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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 280

(あのシャハーンって女の人、誰かに似てたな…誰だろう?)
そう言えば…とセイルは思う。
あのメッセージ、冒頭しか見ていないが、どこか違和感があった。
(…何だろう?どこが変だったんだろうな…?)
セイルは何気なく手鏡を手に取った。
すると、手鏡が淡い光を放ち、シャハーンの姿が浮かび上がった。
「あ…」
どうやら魔法が作動してしまったらしい。
見るつもりは無かったのだが…。
まるでミレルの心の内を無断で覗き見るような気がして何だか心苦しい。
だが手鏡を自分に託したという事は、このメッセージをセイルに見て欲しい…とまではいかなくとも、見られても良いという事か…とセイルは思う。
だいいち映像の止め方が解らない。
シャハーンが口を開いた。
『こんにちは、ミレル。私の名はシャハーン…。貴女がこれを見ているという事は、私はもうこの世にはいないという事になるわね…』
(そうか…解った…)
セイルは違和感の正体に気付いた。
シャハーンは自分の子を“ミレル”と名前で呼んでいるのだ。
祖父ウマルの話によれば、ミレルを産む前に命を落としたはずの彼女が、何故ミレルの名を知っているのか…?
これが産む前に記録された物だとして、お腹の子が女の子かどうかも判らない段階で“ミレル”という名前だけは決まっていたという事か?…何か変だ。
セイルはシャハーンの残したメッセージに耳を傾ける。
『…ミレル、これから私は貴女に対して残酷な事実を告げるわ。それを知る事によって、貴女は私や周りの人達を恨むかも知れない、あるいは酷く困惑し、狼狽するかも知れない…でも貴女には真実を知る権利がある…そう思ってこのメッセージを遺すわ。これを成長した貴女に見せるか否かの判断はウマルに託してあるの。だから貴女が今これを見ているという事は、貴女は真実を受け止める勇気と強さがあるとウマルに認められたという事になるわね…』
「…前置き長いなぁ…早く本題に入ってよ…」
『…ミレル、貴女がこのメッセージを見ている段階で、まだ私達の計画が上手くいっているなら、貴女はクルアーン家の長子の乳母の子で、クルアーン家に仕える侍女としての人生を歩んでいるはずよ。でもそれは偽り…貴女に与えられた役割なの。本当の貴女は…』
「…知ってる…王様の娘だったんだ…」
つぶやくセイル…ところがシャハーンの口から出た言葉は意外な物だった。
『…本当の貴女はクルアーン家の長女…つまり貴女はクルアーン・ウマルの孫にして、クルアーン・オルハンとクルアーン・ヤスミーンとの間に産まれた子なの…』
「………………………………はい?」
『…そして今、貴女の代わりにクルアーン家の長子としての人生を歩んでいるのは…私の子よ』
「………………………………」
セイルはポカーンとしていた。
彼は耳から入って来た言葉の意味を理解する事が出来なかった。
(…え?それは…つまり…どういう事なの…?ミレルが…僕で…僕が…ミレル…?…へ!?)
訳の解らないセイルを置いてシャハーンは語り続ける。
『…ミレル、聞いてちょうだい。私はもうすぐ出産に臨むわ。でも宮廷には私の子の誕生を快く思わない人達がいるの…。おそらく私は近い内に命を奪われるでしょう。私はどうなっても良い…。でもこの子だけは助けたい。そしてくだらない権力闘争とは無縁の人生を送って貰いたいの…。だから信頼できる近衛剣士隊長のクルアーン・ウマル…貴女のお祖父さんと相談して一計を案じたわ…』

その計画というのは以下のような物であった。
シャハーンの子は表向きには死産だったという事にし、王族としてではなくウマルの縁者として、政争とは無縁の人生を送って貰う。
だが嫉妬と疑心と執念の権化のようなシェヘラザード王妃とヤヴズ・セム宰相の事…そんな事ぐらいで見逃してくれるはずが無い。
彼女達にとっては王の寵愛を受けた側室の子が(例え公的には王族でなくとも)この世に存在しているという事自体が脅威なのだ。
もし存在がバレれば必ず殺しに来る。
だからウマルはシャハーンの子の存在がバレた時のために保険を掛けた。
ちょうど彼には数日前に生まれたばかりの孫娘…ミレルがいた。
ウマルはその孫娘とシャハーンの子の人生を入れ替えようと考えたのだ。
すなわち、シャハーンの子を自らの孫として育て、本物の孫には“身寄りの無い縁者の娘だが実は王の娘”という役割を与え、本人達にも知らせずに育てた。
二重の保険…もしシャハーンの子の存在を知った王妃や宰相の一派が探りを入れて来ても、最終的に行き着くのはウマルの孫…ミレルであり、本当のシャハーンの子…セイルは守られるという訳である。
この事実を知っているのは、シャハーン、ウマル、後にセイルとミレルの乳母となる女性、医者、そして国王アフメト四世…この五人のみ。
意外な事に両親であるオルハンとヤスミーンは知らないという…。

セイルは思い出した。
母ヤスミーンは出産後なかなか体調が回復せず、ようやく意識がハッキリして初めて我が子(セイル)を抱いたのは出産から数日経ってからの事だったという。
この頃から既に冷淡な仕事人間だった父オルハンも(偶然か必然か)ちょうど仕事が立て込んでおり、王宮に泊まり込んでいて、出産の場に立ち会っていないどころか、我が子と対面したのは、やはり数日後の事だったという…。
…という事は、ウマルが二人に知られずにミレルとセイルを入れ替える時間は充分にあったという事だ。
ウマルとヤスミーンは何の疑いも無くセイルを自分の子供と信じて育てていたのだ…。

「……なんて事だ…………」
セイルは思わずポツリとつぶやいた。
それだけ言うのが精一杯だった。
他に表現する言葉が見あたらなかった。

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