PiPi's World 投稿小説

剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 274
 276
の最後へ

剣の主 276

今のジェムの姿はイルシャ王国大執政閣下ではなく。
駄々をこねるだけの愚かで情けない餓鬼その物で、凡そ支配者と程遠い物であった。

「ふう〜敵が自滅したお陰で何とか助かった」
ジェムの無茶な追撃命令によりセイルたちは辛うじて何とか逃げ延びる。
そして、舟を漕ぎながら昼間まで続いた逃走劇に何とか決着が付けてアルトリアは少しだけホッとする。

「そうだね・・・でも、衝突して海に落ちた彼等(水軍の将兵たち)は大丈夫だろうか・・・ジェムの奴、味方を何だと思ってるんだ!」
「だから奴に付いてくる人間は少ないのですよ。ジェムみたいな支配者は直ぐに滅びます」
自分を捕らえるために味方を犠牲にするジェムの非道なやり方にセイルは怒りを燃やすが、同時に彼等に起こった悲劇の原因は自分にある事を自覚し罪悪感にとらわれる。
そんな主をみかねアルトリアはジェムの天下がそう長くない事をセイルに話す。


その後、二人の乗った舟は哨戒中の軍船の目をかい潜り、人気の無い湖畔に辿り着いたのだった。
当初は港町ボハイラシャットを目指していた二人だったが、あの様子では港の方も兵士達が網を張っているに違いないと考え、港は避けたのである。

上陸して少し歩いた所に小さな漁村があった。
「良かったぁ〜。これでやっと一息つけるよ」
ホッと一安心するセイル。
軍船らしき船影を見る度に進路を変えながら、ほぼ丸一日の長さを舟に揺られていたので疲れていた。
「残念ですがセイル様、湖畔の村や町は既に私達の情報が伝わっている恐れがあります。今はとにかく出来るだけ遠くへ離れた方が良いですよ」
「そ…そんなぁ…もう疲れたよ…」
へたり込むセイルを余所にアルトリアは地図を取り出して広げて位置を確認し始める。
「ふ〜む…この村はここか…するともう少し行けば街道に出られるが、表街道はマズイか…あ!」
「どうした?」
「セイル様!重要な事を忘れていましたよ!」
「な…何?」
「サーラ殿は今どこに居るのですか?」
「あ……」
セイルは頭を抱え込んでしまった。
「アハハ…僕たちはなんて馬鹿なんだろうね。サーラ様の場所も知らずに飛び出して来るなんて…」
「仕方ありません。セイル様の言われた通りどこか村へ入りましょう。小村ならまだ私たちの事も知れていないかもしれませんし、サーラ殿の軍勢の動向も噂程度には入っているかもしれません。」
「そうだね。そうしよう。」
「ですが、いまやここは敵地です。くれぐれもご注意ください。」
力なくうなずくセイルに、アルトリアは注意を与える。

‐ある小さな村の酒場‐
 キィ…
「いらっしゃい」
扉を開けて入って来たのは旅人らしき二人の娘だ。
二人とも頭からスッポリとフードを被っていて顔は見えない。
「ふぅ…店主、まずは水を一杯もらいたい」
「……」
二人はカウンター席に腰掛け、片割れが言った。
もう片方は、ずいぶん無口なようである。
フードからチラッと覗く顔を見る限り、二人ともかなりの美少女のようだ。
店主は水を満たした杯を二人の前に置いて言った。
「あいよ。それにしてもお客さん、今どき女二人連れで旅なんて珍しいね」
「…そうだろうか?」
「……」
「ああ、近ごろ内乱やら食料不足やらで国全体がゴタゴタしてるせいで、こんな田舎でも治安が悪化してるんだ」
「なるほどな…だが心配ご無用。この通り剣の心得はある」
そう言って娘は腰から下げた剣を見せた。
「ふぅ〜ん…可愛い顔して意外だね。しかし、そっちの姉ちゃんは随分と無口なんだな」
「…っ!」
さっきから黙っている娘がビクッと身を強ばらせた。
「ああ、これは私の妹でな…。妹は生来の無口なのだ。気にしないで欲しい」
「ふぅ〜ん…あんま似てねえ姉妹だな」
店主は訝しげに“自称”姉妹を交互に眺める。
「……」
妹だという娘は何も言わずにフードの裾を摘んでグッと下げた。
店主は言う。
「しかしお客さん、都市間を行き来する乗り合い馬車は治安の悪化の関係で、もう運行してないよ?街道も整備されなくなった途端、あっという間に砂に埋まっちまったし…一体どうやって目的地まで行く気だね?」
「ふむ…そうなのか…それは困ったな…」
「……」
「どこへ行く積もりか知らんが、もし砂漠を越えて行くとなるとラクダが必要だぜ?」
「なるほど…忠告感謝する。ところで店主、一つ訊きたいのだが?」
「何だね?」
「いや、ちょっと疑問に思っただけで別に深い意味などは無いのだが、イルシャ・サーラ王女って今どこで何してるか知ってるか?」
「…っ!!!」ガタンッ
姉の唐突な質問に妹は何か言いたげに勢い良く立ち上がった。
「サーラ王女?…さぁ、判らねえなぁ…何せ王太子が死んじまって反乱軍が瓦解してから情報が錯綜してるんでな…ま、噂なら色々聞くがな…」

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す