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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 261

「これはこれは…お待ちいたしておりましたよ、王太子殿下…いや“元”王太子殿下とお呼びすべきかな?」
「久しぶりだな…ヤヴズ・ジェム」
「殿下、戦いを終わらせるために来たと仰いましたな…よくご決断いただきました。殿下のその勇気のお陰でこの戦いはもうすぐ終わりますよ…!」
そう言うとジェムはサッと右手を上げた。
ザザザッと茂みを掻き分けてシャリーヤと銃を持った十名前後の兵士達が姿を現す。
「殺れえぇいっ!!!」
ジェムの合図で兵士達は一斉にアルシャッドに向けて銃を構え引き金を引いた。
…その一瞬、ジェムにはアルシャッドの口元がフッと微笑んだように見えた…。
「…っ!?」
次の瞬間…

 ズダダダダダアァァーンッ!!!!

「ぐ…っ!!!?」
アルシャッドの身体を幾つもの鉛玉が貫通した。
彼は体中に開いた穴から血を噴き出し、バッタリ倒れた。
「…笑った…だと…?」
ジェムには訳が解らなかった。
彼はアルシャッドに歩み寄る。
アルシャッドは手足を投げ出して仰向けに倒れていた。
まだ微かに息がある。
ジェムはアルシャッドを見下ろして言い放った。
「私の勝ちです」
「……」
「無様ですな、殿下」
「……」
アルシャッドは何も言わない。
それとももう何も言えないのか、ただジェムをジッと見つめている。
ジェムは得意げに続ける。
「フフフ…飛んで火に入る夏の虫とはアナタの事ですなぁ、殿下…。だいたいアナタは私が和平を結ぼうなどという話を本気で…信じ…て……」
だがジェムは言葉に詰まった。
彼を見つめるアルシャッドが、とても満足げな表情をしている事に気付いてしまったからだ。
「……ま…まさか貴様!これが罠だと知って来たのか!!?戦いを終わらせるために来たというのはそういう事だったのか!!?」
「……」
そう、アルシャッドは己の死によって戦いを終わらせる事を選んだのだった。
ジェムは見る間に真っ青になってガクガクと震え始めた。
彼はアルシャッドに向かって叫んだ。
「お…お前!!!これで僕に勝った気になるなよ!!?お前はここで死に、僕は生き残ったんだ!!!この戦いは僕が勝ったんだ!!!!僕が勝者だぁ!!!!」
「……」
ジェムを見つめるアルシャッドの表情が僅かに変化した。
それはどこか悲しそうな、残念そうな…まるでジェムを哀れむような表情だった。
「…や…止めろぉ!!!そんな哀れむような目で僕を見るのは止めろおぉ!!!今にも死にゆく敗者のクセに…!!!僕に同情の視線を向けるのは止めろおぉ!!!!う゛あ゛あ゛あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?」
ジェムは絶叫して腰に下げていた剣を抜き、アルシャッドに馬乗りになって、その顔を滅多刺しにした。
アルシャッドが息絶えても、顔がグチャグチャに潰れて誰だか判らなくなっても、ジェムは狂ったように刺して刺して刺し続けた。
「僕の勝ちだぁ!!!僕の勝ちだあぁ!!!僕の勝ちだあぁぁ!!!!」
ジェムは泣いていた。
しかも失禁していた。
彼は幼子のように泣きじゃくりながら、もう動かないアルシャッドの亡骸を刺し続けた。
「「「……」」」
そんなジェムにシャリーヤも兵士達も声を掛ける事が出来ず、ただ黙って見ていた…。

目の上の瘤であるアルシャッド王太子の暗殺に成功はしたが、死体に鞭を撃つようにアルシャッドの死体を狂ったよう刺し続けるジェムの姿に黙ってみている兵士たちはこのまま彼に付き従うべきなのか戸惑う。
「・・・・・・」
「ジェム様・・・」
それでも、何処までもシャリーヤはジェムに付き従うつもりでいたが、ジェムと上手く接すれば良いか解らなくなっていた。


一夜明けて…
反乱軍の幕営地ではアルシャッドの姿が見当たらないというので大騒ぎになっていた。
「アルシャッドは一体どこなのおぉ!!?どこなのよおぉぉ!!?」
特にシェヘラザード王妃の取り乱しようといったら無かった。
「お姉様、落ち着いて…!」
ドゥンヤザードは困惑する姉を宥める。
そこへ、真っ青な顔をした一人の武官が来て告げた。
「…王妃様、アルシャッド殿下が…発見されました…」
「本当!!?アルシャッドは無事なの!!?」
「…それは…どうかご自分の目でご確認ください…」
天幕の外に、発見され“回収”されたアルシャッドが横たわっていた。
「……っ!!!!?」
それを目にした王妃は一瞬、絶句した。
だが次の瞬間、彼女はアルシャッドに駆け寄り、大声を張り上げて怒鳴りつけた。
「軍医いぃっ!!!!何をしているのおぉっ!!!?早く手当てをなさいっ!!!!酷い怪我よっ!!!!早くしないと手遅れになってしまうわあぁっ!!!!」
「「「……」」」
だが誰も動こうとしなかったし、何も言わなかった。
「早くうぅっ!!!!アルシャッドを助けるのよおぉっ!!!!私の命令が聞けないのおぉっ!!!?」

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