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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 268

「待ってえぇ!!!行かないでえぇ!!!実家に捨てられ…夫に捨てられ…この上息子にまで捨てられたら私どうしたら良いのおぉ!!?」
ヤスミーンはセイルの服の裾にすがり付いて泣きじゃくった。
セイルは流石に胸が痛んだが、彼の決意はもう覆らなかった。
「…さようなら、母様…お元気で……」
「…あぁ…行くのね…行ってしまうのね…この世でたった一人の母親を捨てて…………あぁぁっ!!!?もう良いわよ!!!あなたが悪魔のように冷たい人間だという事が解ったわ!!!どこへなりとも行ってしまえば良いのよ!!!行け!!!行ってしまえ!!!私は一人で寂しく死ぬのよ!!!早く行けえぇぇっ!!!!」
「奥様…!!」
見かねたミレルが何か言おうとしたが、その肩にウマルがポンと手を置いて、静かに首を横に振った。
「……」
セイルももう何も言わず、悲しげな表情で部屋を後にしたのであった…。

「母親との別れは済んだ?」
ウズマが尋ねる。
「ええ、まぁ…」
曖昧に答えるセイル。
そんな彼にアルトリアは言う。
「…セイル様、ヤスミーン殿は口ではああ言っておられましたが、本心では…」
「…ああ、解ってるよ。自分の母親だからね…。でも、けっきょく最後はケンカ別れになっちゃった…」
「いつか解り合える日が来ますよ。後ろを振り返ってはいけません。行きましょう!」
「ああ、そうだね!…そうだ、ウズマさん。さっきは僕のフォローをしてくれて、どうもありがとうございました」
「別にフォローしたつもりは無いよ。でも恩に感じてるなら一つだけ約束しなさい。絶対に生きて帰って来る事。…この子を異母兄の顔を知らない子にはしたくないからね…」
そう言ってウズマは自分のお腹を撫でた。
「ウズマさんも、お体を大切に…!」
そしてセイルは屋敷を後にしたのであった…。

…ところが、セイルの家にはジェムの配下である白衛兵達が監視に付いていたのだった。
疑り深いジェムの事…その辺りは抜かり無い。
「…おや?ご同役、あれを見てみろ。クルアーン・セイルが旅姿で屋敷から出て来たぞ。アルトリアとかいう侍女も一緒だ」
「おかしいな…彼は気鬱の病ではなかったのか?」
「どうも怪しい。もしかしたら出奔する気かも知れんぞ」
「ジェム様のご寵愛を受けていながら…不忠の輩め!仲間を呼べ。捕らえて問いただそう」

‐sideセイル&アルトリア‐
「…セイル様、マズいです。付けられています…」
「何だって…!?」
「二人です。私に掴まってください!瞬間移動で港まで飛びます!」
「そう言えば君、そんなチート能力あったんだよね…」
「はぁ…っ!」
次の瞬間、アルトリアは瞬間移動魔法を発動させた。

‐side白衛兵‐
「…あっ!消えた…」
「くそっ!気付かれていたか!こうなったら先回りして港に応援を回すんだ!」

船着き場に出たセイルとアルトリアであったが、船に乗り込む所ではなかった。
「良いか!?クルアーン・セイルが島を出る気なら必ずこの港に来るはずだ!何としても探し出せ!」
「「「はっ!!!」」」
いつの間に命令が伝わったのか、もう白衛兵達が辺りを探し回っている。
しかも後から後から応援部隊が駆け付けて来て数は増える一方なのだった。
「嘘だろオイ…」
「さすがはジェム直属の部隊…対応が早いですね」
セイルとアルトリアは波止場に積み上げられた積み荷の影に身を隠して様子を伺っていた。
「こうなったら…一気に船まで駆け込むしか無い。その際に斬り合いになるかも知れないけど…」
飛び出そうとするセイルの服の裾をアルトリアはグッと掴んで落ち着かせる。
「お待ちください。既に数が多すぎます。強行突破は最後の手段にしましょう」
「でもこのままここに隠れてても、どんどん敵の数が増えて不利になってくばかりだよ」
「私に考えがあります…コイツを利用しましょう」
そう言ってアルトリアは側に積まれた何だか良く判らない木箱をコンコンと軽く叩いた。

「あのぉ…すいやせん、兵隊さん。そろそろ積み荷を船に積み込みてえんですが…」
一人の船主の男が恐る恐る白衛兵達の隊長らしい男に尋ねる。
いつものように人夫達に命じて自分の船に荷物を積み込んでいたら、いきなり白衛隊の一隊が現れて「全員そのまま動くな!」と命じられたのだ。
隊長は首を横に振って言った。
「ならん!クルアーン・セイルを見付けるまでは全ての作業を中止せよ」
「んな事言ったって、そのクルなんとかってヤツと我々は無関係ですぜ。犯罪者か何だか知らねえが商売は早さが命だ。ねえ…お願いしやすよ、旦那ぁ…」
船主は隊長の手を取って何かを握らせた。
「…………仕方ないな。解った。積み込みを許可しよう。その代わり兵士達の監視が付くぞ。怪しい動きがあればすぐに止めさせるからな」
「ありがとうございやす!おーい!お前らぁ!作業再開だぁ!」
「「「へーい!!!」」」
人夫達は荷の積み込みを始めた。
その荷というのがセイル達が身を隠している木箱の山だった。

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