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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 286

するとライラは今までの人を小馬鹿にしたような表情と口調から一転、真顔になって言った。
「…自分で言うのも何だが私は人が苦しむ様子を見るのが好きな人格異常者だ…だから人を殺す時は、その人がなるべく苦しんで死ぬようにする…」
「「……」」
セイルの拳が小刻みに震え始めた。
目はライラを睨み付けている。
アルトリアは黙って剣の柄に手を伸ばす。
だがライラはこう続けた。
「…しかしそんな私にも例外はある。相手が尊敬に値する者である場合だ。…ま、私が敬意を示すか否かの基準は、剣の腕が立つかどうかなんだけどね…。その場合は極力苦痛が小さく、短く終わるように殺す事にしている。そしてクルアーン・ウマルは私の中ではそちらに属していた…」
「「……」」
その言葉にセイルとアルトリアの緊張は僅かに和らいだ。
「…そう…でしたか……」
セイルはウマルと最後に言葉を交わした場面を思い出す。
あの時、ウマルは既に死を覚悟していたのかも知れない。
自分の命がもう長くない事を悟って、その命と引き換えにセイル達の道を切り開いてくれたのかも知れない…。
「くっ…お祖父様…!」
セイルの瞳から再び涙が溢れる。
「セイル様…」
「…アルトリア…僕はまた、人を犠牲にして“生かされた”んだよ…」
「…いいえ、犠牲ではありませんよ。ウマル殿は自ら望まれたのです。ご自分の命と引き換えにしてでも、あなたに生きて欲しいと…。しかも親子や君臣の関係に縛られた人生ではなく、あなた自身が選んだ人生を歩んで欲しいと…」
「……」
そうだ…とセイルは思う。
きっとウマルは犠牲になったなんて思ってなどいなかったはずだ。
ミレルもそうだ。
彼女は真実を知っても少しもセイルやウマルを恨む事は無かった。
セイルを身ごもった事で結果的に命を失う事となったシャハーン妃だって、恨みや後悔じみた様子など一切無かった。
もちろん当人達の真の胸の内など知る由も無い…だが、少なくともセイルにはそう感じられた。
(ならば…)
セイルは思う。
(その人達によって生かされた僕が…今なすべき事は何だ…?)
彼は瞳を閉じて考えた。
(今の僕は、まともに剣も振るえない…こんな僕に何が出来る…?)
…やがて、彼は目を開いた。
そしてライラに向かって言った。
「先生…」
「何? お祖父さんの仇討ちでもする? 先生ならいつでもウェルカムだよ〜。…ま、今戦っても君が私に勝てる確率は限り無くゼロだけどねぇ。元の実力差に加えて更に片手って…こりゃ私の方がハンデでも付けるか? 重り背負って戦うとか、下半身埋まるとか…」
「いや、まず話聞けよ!……改めて先生、僕に…僕に片手の剣術を教えてくれませんか!?」
「…へ?」
「セ、セイル様…!?」
その言葉にライラもアルトリアも一瞬「ハァ?」という顔になる。
「セ…セイル様、失礼ですが正気ですか? この女はウマル殿の仇で、しかもセイル様を殺そうとしているのですよ? そんな者に剣術の指南を請うなど…」
「…ああ、自分でもおかしな事を言ってると思うよ。…でも先生は片手・両手、双方の剣術を身に付けている。それが騎士学校教師の必須条件だからね…。さらに先生は教え方が上手かった…そして、強い」
「た…確かに…」
「…それに先生は、たぶん今の僕は殺さないと思うんだ。そうですよね、先生?」
「うん、私は弱い者イジメはしない主義だからねぇ〜♪」
「……だそうだ。…アルトリア、僕は片手でも戦える技術を身に付けたい…いや、身に付けなきゃいけないんだ。しかも出来るだけ短期間で…。それに何より…」
セイルは一拍置いて、言った。
「…彼女は近衛隊時代、隊長だったお祖父様から剣術の指南を受けていたはずなんだ。ならば同じくお祖父様から剣術を教わった僕とは、技術的に共通する部分が多いはず…」
「…な、なるほど…師として教えを仰ぐには正にうってつけの人物という訳ですか…」
感情を除けば…である。
「はぁ…仇に剣を教わるなんて話、聞いた事がありません…」
アルトリアは額に手を当てて溜め息をついた。
「そうだろうね。でも、もう僕にはそれしか無いんだ。…という訳で先生、お願いします!僕に片手剣術を教えてください!」
そう言って頭を下げるセイル。
「あ、ああ…」
逆にライラの方が戸惑っている。
「…いや、まぁ…そりゃあ、そこまで頼まれれば教えてあげても良いけど…」
「ありがとうございます!!」
セイルは再び頭を下げた。
「解った君に片手剣の技術を教える代わりに私にも条件がある。君に剣を教えても私には何の利益もないからね」
「条件…解りました。それでも構いません!先生、それで条件はなんですか?」
(セイル様、私は見守るしかないのか…)
ライラの言う条件に少し躊躇するセイルであったが、ただ教えてもらうだけでは虫が良いと気づき受け入れる事にしたセイルはライラの言う条件を訊く。
一方、自分では収集できない事態になっているのを悟ったアルトリアは黙るしかなかった。

「そうだな〜私も時間がない三日間だけ剣を教えよう。そして、四日目の朝に真剣勝負を行い。君が私に勝ったら見逃してやるが、私が勝ったら…君の命と聖剣ルーナを頂こう!」
「先生、解りました。その条件で構いません。お願いします…」
何時ものセイルならば迷って怯えるのだが、この時は震えることなくあっさりライラの条件を受け入れる事にした。

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