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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 260


「い…いひいぃぃ…」
広場に引き出されたデデンは上半身裸にされ、棒打ち用の台に拘束された。
顔は真っ青で全身から脂汗を流し、体は小刻みにガクガクと震えている。
木の棒を持った屈強な兵士が現れ、ブンッブンッと勢い良く棒を振って音を鳴らした。
「は…母上、叔母上、やはり止めましょうよ…こんな事は…」
弱々しい口調ながらも諌めるアルシャッド。
だがシェヘラザードは息子の言葉を無視して非情に言い放った。
「始めなさい!」
「はっ!」
棒が打ち下ろされる。
 バシィーンッ!!!!
「あ゛あ゛あぁぁぁっ!!!?」
バシィッ!!!バシィッ!!!バシィーッ!!!
「あ゛あ゛ぁぁっ!!!あ゛あ゛ぁぁっ!!!あ゛あ゛あ゛ぁぁぁっ!!!?」
デデンの背中を棒で打つ音と耳を塞ぎたくなるような苦痛に喚く悲鳴。
「あふぅ…」
 バタァーンッ!!!
アルシャッドは気を失ってぶっ倒れた。
シェヘラザードは思う。
(ハァ…まったく我が子ながら情けない…しかしそれ故に愛しい我が子よ…お前を王にするためならば私は悪魔にもなるわよ)
それは腹を痛めた我が子への愛情であると同時に彼女自身の執念であった。
おぞましいまでの情念であった。
そのために障害となる物は全て排除する。
例え身内であろうと容赦はしない。
棒で打たれ叫ぶデデンを見詰めるシェヘラザードの瞳には地獄の色が浮かんでいた…。

デデンは百杖の打ち据えを何とか生き抜いた。
だが背中の皮は禿げ、肉まで削がれ、既に虫の息であった。
兵士達は瀕死のデデンを台から下ろすと幕営地の外まで引きずって行って捨てた。
「しかしアイツも馬鹿な真似をしたもんだ…」
「まあ明日までは持たんだろうなぁ…」
兵士達は呑気に話し合いながら戻って行った。
「……」
デデンはもう動く事も言葉を発する事も出来なかった。
彼は思う。
(あぁ…俺はここで死ぬんだ…ジェムのご機嫌取りに自分から反乱軍への使者を願い出るなんて…まったく出世に目が眩んで馬鹿な真似をしたもんだ…考えが甘かったな…)
その時だった。
「デデン!デデン!」
彼の名を呼びながら何者かが近付いて来た。
アルシャッドだった。
「うぅ…で…殿下…?」
「おぉ!デデン、何という痛ましい姿だ!すぐに軍医を呼んで治療させよう!」
「はぁ…はぁ…お気持ちは有り難いのですが、医者は不用でございます…この傷です…私はもう助からないでしょう…」
「そんな事を言ってはならん!希望を捨てては…!」
アルシャッドの目には光る物があった。
デデンは思う。
(この人は俺などのために泣いてくれるのか…俺はこのような人を殺す手伝いをしようとしていたのだな…)
アルシャッドは母シェヘラザードの仕打ちに嘆いている。
「あぁ…母上は何と惨(むご)い事を…以前は厳しい所はあれど同時に優しさも併せ持っておられた…だがヤヴズ・ジェムに裏切られて、あの人は変わってしまわれた…今のあの人は鬼だ…」
そして彼はデデンの手を取って言った。
「デデン、頼む!私はヤヴズ・ジェムと停戦したいのだ。このままでは鬼と化した母上達はジェムを滅ぼすか己が滅ぶかするまで延々と不毛な争いを続けるだろう。私はこれ以上の犠牲を民に強いるのは忍びない。そのような王位など私は要らぬ。だから私をジェムの元へ案内するまで死ぬな。デデン!」
「……」
デデンは少し黙って、そして言った。
「申し訳ありませんが殿下…それは出来ません」
「なぜだ…!?」
「ヤヴズ・ジェムはあなた様との話し合いなど望んでいません…停戦に向けた話し合いがしたいと言えば平和主義者のあなた様は必ず来る…そうしてあなた様を誘き出し、一人で来たあなた様を殺すつもりだったのです…私に与えられた役目はあなた様をその場所まで案内する事だったのですよ」
「そ…そうだったのか……フフ…やはり母上の言う通りだったのだな…して、その場所とは?」
「…両軍が互いに睨み合っているこの地から、北へ向かって小一時間ほど馬を飛ばした所に、小さな森があります…その手前が約束の場所でございました…今もジェムとヤツの配下共がそこで待ち伏せているはずです…ですが殿下、決して行ってはなりませんぞ…行けばあなた様は必ず殺されます…」
「…解ったよ。良く話してくれたな…。だがデデン、何故その事を私に教えてくれたのだ?」
「…それは…私にも解りません…」
デデンは遠い目をして空を見た。
次の瞬間、彼の身体からガクッと力が抜けた。
「…デデン!?しっかりしろ!!」
だが、もう返事は無かった。


ジェムは約束の場所でアルシャッドを待っていた。
正確に言うと約束の場所が見える森の茂みの中に配下の兵士達と共に身を隠して…である。
「ジェム様、アルシャッドは本当に現れるでしょうか?」
「普通に考えれば罠だと気付くと思うのですが…」
もう数時間も待ち続けの兵士達がジェムに尋ねる。
シャリーヤが答えた。
「彼の性格から考えて、かなりの高確率で来ると思われます」
続いてジェムも言う。
「シャリーヤの言う通り…まぁ、そう急くな。獲物が現れるのを待つ時間も狩りの楽しみだぞ」
そこへ望遠鏡で監視に当たっていた兵士が地平線に何かを見付けた。
「!…ジェム様、単騎でこちらへ向かって来る影が見えます!」
「来た…!」
ジェムはニヤリとほくそ笑んだ。

デデンから聞き出した約束の場所に到着したアルシャッドは馬を下りて辺りを見回した。
誰も居ない…もしや遅すぎてもう帰ってしまったのだろうか?
アルシャッドは叫んだ。
「ヤヴズ・ジェム!居るかぁ!?私は王太子アルシャッドだ!戦いを終わらせるために来たぞ!」
すると目の前の茂みがガサガサと音を立てて揺れ、中からジェムが現れた。

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