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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 283

そう言えばアルトリアが夜、休憩中に携帯用の測量器具で星を観測して何やら計算していたのをセイルは思い出した。
あれは星の位置から現在地を割り出すためのものだったのだ。
(アルトリア…僕なんかよりずっと多くの事を考えて行動してるんだなぁ…)
恐らく彼女が居なければ自分は数日で野垂れ死にしていた事だろう…とセイルは思う。
(本当にアルトリアには助けられて来たな。今回の旅だけじゃない。今までずっとだ。…でも、それで良いんだろうか? 僕は彼女の助け無しには何一つ出来やしない。こんなんで騎士として…聖剣の勇者として…いや、一人の男として本当にそれで良いのか!? クルアーン・セイル!?)
内心で自己に問い掛けていると、腕の傷がズキズキと痛みを増してきた。
「うぅ…」
セイルは思わず腕を押さえて苦しげな表情を浮かべる。
「大丈夫ですか!?セイル様!」
「あ、ああ…また傷が痛み出したみたいだ…」
「ではヤスミーン殿にいただいた薬を塗りましょう」
「…うん、そうしてくれ…」
セイルは腕をはだけて包帯を解いた。
アルトリアは傷口に薬を塗りながら思う。
(傷が悪化している…どういう事だ…?)
考えられるのは…毒だ。
セイルの右腕に傷を付けたアルムルク・ライラの剣の刃に毒が仕込まれていて、それが傷の治癒を妨げている…。
「ふぅ…痛みがスーッと引いていったよ。やっぱり母様の薬は効果抜群だね」
「それは良かったです(ヤスミーン殿には悪いが、この薬は痛み止め程度の効果しか無いようだ。子供の擦り傷程度にはそれで良かったのだろうが、本格的な刀傷には効果が薄い…。まあ気休め程度にはなるだろうが…)」
とにかく次に立ち寄る予定の村でセイルを医者に診せよう…とアルトリアは思った。

それから数日後、二人は砂漠の真ん中にあるオアシスの村に到着した。
だがセイルの様子がおかしい。
明らかにグッタリとして全身ビッショリと汗をかき、ほぼアルトリアに支えられるようにして辛うじて立っている。
「セイル様!ほら!着きましたよ!村です!」
「…あ、あぁ……」
力無く頷くセイル。
彼はここ数日で急速に容態が悪化していた。
腕の毒が全身に回り始めたのかも知れない。
アルトリアはさっそく村人に頼んでセイルを村医者に診せた。

セイルを診た医者は言った。
「…切らないと駄目だね…」
「…切る?切るとは…?」
アルトリアが尋ね返す。
答えは半ば解ってはいたが、それでも訊かずにはいられなかった。
医者は残酷な結果を告げた。
「…彼の右腕を切断するという事だ」
「そ…そんな馬鹿な…!?」
「本当だよ。傷口から腐り始めている。このまま放っておけば彼は死ぬ。もう彼を助けるには腕を切除するしか無いんだ」
「そんな…セイル様……」
さすがのアルトリアもこの結果には言葉を失う。
半ば呆然としながら懐からヤスミーンに貰った薬入れを取り出して見詰めながら呟いた。
「…ヤスミーン殿…申し訳ない…」
セイルを無事にサーラの元まで連れて行くと誓っていたアルトリア…だが結果的に片腕を失わせてしまった。
それを彼女はヤスミーンがセイルの無事を願って託した薬入れに詫びたのだった…。
医者は装飾の施された薬入れを見て尋ねる。
「それは?」
「塗り薬ですよ。これを傷が痛む度に傷口に塗っていたのですが…」
「そうなのかい。ちょっと見せて貰っても良いかな?」
「どうぞ。…結局痛み止め程度の効果しかありませんでしたが…」
アルトリアは薬入れを医者に手渡す。
医者は中の薬を少し手に取って、匂いを嗅いで、舐めた。
…と思ったら眉をしかめてペッと床に吐き捨てて言った。
「痛み止め程度だって?…冗談じゃない!こいつは毒だぞ!!」
「え…っ!!!?」
アルトリアは驚愕に目を見開いた。
医者は説明する。
「確か初めはかすり傷程度だったのが次第に悪化していったと言っていたね…それは傷口にこの毒を塗り込んでいたせいだよ。塗ると痛みが無くなったのは痛覚を麻痺させる効果があるからだ。即効性じゃないが、少しずつ少しずつ浸透していって患部やその周辺を破壊していく…本当にタチの悪い毒薬だよ。悪い商人に偽物を掴まされたね…心から同情するよ…」
「…いや…それは……」
アルトリアはその続きを口にする事が出来なかった。
それは、彼の母親が彼に渡した物です…と…。
「く…っ!!不覚だった…まさかあんな意外な所に敵が…!」
悔やむアルトリア…だがまさか身内に毒を盛られるなど予想外だ。
だがそれ以上に彼女は己を責める。
知らなかったとは言え、セイルの傷に毒を塗り込んでいたのは彼女だったのだから…。
(私はあの女(ヤスミーン)に何の疑いも持たなかった…素直にセイル様の旅立ちを許し認めたのだと思った…その結果がこれだ!!私のせいでセイル様は利き腕を失う事に…あぁ!!何が聖剣の精霊だ!?!私は主の危機を防げなかった!こんな様でどうしてセイル様の剣だなどと言えるんだ…!!?)
多くは語らないが苦悩の表情を浮かべるアルトリアを見て医者は何やら訳有りかと悟りつつも、今はセイルの命を救うため、話を進めるしか無かった。
「…あのぉ…それで早速なんだが、手術に取り掛かりたいのだが…」
「お、お待ちください医者殿!このお方は騎士なのです!剣を持てなくなっては困るのです!どうか腕を切らずに傷だけを治癒する方法をお願いいたします!!」

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