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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 273

「あ…?」
ライラはウマルの様子がおかしい事に気付く。
「う…うぅ…ゴホッ…ゴッ…グハァッ!!?」
ウマルは苦しそうに胸を押さえながら咳き込み、吐血した。
「…あらら、隊長ぉ…どうしちゃったんですか一体…?」
「うぅ…み…見ての通りじゃ…ゲッ…ゲホッ…このワシの体は…病に侵されておる…」
「…はぁ?おいおい、じゃあ何ですか…私は病人相手に勝った勝ったと馬鹿みたいに大喜びしてたって訳ですか…」
「…ゴホッ…」
「ハァ…な〜んだ。興醒めだなぁ……まあ良いや。セイル君達を追おうっと…フフフ♪…あの子の苦痛に歪む表情、楽しみだなぁ…」
「ま…待て……待ってくれ…」
踵を返して去ろうとするライラに、ウマルは最後の力を振り絞って言った。
「…はぁ?まだ何か用ですか?この死に損ないが…」
「…トドメを……」
「……」
「…ワシは…もう…長くは持たん……お主に未だ騎士としての心が一片でも残っておるのならば…頼む!…騎士の情けじゃ……」
「……へぇ…てっきり命乞いでもするかと思ったら……解りましたよ、隊長殿…」
ライラは再びウマルに歩み寄り、静かに剣を構えた。
「…本当に良いんですね?」
「フッ…ああ、やってくれ…ワシは騎士じゃ…暖かいベッドで眠るように死ぬよりも、戦いで敵の刃によって死ぬ事を望む……さぁ!斬れぇっ!!!」
「…はああぁぁぁっ!!!!」
ライラはウマルに向かって剣を振り下ろした…。


その頃、湖上のセイルとアルトリアは…
「お祖父様……」
セイルはどんどん遠ざかって行くジャズィーラ島を不安げに見つめていた。
「ねえ、アルトリア…お祖父様は大丈夫だろうか?」
「……」
アルトリアはウマルが重い病気である事を知っていた。
彼女にはウマルの覚悟が解っていた。
彼は自らの命と引き換えにセイルと自分を逃がしたのだ…。
「…おい、アルトリア?」
「…大丈夫ですよ。ウマル殿なら…きっと大丈夫です!信じましょう!」
「…う…うん!そうだね」
「セイル様、後ろを振り返ってはなりませんよ。せっかくウマル殿が時を稼いでくれたのです。今の私達に出来る事は前に進むのみです」
「ああ、その通りだ!」
「その意気です。…ところで右腕の傷は大丈夫ですか?」
「こんなの掠り傷だよ。とりあえず布を巻いて止血しておいたけどね」
「それは大事無くて何よりでした。…そう言えば、ウマル殿からいただいた袋の中身は何でしょうね?」
「ああ、母様とミレルからだって言ってたな…」
セイルは布袋の中を確かめてみた。
「これは…!!」
中に入っていた物は薬入れ、短刀、そして手鏡だった。
手鏡はアフメト王が死に際にミレルに託したあの鏡、短刀はヤスミーンがオルハンに嫁いだ時に嫁入り道具の一つとして持って来た物(かつての戦乱期、イルシャ騎士の婦女は敵に辱められそうになると、その前に自ら命を絶って貞操を守った…その名残である)…いずれも当人達にとっては大切な品だ。
「こんな…大事な物を…」
「セイル様に持っていて欲しいという事ですよ」
「母様…ミレル…」
今更ながらセイルは胸が熱くなった。
「この薬入れは…?」
「それは中身は軟膏(塗り薬)だよ。小さい頃、怪我をすると母様が良く塗ってくれたんだ…」
「では腕の傷に…」
「ああ、頼むよ」
セイルは袖をまくった。
アルトリアは巻かれた布を解き、膏薬を傷口に塗り付ける。
「……」
セイルは幼い日を思い出していた。

 ※ ※ ※

『うぇ〜ん!うぇ〜ん!』
『あらあら、どうしたの?セイルちゃん…まぁ、擦りむいちゃったのね。じゃあママがお薬を塗ってあげましょうねぇ…』
……
『…はい、これでもう大丈夫♪』
『ありがとう、母さま!』
『あらあら、泣いたカラスがもう笑った…♪』

 ※ ※ ※

「く……っ!!」
セイルは熱くなった目頭を押さえた。
「…どうしました?セイル様…薬が染みましたか?」
「…ああ、薬だよ…昔から染みる薬なんだ…この薬は…」
「…そうですか…」
舟は湖上を進んでいった…。


その頃、湖岸にある港町ボハイラシャットには、前線から戻って来たジェムが到着していた。
このボハイラシャットはジャズィーラ島へ行き来する人と物の中継地であり、また軍の補給基地と造船所とドックを備えた軍港の役割も果たしていた。
同じような港町は各方面にあり、アズィーム湖を利用した流通網と防衛圏を形成している。
この流通網と防衛圏が新王都ジャディード・マディーナの繁栄を支えて旧王都イルシャ・マディーナを凌ぐ勢いをもたらしていたのだが、旧王都イルシャ・マディーナの治安を悪化させ犯罪都市にもしていた。

「ふう〜(ふふふ、もうすぐセイルに会える・・・ああ〜楽しみだなぁ〜)」
ボハイラシャットに到着して休息を取るジェムはセイルとの再会に胸を踊らせていた。


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