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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 267

「坊っちゃま、支度が整いました」
話が大体纏まった頃、ミレルは食堂に入りセイルの旅支度が整ったのを伝えるとセイルはミレルに礼を言う。
「ミレル、何時もありがとう」
「いえ、私は何時いかなる時も大旦那様とセイル坊っちゃまの味方ですから」
「ミレル・・・そんな・・・」
ウマルとセイルの味方だと言うミレルの言葉にショックを受けヤスミーンは打ちひしがれる。
「母様・・・」
しかし、セイルはヤスミーンを助けようとしなかった。
冷たいと解っていたが、もしも助けたら再び決意が鈍るのを恐れウマルたちに任せた。


「…さて、もたもたしてはおれんな」
ウマルも腰を上げる。
「さっきセイルが言ったように、セイルが王都から居なくなった事をジェムが知ればヤツの追及の手がワシラに及ぶ…ワシラもセイルと前後し早々にこの王都を去ろう」
「ま…待ちなさい!!私は…私は認めてないわよ!!?」
ヤスミーンが叫んだ。
ウマルは諭す。
「ヤスミーンさん、まだ解らないのかね?もうそういう事を論じる段階じゃないんじゃよ。セイルは決めたんじゃ。その決意はもう誰にも覆す事は出来んよ。子はいつか親元を離れて旅立つ物じゃ。ならばワシラがすべき事は、旅立つ子供の背中を押してやる事じゃないかね?他ならぬ親が足を引っ張ってどうするんじゃ」
「私はセイルちゃんの身を一心に案じて…!!」
「それがセイルにとっては枷なんじゃ。とりあえずあんたはウズマさんや使用人たち共々田舎のワシの屋敷に来て貰う事になるじゃろう。急いで支度を整えなさい。ミレル、ヤスミーンさんの荷造りを手伝ってくれ」
「解りました。大旦那様」
「そんな…!?またヤヴズ兄弟のクーデターの時のように夜逃げ同然に逃げ出さなきゃいけないって言うの!?嫌よ!!そんなの絶対に嫌!!」
「奥様、参りましょう…」
「は…離しなさいミレル!!私は行かないし、セイルちゃんも行かせはしないわよ!だいたい皆おかしいわよ!今が幸せなのに、何故この生活を棄てて苦難を選ぶの!?私には解らないわ!」
ヤスミーンは涙ながらに皆に訴える。
ウマルは言った。
「仕方ない…ミレル、ヤスミーンさんを部屋に連れて行って少し休ませよう。ワシも手を貸すよ」
「はい、大旦那様…」
「嫌ぁ!!嫌ぁー!!離してえぇ!!」
ウマルとミレルはヤスミーンを連れて食堂を出て行った。
「「「……」」」
あとに残ったのはセイル、アルトリア、ナシート、ウズマである。
「ハァ…あんたの母親、ありゃまるで子供ね…」
「…仕方ないですよ。ウズマさん、あなたは物心付く前にご両親を亡くされて苦労なさったんでしょう?」
「まあね、でもお陰で世の中を生き抜く術(すべ)は身に付いたわ」
「母はずっと誰かに守られて生きてきた人なんです。衣食住はもちろん、幸福も、安全も…全て与えられて来た。だから自分で得る術を知らない。あの人は自分の力では立てない人なんです。だから今の日常が無くなるとなれば全力で抵抗するし妨害もするでしょう」
「ふぅ〜ん…私は守ってくれる人間なんて誰もいなかったからねぇ…自分の居場所は自分の力で勝ち取るしか無かったわ…」
そこへ、ずっと黙っていたナシートが口を挟んだ。
「私は水と空気と食べ物があればどこでも幸せだよー♪」
「お前はちょっと黙ってろ…」
同じくずっと黙っていたアルトリアが肩の上のナシートの口を指で塞いだ。
セイルは言う。
「…僕には、母の気持ちも少し解ります。僕も母と同じ人間ですから…。騎士の家に生まれ、騎士学校に通い、騎士としての仕事に就き…全て用意された人生だった。その日常が全部無くなるのは怖いです。とても怖い…」
「でもあんたは選んだんだろう?」
「はい…!」
セイルは頷いた。
その目を見てウズマは思う。
こいつは大丈夫だ…と。
根拠は無いが、そう思えた。
アルトリアがセイルに声を掛けた。
「ではセイル様、行きましょうか」
「ああ、でもその前にする事がある」
「する事…?」
「ケジメだよ」

旅支度を整えたセイルはヤスミーンの部屋へとやって来た。
トントン…
「母様、良いですか…?」
「…セイルちゃん!?」
「セイル、来たのか?」
「坊ちゃま…」
ヤスミーンはもちろん、彼女を宥めていたウマルとミレルも驚いた。
てっきりセイルはヤスミーンに会わずに旅立つと思っていたからだ。
「セ…セイルちゃん!私は許さないわよ!」
「いいえ、母様…お許しを得に来たんじゃありません。お別れを言いに来ました…」
「…っ!!?」
「…母様、それにお祖父様、ミレル…セイルは行きます。もう帰って来られないかも知れませんが…でも決めました。どうか我が儘をお許しください」
セイルは静かにそう言うと三人に向かって頭を下げた。
その落ち着いた態度からは、彼の固い決意が見て取れた。
「セイル…」
「坊ちゃま…」
「ま…待って!!セイルちゃん!!実は私…その…病気なの!!凄い難病で…そう!!不治の病なんだから!!余命三ヶ月…いいえ!!余命三日よ!!三日!!」
「母様……百歩譲って、例えそれが本当だとしても、僕は行きますから…」

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