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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 262

シェヘラザードの叫び声だけが虚しく響いた。
「お姉様…」
ドゥンヤザードはゆっくりとシェヘラザードに歩み寄る。
シェヘラザードはアルシャッドに向かって怒鳴りつけていた。
「アルシャッド!!!気をしっかり持ちなさい!!!こんな所で死んでは駄目よ!!!お前はイルシャの王になるのだから…っ!!!!」
「お姉様……もう終わりにしましょう」
ドゥンヤザードは背中からそっと姉を抱き締めた……。

…いや……

抱き締めたように周りの者には見えたのだが…

その右手に握られた短刀がシェヘラザードの喉笛に深々と突き立てられていた。
「…ガハ…ッ!!!?…ドゥ…ドゥンヤ…ザ…ド……グハァッ!!!?」
シェヘラザードは口から大量の血を吐きながら、アルシャッドの上に崩れ落ちた。
「お…王妃様ぁ…っ!!!?」
「ドゥンヤザード様!!!何という事を…!!?」
周りの者達は慌てた。
「…お黙りなさい……もう私達はお終いなのです…アルシャッド殿下が…私達の精神的主柱であり戦う理由が…失われてしまった……もう全てお終いです……」
そう言うとドゥンヤザードは姉の命を奪った短刀を自分の首筋に当てて、躊躇う事無く引いた。

 プシャアアアァァァァァァァ…ッ!!!!

鮮血がまるで噴水のように噴き出した。
ドゥンヤザードは空を仰いで叫んだ。
「ヤヴズ・ジェム!!!!お前の勝ちよ!!!!」
そして彼女は姉の横にバッタリと倒れ伏して息絶えたのだった…。


その報せは反乱軍内に忍び込んでいた密偵により、すぐさまジェムの元へともたらされた。
「お喜びください閣下!!シェヘラザードとドゥンヤザードが死にました!!間諜からの報告によれば、アルシャッドの死を知って自刃したと…!!」
「そうか…」
部下からの報告をジェムはどこか心ここにあらずといった様子で聞いていた。
不思議な事に全く気持ちが高揚しない。
本来ならもっと心躍る報せのはずなのに…。
「反乱軍内には動揺が広がっております!将軍達が必死に宥めようとしていますが、兵達は浮き足立ち、脱走者も続々と出ている模様です!」
シャリーヤが言う。
「ガタガタね…やはりアルシャッドという主柱を失った彼らは脆い…」
そしてジェムに向き直って進言した。
「ジェム様、今一撃を加えれば彼らは崩れます。総攻撃のご命令を…」
「…ああ、総攻撃を…しろ」
「かしこまりました!!」
部下はジェムの天幕を出て行った。
シャリーヤは言う。
「ジェム様、ここは是非とも陣頭に立ち指揮を…。その方が兵達の士気も高まりましょう」
「…いや、僕は帰る…」
「帰る?…今、ジャディード・マディーナへ帰るのですか…?」
「ああ…」
「恐れながら…今この局面で軍の総大将であるジェム様が陣を去るというのは…」
「黙れ!!帰ると言ったら帰るんだ!後の事は将軍達に任せれば良い!」
「……かしこまりました。すぐに撤収の準備に掛かります…」
シャリーヤは出て行った。
一人になったジェムはボンヤリと宙を見つめて呟く。
「…セイル…そうだ…セイルに…会いたい…」
何故だか解らないが、ジェムの頭にふと彼の顔が浮かんだのだった。
自分の心の中にある虚しさや恐怖心をセイルならば払拭して慰めるとジェムは思っていたからである。
シャリーヤやセイルの立場を考えない非常に身勝手な行為であるが、今のジェムが心を許せるのはセイルしかいなかった。
しかし、そのセイルは非情なジェムのせいで先輩アブ・シルを殺されたショック。
「・・・・・・」
立ち治る事が出来ず自分の不甲斐なさを責め未だに自分の部屋に引き篭っていた。


「坊ちゃま…」
ミレルはセイルの部屋のドアをノックしようとして、その手を引っ込めた。
「……」
部屋に入ったとしても、掛ける言葉が見当たらないのだ。
セイルへの励ましや自分の願いは既に充分に伝えた。
そしてそのどれもセイルの心には響かなかった…。
「ハァ…私って無力…」
溜め息を吐くミレル。
そこへ…
「あら、ミレル。どうしたの?」
「あ、奥様…」
現れたのはヤスミーンだった。
「…奥様、セイル坊ちゃまは一体いつまでああして鬱ぎ込んでらっしゃるんでしょうか…?」
「さあ、解らないわ。でも…」
「でも…?」
「私は最近、セイルちゃんがずっと今のままでも良いかも知れないって思うの」
「そ…そんな…!?」
「だって…あの子は元気になったら私の手から離れてどこか遠い所へ…私なんか追い掛けても行けないような遠い所へ行ってしまうような気がするんですもの…今のままならセイルちゃんはずっと私の許に居てくれる…永遠に私の可愛いセイルちゃんでいてくれるの…」
「奥様…」
「…私の事、おかしいと思う?頭のおかしな女だと…」

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