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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 281

そんなセイルの心境など露知らず、鏡が映し出すシャハーンは話し続ける。
『…ミレル、私の子を守るために貴女の人生を犠牲にしてしまう事…本当に申し訳なく思うわ。謝った所で許される事ではないけれど、本当にごめんなさい。…でも、もしも貴女が私達を許してくれるのなら、最後に一つだけ頼み事をしても良いかしら?…もうすぐ生まれて来る私の子供が無事に大きくなったら、こう伝えて欲しいの…。“私はあなたを抱き締めてあげる事は出来ないけれど、あなたの事をとても愛していたわ。…いいえ、私だけじゃない。あなたは多くの人達に愛され、生かされているのよ。その事をどうか忘れないで…”』
そう言うと、シャハーンは姿を消した。
「……」
セイルは暫く言葉が無かった。
「…解らないな…」
少しして、ようやく口を開いた。
「…解らない…お母さん…僕は…一人の少女(ミレル)の人生を奪ってまで、生かすに足る存在だったの…?」
「それはあなた次第です、セイル様」
「ア…アルトリア!?いつの間に戻ってたんだ?」
「失礼、声をかけづらかったもので…セイル様、見たんですね」
「ああ、見たよ。そして知った。自分の出生の秘密をね…。そう言えば君は前にこのメッセージを見たと言ってたね」
「ええ、それであなたがルーナ様に継ぐ二代目の聖剣の勇者である理由が納得いきました。あなたはイルシャ王族の一員…つまりルーナ様の血を引いておられるという訳です」
「聖剣の勇者の要素って血統に依る所が大きいの?」
「いえ、直接は関係ありません。例えばカシウスの聖剣で言えば、五百年前に現れた二代目の勇者は、千年前に現れた初代の生まれ変わりだったと言い伝えられています。二人は魂の系譜で繋がっていましたが、特に先祖と子孫という間柄ではなかったそうです」
「カシウスの聖剣の二代目の勇者と言えば…西大陸のゼノン帝国を建国したディオン大帝だね」
「ええ、そして初代はカシウスの聖剣の名の由来となった西大陸のヴォル=ヴァドス教団の初代法皇カシウスです」
「その理屈で行くと…つまり、僕はルーナ女王の生まれ変わり!?」
「その可能性は低くはないでしょう」
「いやハッキリ言ってくれよ!」
「実は私も良く解らないんですよ。ただ、出逢えば判る。理屈じゃないんです。そういうものだとしか言いようがありません」
「そ…そうなんだ…」
まだまだ聖剣には謎が多そうだ…。
アルトリアはふと思い出したように手を叩いて言った。
「…そうだ!サーラ殿の所在が判りましたよ」
「ほ…本当かい!?思いがけなく衝撃的な事実が判明して忘れてたけど、今の僕の目的はサーラさんの元に行く事だったよ。それで?サーラさんは今どこに…?」
「ジェム派の太守達の軍を蹴散らし、旧王都イルシャ=マディーナを占領し、そこを拠点に周辺諸州の平定に取り掛かっていたそうですよ」
それがアルトリアが酒場で得た情報であった。
「イルシャ=マディーナ!…となると、やはり砂漠を越えて行かなければならないか…てゆうか“取り掛かっていた”って、何で過去形なの?」
「ええ、それが、アルシャッド王太子の軍が敗れて状勢が一転しましてね…旧王都周辺の州は勢い付いたジェム派の軍が押さえてしまい、現在サーラ殿は手勢と共に旧都に籠城中…ジェム派の軍は旧都を包囲し、連日猛攻撃を加えているそうです。サーラ殿達は徹底抗戦の構えを見せていますが、援軍のアテも無く孤立しており、陥落も時間の問題との事です」
「な…何だってぇ…っ!!?」
サーラが絶体絶命の危機に陥ってると知りボロボロになった身体のセイルは立ち上がろうとする。
しかし、新王都脱出からこの街に辿り着くまで貧弱なもやしっ子のセイルがかなり無理をしてるのを知ってるアルトリアは制止する。
「セイル様、御自身の身体がどれだけ疲弊してるのをお忘れですか!最低今日一日は休んで出立した方が無難ですよ」
「サーラさんの危機に寝てる場合じゃない。サーラさんを見殺しにする気か!」
「そんなボロボロの身体で砂漠を越えるのは自殺行為にも程があります!セイル様、あなたが死ねばウマル殿、ご両親、ミレル殿、アリー殿、パサン殿と悲しむ人は沢山いるんですよ!そう言った人々の事を考えて下さい!」
「ア・・・アルトリア。僕が短慮だった・・・ごめんなさい」
何時にないアルトリアの厳しい叱責とウマルたちの事を言われセイルは自分感情的になり冷静でなかった事を反省する。
「落ち着いて下されば何よりです。砂漠を越えるラクダの調達や旅の準備は私にお任せ下さい」

「全部してくれるの?悪いな。何もかも君に任せきりで…」
「良いのですよ。それより今は体を休めてください。砂漠をナメたら死にますよ」
「…解った。今日の所はお言葉に甘えさせてもらうよ」
セイルは眠りに就いたのだった…。




それから、1ヶ月後…
場所は旧王都イルシャ=マディーナ。
「ついに来たぞ…」
「ええ、来ましたね…」
二人は小高い丘陵の上に立ち、懐かしいイルシャ=マディーナの都を見下ろしていた。
王都の周りをぐるりと軍勢が取り囲んでいる。
「…まさに蟻の子一匹這い出る隙間も無いと言った所ですかね。あれでは近付けませんよ…」
「斬り抜けるしか無いよ」
セイルは聖剣の鞘を握り締めて行った。
「…やりますか?」
「…ああ、やるさ!そのためにここまで来たんだもの!もう躊躇わない!立ちはだかる者は全て斬り伏せる!」
「セイル様…(本当にこの短期間で逞しくなられた)…解りました!ならば私は全力であなたをお護りいたします!」
真実の己を知り、なおかつ決死の砂漠越えを敢行したセイルは、心身共に驚くべき成長を遂げていたのである。

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