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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 252

「ウマル殿、正直に仰ってください。あなたはご病気ですね?」
「……バレておったか。あんたの言う通りじゃよ、アルトリアさん。ワシの体は全身が病魔に蝕まれておる…」
「やはり…」
「いつ気付いたね?」
「少し前から薄々とは…確信したのは先程の食事の時です」
「そうか…では頼む。この事は誰にも言わんでくれ。皆には余計な心配を掛けたくないんじゃ。この通りじゃ!」
ウマルはアルトリアに頭を下げた。
「解りました。ウマル殿がそこまで言うのであれば…このアルトリア、この件は胸に秘める事にいたしましょう。…それで、医者には掛かられたのですか?」
「掛かった。もういつ死んでもおかしくないと言われたよ」
「何と!そうでしたか…。ウマル殿、私は医療方面には疎くお力にはなれませんが、話し相手ぐらいにならなれます。辛い時にはいつでもご相談ください」
「アルトリアさん…あんた優しいのう。死んだ女房を思い出すよ。ワシがあと三十年若かったら求婚しとる所じゃ」
「それはお断り申し上げます」
「…あ、そこはシビアなんじゃの…」


数日後、ジェムは王軍を率いて勇んで出陣して行った。
そして各地の王軍もこれに呼応し、出兵したのである。
ところが、ここで予想外の事態が起こった…。


‐東方鎮台府‐
「将軍閣下!第一から第十中隊、総員揃いました!」
「ご苦労さま…」
中庭に整列した軍を見下ろせるバルコニーに一人の女将軍が歩み出る。
女性用の鎧に身を包み、その上から白いマントを羽織っている…鎮東将軍イルシャ・サーラ王女である。
「「「……」」」
その姿を目にした途端、兵士達は静まり返った。
静寂の中、皆サーラの言葉を待つ。
そして彼女は口を開いた。
「皆さん、私達はこれよりイルシャ王国の敵…………ヤヴズ・ジェムを討つために出陣します!!向かうはジャディード・マディーナです!!!」
「「「…………ウオオオオオオオオオオォォォォォォッ!!!!!」」」
一瞬の沈黙の後、割れんばかりの大歓声が辺りを覆い尽くした。

サーラが王国(というかジェム)に反旗を翻した事が知れ渡ると、彼女に続いて国内各地でジェムを見限って離反する太守達が現れ始めた。
また、当然ジェム側に付く者も…。
かくしてイルシャ王国は国軍(ジェム)と反乱軍(アルシャッド、サーラ)の二つに割れ、各地で小競り合いが始まった。


‐王家直轄市・港町アル=イスカンダリア‐

東大陸の玄関口であり外国人も多いこの街は、総督のマリクシャーが未だにどちら側に付くか表明しておらず、それどころか“戦乱は内陸部での事”と、どこ吹く風であった。
「ハァ…」
この街の守備隊に所属するセイルの友人パサンは、兵舎の中庭の木の下に寝転んで溜め息を吐いていた。
「どうしたんだよ?パサン…辛気臭い顔して…お前らしくないじゃないか」
隣に寝ていた同僚が話し掛ける。
「当たり前だろ…いま世の中は大きく動いてるんだぜ?それなのにウチのアホ総督と来たら態度をハッキリさせず日和見を決め込んでやがる…サーラさんもセイルも立場は違えど今ごろ戦場を駆け巡って戦ってるはずだ…それに比べて俺らは木陰で日向ぼっこだぜ?溜め息も出るさ…」
「でもよぉ、戦争に出られたってからといって手柄が立てられるアテねえから。俺は平和な今で十分だよ」
向上心が無い同僚の態度にパサンはため息を付く。
「はぁ〜たくっ情けねえ。お前も折角騎士になれたんだから。ちっとは一旗二旗を上げる気概を持てよ!」
「気概たって無茶を言うな。この国で出世出来るのは貴族出身者か上級士族と言った極一部が現実で平民出のお前やしがない中級士族出の俺には無縁なのは知ってるだろう!」
「だから!今回の戦は俺達みたいな雑魚が一気に成り上がる絶好のチャンスだろう!確かにリスクは非常に高けえが、賭けに出る価値はあると。絶対に俺は思うんだよ!」

冷ややかにみる同僚に今回の内乱は一生出世の見込みがない自分達が飛躍出来るチャンスなのをパサンは熱く語る。
彼が今にも今回の内乱に参加したいのは自分の立身出世だけでなく愛するサーラ姫の為に剣を振るいたかった。
パサンの話を聞き同僚は同調する気配を見せる。
「お前の意見は一理あるな・・・」
「解ってくれて嬉しいぜ」
自分の意見に同僚が賛成したと喜ぶパサンだが、同僚は険しい表情でパサンに厳しい現実を突き付ける。
「でも、お前の発想は実力が物を言う西大陸で通用する価値観だ。階級が絶対的に厳しく固定されたこのイルシャ王国では不可能だぜ。現にそれに西大陸の旋風のエルティアや聖剣ダモクレスの勇者バン・バッカーズみたいな成り上りがこの二百年、このイルシャ王国に出たかよ?」
「だから、今回の内乱はチャンスじゃねえか。これを逃したら一生うだつがあがらないぜ」

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