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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 282

「…ん?何だアイツは?」
「怪しいな…おい!止まれ!何者だ!」
包囲軍の兵士達は近付いて来る二人の人影に気付いて槍を構えた。
二人ともローブをかぶって顔を隠しているが、どうも男と女のようだ。
男が口を開いた。
「…どいてくれ。王都に用があるんだ…」
「はぁ?何を言っとるんだ貴様!?王都には今我々と交戦中のイルシャ・サーラ率いる賊軍が籠城中なのだぞ!出入りは許さん!」
「もしや貴様、敵側の間者ではあるまいな!来い!取り調べる!」
「…仕方ないな」
そう言うと男はバッとローブを翻した……と思った次の瞬間、兵士の一人の頭が宙を舞っていた。
「こ…こいつ…っ!?」
「やりやがったなぁ…っ!!?」
周りの兵士達が一気に殺気立つ。
一人が叫んだ。
「お…おい!こいつクルアーン・セイルじゃないか!?手配中の…!」
「本当だ!人相書きの通りだ!間違い無い!」
「だ…だがコイツ…隻腕だぞ!!?」
そう、ローブの中から姿を現したセイルには…右腕が無かった。
「怯むな!一斉に掛かれぇー!!」
「おおぉぉぉーっ!!!!」
隊長らしき兵士の合図で周辺の兵士達が一気にセイルに襲い掛かる。
「…無駄だ!」
セイルは左手に持った剣をサッとひと凪ぎする。
すると剣先から何か透き通った刃のような物が扇状に拡散し、群がる兵士達の刃がセイルに到達する前に彼らの身体を斬り裂いた。
「ギャッ!!?」
「ぐあぁっ!!?」
「ギャアァァッ!!?」
透明な刃の出現は一瞬だった。
それはすぐに崩れて地に降り注いだ。
 バッシャアァァン
「な…何だ今のは!?」
「こ、これは…水!? 水だぁ!!」
「気を付けろ!ヤツは魔術使いだぁ!!」
慌てふためく兵士達。
アルトリアは思う。
(魔術ではない…これこそ聖剣の力なのだ)
そう、セイルは聖剣の勇者としての能力を覚醒させ、操る事に成功していた。
聖剣はこの世界に三本だけ存在し、それぞれ属性を持つ。
ダモクレスの聖剣は風。
カシウスの聖剣は炎。
そしてルーナの聖剣は…水なのである。
(それにしても皮肉な事だな…まさか利き腕を失った事がセイル様の覚醒に繋がるとは…)
アルトリアは思い返していた。
この一ヶ月の間に起きた出来事を…。



……

………

一ヶ月前…
「あ…暑い……灼熱地獄だ…」
「セイル様、しっかりしてください。もうすぐ日暮れです。そうしたら移動を始めましょう」
ここは砂漠のど真ん中。
右を見ても左を見ても、ひたすら砂、砂、砂である。
セイルとアルトリアは身にまとっていたローブを小さなテント代わりにし、ジリジリと照り付ける太陽から身を隠す日陰としていた。
砂漠に暮らす遊牧民達の知恵である。
体力を消耗する日中の移動は避け、日が暮れて涼しくなってから歩く…。
何故そんな事になったかと言うと、砂漠入りして僅か数日目にしてラクダを失ってしまったからである。

それは全く突然の出来事だった。
二人それぞれラクダにまたがり砂漠を進んでいた時、突如として前を行くセイルのラクダが何かに脚を取られた。
ラクダが転倒し、砂の上に投げ出されるセイル…と、見る間に身体がズブズブと砂に埋もれてゆく。
その正体は、砂漠に生息し、人をも喰らう巨大アリジゴクであった。
アルトリアが助けに入り、何とか脱出に成功したものの、代わりに二頭のラクダが哀れアリジゴクの昼飯と化したのであった…。

「…ごめん、アルトリア…僕のせいで…」
セイルはつぶやく。
「…今さら何を…ラクダを失ったのはセイル様の責任ではありませんよ。気になさらない事です…」
「うん…」
うなずいてセイルは視線を数里ほど先の一点に向けた。
生命など存在しないのではないかと思われる砂の世界…だがその一ヶ所だけ緑の木々が生い茂っている…オアシスがあるのだ。
それがさっきからずっと見えている。
ほんの小一時間ほど歩けば辿り着けそうに見える距離だが、それが砂漠の恐ろしい所…本当は何十里も先にある物が蜃気楼で歪められて近くに見えるのだ。

日が暮れると二人はそのオアシスを目指して移動を開始した。

着いたのは明け方近く…一晩中歩き通してようやく辿り着けたという訳だ。
「水だあぁぁ!!」
 ドップーン!!!!
セイルは服も脱がずに水に飛び込んだ。
まあ全身ビショ濡れになったとしても、照りつける太陽光によって、ものの十数分でカラカラに乾いてしまうのだが…。
「痛えぇぇっ!!!?」
セイルは飛び上がった。
右肩の傷口に水が染みたのだ。
「ハァ…何やってるんですか…」
アルトリアは水筒代わりにしている革袋に水を汲みながら冷静に辺りを見回して言う。
「出来ればラクダを手に入れたかったが、やはり村などは無かったか…一週間も経てば消えてしまうかも知れない小さなオアシスですね」
「ここに居れば僕らみたいに給水目的で立ち寄るキャラバン(隊商)とかに出会えるかもよ?」
「残念ながらラクダを失った我々には一日の余裕もありません。このオアシスだってたまたま王都への途上、寄り道しても支障無いと判断したから立ち寄ったに過ぎません…」
アルトリアは地図を広げてセイルに見せた。
「ここが我々のおおよその現在地です。王都はまだ遠いですよ」

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