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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 255

「何がおかしい!?」
「ひいぃっ!?も…申し訳ございません閣下!我が中隊の兵達はどいつもこいつも腰抜け揃いでございまして、そのくせ態度が悪く生意気で中隊長である私に敬意を払おうともしない、まったく忠誠心の欠片も無い不忠の輩ばかりなのでございます!ですから志願者が少ないのは決して私のせいではなく…」
「馬鹿者!!貴様の中隊の内情など知りたくもないわ!!何とかして部下達を説得して義勇軍に志願させろ!!全員だ!!」
「ぜ…全員ですか!?」
「そうだ!!しかしこれは私が強制した事ではないぞ!!それでは後でジェムが不利になった時、反乱軍側に寝返れな……と…とにかく、あくまで本人達の意思による“志願”なのだ!!」
「そ…そんな……」
まだ若いハディードは矛盾した命令に頭を悩ませる。
「やってくれるな?ハディード…」
「は…はあ、閣下…あの…その…志願するという事は、やはり…その…戦場に出て戦うという事なのでしょうか…?」
「当たり前だ!」
ハディードはゴクリと唾を飲み込んで、マリクシャーに申し立てた。
「か…閣下!お…恐れながら申し上げます!アイツらは糞生意気だし、いつも私の事をナメてて、本当に腹立たしいヤツラですが…でも悪いヤツラじゃないんです!!」
「…何が言いたい?」
「で…ですから、私は…私は…自分の部下達を、望まぬ戦場へ送る事は…!!」
「ハディード…貴様、まさかこの私の命令に逆らう気か?たかが中級貴族出の一中隊長の分際で…上級貴族で総督であるこの私の命令に…」
「め…滅相もございません!!ただ!アイツらの上官として!私は!私は…!!」
ハディードは必死だった。
“下には強く、上には弱く”が信条みたいな彼が上役に物申したのは初めてだった。
しかも相手は大貴族の総督である。
それでもハディードは部下達を守るために訴えずにはいられなかった。
不思議だった…普段は憎たらしく思っていた部下達だが、いざ死地に行かされるとなると堪らない気持ちだった。
マリクシャーは椅子から立ち上がってハディードの肩に手を置いて言った。
「ハディード…お前は優しい男だな。たかが士族の兵共のために、そこまで必死になるとは…」
「は…はあ…」
マリクシャーは打って変わって優しげにハディードに語り掛けた。
「…だがな、お前は解っておらん。ヤツラは士族、我らは貴族だ。ヤツラと我々とでは命の重みが違う。ヤツラは我々が利用し、奉仕させるための存在なのだ…同じ人間ではないのだよ。解るな?」
「そ…そんな…」
「ハディード、君は確かジャディード・マディーナに婚約者がいたな?中央へ戻りたいとは思わないかね?」
「はあ…それは、まぁ…」
「この戦いが終わったら、私と一緒に中央へ帰ろう。約束する。私が中央に戻る時には、君も一緒に連れて行ってあげよう」
「!!!…そ、それは本当ですか!!?総督閣下!!」
「ああ、本当だとも。だからハディード、いま自分が何をすべきか…解るな?」
「……解りました!!私の部下達は…この私が責任を持って必ず説得いたします!!」
ハディードは喜び勇んで応えた。
中央へ戻れる…その確約は彼の部下達への情を一瞬で吹っ飛ばしたのだった。

パサンら兵士達は兵舎で寛いでいた。
するとそこへ木剣を持って目を血走らせた数名の兵士達が入って来て突然大声で叫んだ。
「…こんの腰抜け共があぁぁっ!!!!」
「…っ!!?」
「えぇ!?」
「な…何だよ!?藪から棒に…!」
兵士達は驚いて一斉にそっちを見た。
乗り込んで来た連中のリーダー格はカシールという兵士で、真っ先に義勇軍に志願した熱血かつクソマジメな男だった。
「貴様らは何故義勇軍に志願しないのだぁっ!!?この国難に際し、座して事の成り行きを見守るだけかぁっ!!?貴様らはそれでも男かぁっ!!?それでも誇り高きイルシャ王国の騎士かあぁぁっ!!?」
彼の仲間達も続いて口々に怒鳴り散らす。
「国王陛下に忠誠を誓った騎士ならば剣を取って戦えぇっ!!!」
「そうだあぁっ!!!それが騎士として為すべき道ではないかあぁっ!!!」
「我らの忠誠を示す時は今ぞおぉぉっ!!!」
「「「……」」」
熱く語る彼らを前に、皆は言葉も無くポカーンとしていた。
そこへ、ハディードが現れて言った。
「素晴らしい!まったく彼らの言う通りだ!俺は義勇軍に志願するぞ!お前達も志願すべきだ!」
「ちょっ…中隊長!?」
「それ本気で言ってんすか!?」
「ああ、本気だとも!王家の騎士として志願せずには居られない!この非常時に一個人としての生命など惜しんでいるべきではない!騎士ならば死を恐れずに剣を取って戦うべきだ!なぁ!そうだろう!?みんな!」
「ちゅ…中隊長、なんかキャラ変わってません?」
「そうっすよ。らしくないですよ」
「らしくない?何を言うか!これが俺の本当の姿さ!」
ハディードは胸を張って言った。
自分の身の安全は保証されているのだから、どんな強気な事でも言える。
カシールがまた唾を飛ばしながらがなり立て始めた。
「既に第一、第二、第三中隊は“全員が”義勇軍への志願を申し出た!!!!残るはこの第四中隊のみである!!!!貴様らは忘恩不忠の徒か!!!!それとも真に忠誠心ある誇り高き騎士か!!!!それを示す時は今なのであぁぁるっ!!!!」
「全員!!?」
「嘘だろ!!?」
「ははぁ…解ったぞ!志願っていうのは建前、その実は命令なんだ。そうなんでしょう?中隊長」

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