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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 284

「…さっきも言った通りだ。腕を切る以外に彼を救う方法は無い。…王宮の御典医ほどの名医ならば君の言うような治療も可能かも知れん…だがこんな田舎のしがない村医者の私には無理だ。悪いが諦めてくれ…」
「そんな…!!」
なおも食ってかかろうとするアルトリアにセイルが口を開いた。
「…アルトリア、もういいよ……先生、腕を切ってください…」
「セイル様!? お目覚めでしたか…!」
「…ああ、そして事情もだいたい解った…仕方ないよ。これが“あの人”を捨てて自分の道を歩もうとした僕への仕打ちだったって訳だ…」
セイルは苦しげにそう言いながら、寂しく笑った。
「セイル様……」
アルトリアはセイルが不憫で言葉も無かった。
セイルは医者に告げた。
「…先生、手術をやってください!」
「…解った!」
医者は力強く頷き、アルトリアを見て言った。
「そういう訳だ、お嬢さん。君には助手を頼みたい。用意してもらいたい物がある」
「くっ……解りました!今はセイル様の命を救う事を第一に考えましょう!」
彼女も納得するしか無かった。
そして、手術が始まった…。

…手術は一時間もせずに終わった。
アルトリアは医者に言われて村人から斧と鋸(のこぎり)を借りてきた。
よもやこの斧でズバンと一気に落とすのかと思いきや、医者は斧を暖炉で真っ赤になるまで焼けと命じた。
そしてセイルの体をベッドに縛り付け、布を巻いた棒を口に噛ませると、鋸(のこぎり)で腕を切断していった…。
腕の付け根を紐で血が止まる程キツく締め付けたので出血は少ない。
初めセイルは悶絶したが、すぐに気絶した。
まぁその方が彼にとっては良かったろう…。
切り落としたら焼いた斧の刃を切断面に当てて止血する。
真っ赤になった刃を当てると、ジュ…ッと肉の焼ける臭いが立ち込めた。
殆ど民間療法に近い荒療治だが、ロクな設備も無い田舎の村で出来る治療としては、これが精一杯だった。
最後に火傷を手当てして手術は終わった。
腕を一本切る…終わってしまえば簡単な事だった。

だが、腕を失ったセイルの喪失感は予想以上だった…。
数時間後、無事に目覚めた彼は、自らの右腕のあった場所を、ただ何も言わずに茫然と見詰めていた。
「セイル様……」
アルトリアは思わず声を掛けてみるが、その後に続く言葉が見付からなかった。
何と言えば良いというのか。
もう彼は剣を持てない。
もう騎士ではない。
聖剣の勇者でもないのだ…。
アルトリアが戸惑っていると、逆にセイルの方が口を開いた。
「…僕の右腕…無くなっちゃったんだね…」
「…セイル様…」
「おいおい、そんな辛気臭い顔するなよ…心配しなくても良いよ…思ってたより平気だから…」
(嘘だ…)
アルトリアにはすぐに解った。
「確かに利き腕が無くなったのは剣士としてはキツい…けど命が助かっただけでも儲け物だよね…はは…ははは…」
そう言ってセイルは乾いた声で笑った。
目が全く笑っていない。
こんな時ですら彼はアルトリアに気を使っているのか…いや、あるいは今にも壊れてしまいそうな心の均衡を保つために作り笑いをして「大した事じゃない」と自分に言い聞かせているのかも…。
アルトリアはそんな主を見て思うのだった…。
(…何と虚しい笑い声だろう…)

術後、セイルには一週間の絶対安静と、更には向こう一ヶ月は激しい運動は禁止が言い渡された。
やむなく二人は村に唯一の宿屋に部屋を取り、長期滞在する事にした。
「…とにかく今は体調を回復させる事を最優先に考えましょう。今後どうするかはその後です」
「…ああ、そうだね……」
力無く頷くセイル。
その顔はアルトリアの方を向いていながら、目は何も見ていないようだった…。


ところが、それから三日後…
「…いない…っ!!?」
アルトリアは朝起きるとセイルが部屋から消えている事に気付いた。
(まさか…絶望して首でも括ったか…!!)
急いで着替えて部屋を飛び出し、セイルを探しに宿を出た。

…セイルは宿屋の裏手の空き地にいた。
「…ふんっ!ふんっ!ふんっ!」
彼は左手で一心不乱に剣を振っていた。
(…良かった。死んではいなかったようだ…)
アルトリアはホッと一安心しながらセイルに尋ねる。
「…セイル様!何をしているのですか?一週間は絶対安静と医者に言われたでしょう…」
「ああ、おはようアルトリア!良い朝だね。いや〜、ずっと寝てると身体がナマっちゃってね…ちょっと運動がてら素振りしてたんだよ」
「はあ…」
「やっぱ身体動かすと気持ち良いよね〜!それにさ、なんか左腕だけでも結構イケるみたいなんだよね!まだ慣れてないからちょっとぎこちない所もあるかもだけどさ!慣れれば以前みたいにイケると思うんだよ!うん!ほんと!イケる!イケるよ僕!」
「…それは良かったです…」
セイルは前途に希望を見いだした感を装っているようだが、アルトリアには無理してるのがバレバレだった。
何だか見ているだけで胸が詰まりそうだ。
「あ…っ!!」
 カランカラ〜ン…
剣を取り落としてしまったセイルは、拾おうとしゃがんで手を伸ばした……が、なかなか立ち上がらない。
剣も拾わずうつむいたまま、ジッと地面に落ちた剣を見詰めたままだ。
「セイル様…?」
少し心配になったアルトリアが歩み寄り、セイルの顔をのぞき込むと…彼は両目から大粒の涙をボロボロと零して声を出さずに泣いていた。
「セイル様…」
「…今…剣を拾おうとした時…咄嗟に右腕を伸ばそうとしてた…そしたら…もう無いんだって思って…うっ…うぅ…うああぁぁぁ…」
今まで溜め込んで来た物が一気に噴き出したのだろうか…セイルは激しくしゃくり上げながら泣き出した。

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