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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 285

彼は顔を上げて言った。
「あぁ…アルトリア…頼む!僕を…僕を殺してくれ!」
「…………何を言うんです…」
「…僕は…もう駄目になってしまったんだ!もう聖剣の勇者じゃない!騎士ですらない!勇者としての期待には応えられないんだよ!サーラさんの役に立つ事も出来ないんだ!剣を持てない僕には何の価値も無い!もう生きていても意味が無いんだ!!さぁ!こんな役立たずの勇者なんてサッサと殺してくれ!!そして次代の聖剣の勇者に期待してくれよ!!」
「…そんな…簡単に死を選ぶ物じゃない…そんなに軽々しく生きる事を諦める物じゃない…あなたはそんな人じゃあなかったはずだ…」
「はは…いくらそんな奇麗事言ったって…もう僕は…」
「…」
次の瞬間、アルトリアは静かに、包み込むようにセイルを抱きしめた。
「ア…アルト…!」
尚も何か言おうとするセイルの口をアルトリアは自らの唇で塞いだのだった…。
「「……」」
…やがて、唇を離してアルトリアは言った。
「…あなたは私が選んだ聖剣の勇者です…セイル様…例えあなたが勇者としての使命を果たせなくなっても…私があなたの剣である事に変わりはありません…」
「ア…アルトリア……」
「…お忘れですか?セイル様…シャハーン殿の…あなたの本当のお母君が残されたメッセージを…」
「……そうだ……そうだったよ…僕の人生は、ミレルという一人の女の子の人生の犠牲の上に今あるんだ……いや、ミレルだけじゃない…僕は多くの…本当に多くの人達によって生かされている……忘れてたよ…」
「…その通りです。その人達のためにも、あなたは簡単に生を諦める事など許されませんよ…あなたが剣を振るえないというのであれば、私があなたの剣になります」
そう言って微笑むアルトリア。
セイルも涙を拭いて、真っ直ぐに彼女を見据えて言った。
「…ごめん、アルトリア…僕が間違ってたよ…!」
彼の目には力が戻っていた。

…その時、あらぬ方向から拍手の音と、嗤いを押し殺しながらの小馬鹿にしたような声がした。
 パチパチパチパチ…
「いやぁ〜、こりゃあ良い物を見せてもらった。思わず聞き入っちゃったよ。三文芝居の台詞回しみたいで面白かったよ〜」
「「……っ!!?」」
その人物を見た途端、二人の間の空気が一瞬で凍り付いた。
「…何で…何であんたがここに居るんだ…っ!!?」
「ジェム閣下に君たちを捜索を命じられて、たまたま補給に寄ったら君たちを見かけたんだよ。クルアーン・セイルくん。そして、聖剣ルーナの聖霊アルトリア殿!」
セイルとアルトリアのやり取りをあざ笑っていた声の主はセイルの騎士学校初等部時代の恩師アルムルク・ライラであった。

「まさか、あなたに聞かれるなんて…」
「セイルくん、もう少し危機感を持つべきだよ。しかし、君が聖剣ルーナの勇者で、その娘が聖剣ルーナの聖霊とはびっくりしたよ。君みたいな気弱でへたれ男が勇者とは全く滑稽だよ!」
「う…うるさい!!それよりあんたがここに居るって事は…お祖父様はどうしたんだ!?」
叫ぶセイルにライラは答える。
「…ああ、クルアーン隊長か…いやぁ、彼は最期まで気高い騎士だったよ」
「さ…“最期まで”って…っ!? どういう意味だ!!?」
セイルの心臓は不安に駆られ、瞬く間に鼓動が早まっていく…。
しかしてライラは言った。
「彼は死んだ」
いともアッサリと…。
「…私が隊長を倒して、殺した」
「嘘だあぁっ!!!!」
セイルは絶叫した。
「お祖父様はイルシャ最強の剣士だ!!!お前なんかに負けるはず無い!!!嘘を言うなぁ!!!」
ライラはポリポリと頭を掻く。
「…いや、嘘と言われてもねぇ…ま、尊敬するお祖父さんの死を信じたくない気持ちは解るが、残念ながら本当だよ」
「ふ…ふ…ふざけるなぁ!!!そんなの僕は信じないぞ!!!」
「じゃあ何で私がここに居るんだい?」
「…っ!!!」
セイルは言葉に詰まった。
「…セイル様……」
アルトリアは辛そうにセイルの肩に手を置いて言う。
「…実は…ウマル殿は……不治の病に全身を侵されていて、全力を発揮して戦える状態ではなかったのです…」
「は…はあ!!? お前まで何を言い出すんだ!?」
「いや、本当だよ?」
ライラは飄々とその時の様子を語る。
「…戦ってる最中に隊長が剣を落としたと思ったら突然苦しみ始めて倒れてさぁ…いや、私もショックだったよぉ。まさかあの殺しても死ななさそうな隊長が病気とはねぇ…。まったくガッカリだ。イルシャ最強の剣士からついに一本取れたと思ったら、死に損ないの老人をいたぶってたなんて…その後、本人の希望でトドメを刺してやった」
「…そんな…お祖父様が、自ら望んだっていうのか…」
「ああ、そうだよ。ベッドで死ぬより戦って死にたい〜とか何とか、それっぽい事言ってたんだけどぉ…ゴメン、そんなに詳しくは覚えてないわ」
「……」
ウマルなら言うかも知れない…とセイルは思った。
いや、セイルの知るウマルは、あまり死に関する話はしない男だったので、何とも言えないが…。
「…一つ、訊いて良いですか…?」
セイルは改まってライラに尋ねた。
「何?」
「…お祖父様は…苦しみましたか?」

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