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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 258

だが血気盛んな故に困った事にもなる。
軍事も解らぬクセに作戦に口を出すのであった。

ここは前線から少し後方に下がった所にある反乱軍の幕営地…
「戦況はどうなっているのかしら?」
「ははあ、王妃殿下。現在両軍はこのように展開しております…」
机の上に広げられた地図上には赤と青に色分けされた兵棋(図上演習用のコマ)が並んでいる。
青…味方が数は少ないながらも赤…敵を翻弄している。
樽のような巨体を女性用の甲冑に身を包んだシェヘラザード王妃は、それを見て満足げに頷き、そして言った。
「今こそ決着を付ける時ね!後方に待機している部隊も投入しなさい!全軍突撃よ!!」
一人の武官が言った。
「お…恐れながら王妃殿下!いま敵軍を掻き乱して翻弄させているのは騎兵部隊と戦車(チャリオット)部隊でございます。それに対して後方に待機しているのは歩兵部隊…これを前線に投入しますと騎兵と戦車が味方を気遣って自由に動けなくなる恐れが…」
「うるさい!!私の言う事が聞けないの!?全軍で敵軍を押し潰すのよ!!逆らうと首をハネるわよぉ!!?」
「そ…そんな…!」
武官は困ってアルシャッド王太子の方を見た。
「と…とりあえず軍の総司令官であるアルシャッド王太子殿下のご意見も伺ってみないと…」
彼はアルシャッドがシェヘラザードを諫めてくれる事を期待したのだが…
「…君、母上の言う通りにしなさい…」
「か…かしこまりました…」
武官は仕方無く前線に伝令の早馬を飛ばした。
「フンッ!!戦争は弱腰では駄目なのよ!押して押して押しまくる!!これが勝利の秘訣よ!」
興奮した牛のようにフーッ!フーッ!と鼻息を荒げて意気込むシェヘラザード。
「……」
一方、アルシャッドはそんな無茶苦茶な理論で軍の作戦を引っ掻き回す母に、情け無くも何も言えなかった。

結局、この日の戦いでは決着が付かぬまま日が暮れ、戦闘は明日へと持ち越しとなった…。


一方、王国軍の幕営地では…
「フゥ…今日の戦いは肝を冷やしましたな」
「まったくです。もしあそこで敵が歩兵部隊を投入して来なければ、我が軍は敵の騎兵と戦車に蹂躙され、撤退を余儀無くされていたでしょうなぁ」
将軍達が安堵の表情で話し合っていると、不機嫌そうな顔をしたジェムが現れて言った。
「お前達!何を呑気な事を言っている!?敵のミスによって窮地を脱するなど情け無い!それでも栄えあるイルシャ王国軍か!?」
「「も…申し訳ございません!!ヤヴズ・ジェム大執政閣下様!」」
「だいたい数の上では我々の方が圧倒的に優勢ではないか!それなのに何だ!この体たらくは!?」
「致し方ございません。士気が違います。反乱軍は勢いに乗っておりますから…」
「士気だと!?つまり我が軍の兵達の王家への忠誠心は賊徒共に劣るというのか!!」
(王家への忠誠心ではなく事実上あなた様への忠誠心ですがね…)
将軍達は思ったが口には出さないでおいた。
ジェムは続ける。
「とにかく今日は敵将がトチ狂って馬鹿な決断を下してくれたお陰で助かったが、このような幸運が何度も続くとは思えん!何とか対策を立てるのだ!」
「ジェム様、私に敵軍の気勢を削ぐ妙案がございます…」
ジェムの斜め後方に控えていたシャリーヤが進み出て言った。
「シャリーヤ、何だ?言ってみろ」
「はい、敵軍の精神的主柱…王太子アルシャッドを亡き者にするのです」
このシャリーヤの進言に将軍たち一斉に凍り付いた。
敵対してるとは言えど王太子アルシャッドを暗殺するのは心情的に躊躇いがあり。
また、王太子アルシャッドの身辺は第一王妃シェへラザードの監視が厳重に厳しく暗殺自体が物理的に不可能だと考えていた将軍たちはこぞって却下をする。
「シャリーヤ殿!貴公は正気か!」
「左様、左様、そんな愚策を弄して勝っても非難を受けるだけ!」
「それにアルシャッド殿下の身辺には常に厳重な警備を敷かれてるそうだ。成功する可能性はゼロに近い!」
「貴公も女人なれど、イルシャ騎士の端くれ。そんな下策を弄するとは情けない!」
更に将軍たちはシャリーヤの策を無謀且つ非常識な進言と決め付け非難罵倒する。
しかし、シャリーヤは動揺せず将軍たちに打開策があるのか堂々と冷徹に問う。
「それでは、皆様方はこの状況を打開する手はあるのですか?」
「「「う…それは…ない…」」」

全く打開策を考えてない将軍たちの情けない姿にジェムも呆れる。
「情けない連中だ。よくこれで将軍などをやってられた物だ」
「「「申し訳ありません…ジェム大執政閣下…」」」
謝る将軍たちを見下しながらジェムはアルシャッドの問題が片付いたら彼らの粛清を考えていた。
ジェムは自分の陣営に優秀な家臣が殆どいないことを嘆き呆れる。
優秀な人材が集まらないのは今までイルシャ王国が家柄を重視した結果であるが、それ以上にジェム自身による苛烈な恐怖政治が原因でもあった。
しかし、ジェム本人は気付いてなかった。

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