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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 27

(あぁ…ついに戦闘が始まる!)
セイルは思わず体がブルッと震えた。いわゆる武者震い…いや、その半分は恐怖だろう。だが彼は奮い立った。腰に下げた聖剣の柄をギュッと固く握り締める。
「こらこらセイル君、これは実戦じゃないのよ。私達の武器はこっち…」
サーラはそんなセイルをたしなめ、木剣と防具を彼に渡した。
「…あ!そ、そうでした。ごめんなさい…」
我に返って謝るセイル。サーラはセイルの聖剣を見て笑って言う。
「フフ、今日も一緒なのね」
「はあ、まあ…」
セイルも少し恥ずかしそうに微笑み答える。

「緑チーム!!来ます!!」
「「あ…!」」
一人の生徒の声に慌てて防具を装着する二人。胸当て、肩当て、そしてヘルメットだ。木剣を防ぐ目的で作られた防具なので、本物の鎧兜よりも薄くて軽くて動きやすい。

‐緑チーム‐
「行けえぇぇ!!!突撃いぃぃー!!!」
先頭に立った緑チームの隊長は木剣を振りかざして叫んだ。
「た、隊長!まずいです!敵の陣地にセイルがいます!」
赤チームの陣地内にセイルの姿を認めた隊員の一人が叫ぶ。
「くそっ!半数以上が出て行ったから主戦力はいないと踏んでいたが…!」
あのダブウとの試合以降、セイルは皆からドルフ、サーラ、パサンに並ぶ実力者の一人に数えられるまでになっていた。
「えぇい!セイルが何だ!何も恐れる事はない!数人で一斉にかかれば倒せる!行けえぇーっ!!」

‐赤チーム‐
「みんな!焦ってはダメよ!落ち着いて戦えば私達の方が有利、守り通しましょう!」
「「「おぉーっ!!!!」」」
サーラの言葉に皆が応え、それぞれ武器を手に取って配置に付いた。
武器は木剣の他にもう一種類、槍(もちろん先端部分には綿が詰められた偽物)の使用が認められている。
剣と槍、それ以外には無い。
特に実戦においては必須となる飛び道具の類に関しては…。

実戦を模した演習で弓矢などの飛び道具を使用しない…その背景にはイルシャ王国300年の平和があった。
強大な国力を誇るイルシャ王国はもう300年もの間、大規模な内乱や対外戦争を経験していない。
永きに渡る泰平はイルシャ王国騎士達に“剣こそ武人の精神の象徴であり飛び道具などは卑劣である” という非現実的な矜持を芽生えさせ、定着させるには充分だった。
これは聖剣の勇者にして国祖であるイルシャ・ルーナ女王の影響が強い。
聖剣を振るい戦場を駆け巡る美しい彼女のイメージは数百年という時の流れの中で誇張され、騎士達の中で剣という武器のみが神聖視され、その他の武器…特に弓矢やボウガンなどの飛び道具系が蔑ろにされる思想的な土壌となった事は否めない。
かつてアルトリアがルーナ女王と共に戦場を駆け巡っていた時代には弓矢と乗馬が武人の嗜みとされ、剣などは補助的な武器に過ぎなかったというのに…皮肉な事である。
ただしこれは騎士となる階級…すなわち貴族および士族における話であり、平民においてはその限りではない。
現在イルシャ王国において弓矢やボウガンなどの飛び道具は“平民の武器”として生き残っていた。
また狩猟の際にも使用される。
今は亡き先代国王など、平民から成る“王立弓兵隊”を設立しようとして保守派貴族達に反対され断念したという話もあるぐらいだ。
現実問題、西大陸ではボウガンの改良が進んでいる所か、火薬を使って弾丸を撃ち出す火砲類まで発明され驚異的な早さで普及しているのだ。
そしてそれは東大陸…イルシャ王国配下の属国にまで及んでいた。
この脅威にいち早く気付いたのは皮肉にも儀礼等で他国を訪問し、その国の軍事演習や閲兵式を目にする機会の多い王族だった(あとは商人など)。
しかし肝心の軍事を司る騎士階級が“飛び道具は卑怯”などと寝言をほざいて、日々しこしこと自らの剣を磨いて悦に入っていたのである…。

「「「うおぉぉ〜〜っ!!!!」」」
緑チームは木剣・木槍を振りかざして赤チームの陣地に襲いかかった。
「襲いかかって来る敵兵には目もくれるな!!旗を奪え!!旗さえ取れば敵は終わりだぁ!!」
「そうはさせないわよ!!」
負けじと赤チームも応戦する。襲い来る敵を木槍で防ぐ。それをかいくぐって来た敵は木剣で倒す。
「もらったぁ!!」
二重の防衛を突破した緑の隊長が赤の旗に向かって走る。
「待て!!僕が相手だ!」
その前にセイルが立ちはだかった。
「うっ…セイル!」
「やあぁぁっ!!」
隊長は一瞬怯んだ。セイルはその隙を突いて木剣を隊長の兜に思いっきり打ち込んだ。
『ムアンマド・ラード、死亡!』
どこからか声が聞こえる。見ると彼らの頭上を一羽の白い小鳥が飛んでいる。魔鳥だ。この鳥の見た映像は騎士学校に中継されており、そこにいる審判が判定を下すという仕組みだ。“死亡”の判定が出た生徒は当然ながら退場…すなわち戦闘への参加も作戦への口出しも不可となる。

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