PiPi's World 投稿小説

剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 264
 266
の最後へ

剣の主 266

「許すも許さないも無いわよ。あなたの人生でしょう?」
「お前がそうすると決めたんじゃろう?ならば後悔しない生き方をすれば良い。ワシらの事は心配するな」
「あ…ありがとうございます!!」
セイルは皆に向かって頭を下げた。
ところが…
「ちょっと待ちなさい!!私は反対よ!!」
声を上げたのはヤスミーンだった。
「「「……」」」
「出奔してサーラ王女の元へ行く?…そんな危険な事、許せる訳ないじゃない!!」
「か…母様…!?」
「セイルちゃん!落ち着いて良〜く考え直して!あなた一人がサーラ王女の元へ馳せ参じたとして、一体何の約に立てるって言うの!?」
「…うっ!!」
それはセイルも考えなかった訳ではないが、棚上げにした疑問だ。
痛い所を突かれてセイルは反論出来ない。
「全てを捨てて自分や家族を危険に晒してまでサーラ王女の元へ行きたいの!?だいたいサーラ王女はあなたの事なんか必要としてないかも知れないわよ!別に助けを求められた訳でもないんでしょう!?あなたが一人で勝手に張り切ってるだけじゃない!そんな一時的な感情に任せて行動したら、きっと後悔する事になるわよ!」
「う…うぅ…っ!!」
普段とは打って変わって、意外にも理詰めで弱点を的確に指摘して来るヤスミーン。
セイルは全く言い返す事が出来なかった。
ヤスミーンの言葉は正論だった。
だがその裏には“息子がどこか手の届かない遠い所へ行ってしまう事を全力で防ぎたい”という狂おしいまでの保護欲と母性が渦巻いていた。
だがその主張は現実だった。
「…解る?セイルちゃん…あなたは今のままが一番幸せなのよ…一時の気の迷いに騙されては駄目…あなたは今まで通り、この家で私やお義父様達と一緒に幸せに暮らして行くのよ…これからも…ずっと…ず〜っとね…」
「……(そうだよな…確かに母様の言う通りじゃないか…サーラさんはきっと僕の力なんか必要としてない…行っても迷惑かけるだけだ…そんな事も解らずに一人で張り切って…馬鹿みたいじゃん、僕…)」
現実を突き付けられたセイルは気持ちが沈んできた。
さっきまで命を懸けてでもやり遂げようと決意していたのに、それが急にちっぽけな物に思えてきた。
ところが、その時…
「あ〜やだやだ。典型的な子離れ出来ない親じゃない…こういう母親にだけは死んでもなりたくないわ〜」
ウズマだった。
「……あなた、いま何て言ったのかしら…?」
ヤスミーンはウズマを睨み付けながら尋ねる。
「あんたの言ってる事は確かに正しい。でもセイルは行くって決めたんでしょう?だったら行かせてやれば良いじゃない。それで失敗して後悔するのも、痛い目見るのも、セイル自身の責任でしょう?」
「信じられない…!何て非情な女なの!?所詮まだ子供を産んで育てた事の無いあなたには、子を想う母親の気持ちなんて理解出来ないのよ!あなたを愛情かけて育てたあなたの母親に心から同情するわ!」
「お生憎様…私の親は物心つく前に死んでね、その後は親戚の間をたらい回し。どこに行っても厄介者扱いだった…。だから親が子供に対してどんな想いや愛情を抱くかとか、正直いまいち良く解らないわ…。でもね、自立した人格を持つ人間同士が互いに尊重し合い、信頼し合う関係なら解ってるつもりよ…。私に言わせてもらえば、あんたはセイルを一人の人間として尊重していないし、信頼もしていない。私には、ただ自分の思い通りになるよう支配下に置いておきたいだけのように見えるわ」
「……」
「「「……」」」
ヤスミーンも他の者達も何も言わなかった。
ウズマは続ける。
「ねぇ、あんた、さっき決意を打ち明けた時のセイルの目を見た?ちゃんとあの目を見たんなら、彼の決断を頭ごなしに否定する事なんて…それが例え困難極まりない事だとしても…出来ないはずよ」
「……」
「……」
「ウズマさん…」
セイルは思わず彼女の名を呟く。
皮肉な事に彼の想いを最も真摯に受け止め理解してくれたのは、他人であるはずのウズマだったのだ。
いや、他人だからこそ…なのかも知れない。
ウズマは今度はセイルに向き直って言った。
「あんたもあんたよ、セイル!なに母親に反対されたからって弱気になってんのよ!さっき命懸けでもやるって言ったばっかりでしょう!」
「…そうでした…そうだった!ごめんなさい!僕、意志弱くて…!」
「謝らなくて良い!とにかくあんたが考えて決めた事でしょう!?なら誰に何と言われようと…どんな障害が立ちはだかろうと…貫きなさい!」
「は…はい!」
「うん、その意気なら何とかなるわ・・・(やっぱり、あの人(オルハン)の子ね・・・)」
未だ頼りない所があるが、それでも頑張る意気込みを感じるセイルの言葉に大丈夫だと確信すると。
何故かセイルからオルハンの面影をウズマは感じ非常に嬉しかった。


SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す