ光景。
兵士…いや、盗賊達の姿は既に見当たらなかった。
「どうしますか?セイル様…」
「…決まってるよ!次の村に向かう!」
「…そう仰ると思っていました」
何だか盗賊達の後を追う形になっているような気がしないでも無かったが、とにかく次の村がまだ無事と信じて行くしか無い…そうセイルは思っていた。

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