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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 251

しかし、悲劇を嘆く前にアルシャッドはイルシャ国王を継ぐ者として、毅然とした態度で一旦ジェディーン領へ引き上げ態勢を建て直す事を母后シェヘラサードに厳しく諫言するべきであった。
悲劇を未然に防ぎ母后の過ちを戒めるあるべき王の姿であるが、周囲に味方がなく母や叔母の傀儡であるアルシャッドは無力であった。


‐新都ジャディード・マディーナ‐

「アルハンブラ城が降伏しただとぉ…っ!!!?」
この知らせは流石のジェムをも驚愕せしめた。
共に報告を聞いていたシャリーヤは言う。
「これは早急に対策を打たねば…反乱鎮圧が長引けば国内の不穏分子が反乱軍に共鳴して蜂起する恐れも…」
「そんな事言われなくても解っている!!この馬鹿め!!」
「申し訳ございません、ジェム様」
「こうなったら王都衛士隊を始め各地の王軍を総動員して反乱軍を叩き潰してやる!!全ての王家直轄領と東西南北の鎮台府に出兵の命令を出せ!!」
「あまり大兵力を動員すると、また兵糧の問題が…」
「うるさい!!この僕の命令が聞けんのか!?」
「かしこまりました、ジェム様」
「今度はこの僕自らが前線に出て指揮を執るぞ…必ずアルシャッドの首を挙げてやる!!」

ジェムの命令は魔導通信網によってイルシャ王国各地に飛んだ。
だが結果的にはこれはミスだった。
中央は反乱軍に手こずっているという事をイルシャ全土に知らしめる事になってしまったのだから…。


一方、クルアーン家では…
「坊ちゃま、お食事の用意が出来ましたが…」
「……」
夕食時、ミレルはセイルの部屋の前に立って主を呼ぶが、中からの返事は無い。
「…では、またお部屋にお持ちいたしますね…」
そう言ってミレルは踵を返して去って行った。
ここ数日…正確にはアブ・シルの死からずっと…セイルは自室にとじこもりっぱなしなのである。
王宮には病気と伝えている。
それはある意味事実だ。
気鬱…それが彼の病である。
三度の食事の時間にも家族達の前に顔を出す事は無く、毎回使用人達が部屋まで運んでいる。
ミレルは食事をお盆に載せてセイルの部屋まで運んだ。
「お待たせいたしました、坊ちゃま…」
「……」
部屋に入って話し掛けても、やはり返事は無い。
膨らんでいるベッドだけが、彼が確かにそこに居る証だった。
既にテーブルの上には食事が置かれている。
昼に出した分だ。
少しだけ食べた形跡があるが殆ど減っていない。
「もう…またこんなに残して…このままじゃあ本当に餓死しちゃいますよ?」
「……良いんだ…僕なんて…死んじまえば……」
ここで初めてセイルは言葉を発した。
今にも消え入りそうな弱々しい声ではあったが…。
「…どうしてそんな悲しい事を仰るんですか…?」
「……」
ミレルは問い掛けるが、帰って来たのは再びの沈黙だった。
「…私、信じてますから…坊ちゃまは必ず立ち直られるって…」
ミレルは悲しげな顔でそう言うと部屋を後にした。
「絶対、信じてますからね…」
部屋を出た後、彼女は誰に言うでもなくポツリとつぶやき、仕事に戻って行った。

「もう五日目か…さすがに心配じゃのう…」
「ええ、セイルちゃんは心の優しい子だから…きっとアブジルさんとかいう先輩さんを救えなかった事で自分を責めてるんだわ…」
「ヤスミーン殿、“アブジル”ではなく“アブ・シル”殿です…しかし気の弱いセイル様の事…それも解る気がします」
食卓では今日もセイルは顔を出さないと聞いたウマル、ヤスミーン、アルトリアが神妙な顔付きで話し合っていた。
「アルトリアみたいに心臓に毛の生えた女には無縁の話よねぇ〜」
テーブルの隅でパンと肉のカケラに食い付いていたナシートが言う。
「何だとぉ…っ!?」
「キャ〜ッ!!アルトリアが怒ったぁ〜!」
ナシートはパンを持ったまま天井近くまで飛び上がった。
「フンッ…まったく、軽口の減らないヤツめ…」
ウマルは言う。
「何にせよ心の傷の回復には時間が必要じゃ。今はそっとしておいてやるのが一番の……うぅっ!?」
突然、ウマルは胸を押さえて苦しみ始めた。
「ウマル殿!?いかがなされました!?」
「お義父様!?」
「大丈夫!?」
三人は慌てる。
「だ…大丈夫じゃ…ちょっと食べ物が喉に詰まりかけてしまっての…いやぁ〜、年を取ると飲み込む力が弱くなってしまって…ハハハ」
「なんだ…驚かせないでくださいよぉ」
「ビックリしちゃったぁ〜」
「……」
ヤスミーンとナシートはホッと一安心したが、アルトリアは何か思い当たる事があったようだ。

食後、彼女はウマルの部屋を尋ねた。
ウマルは眼鏡を掛けて何やら書物に目を通していた。
「やあ、アルトリアさん。どうかしたかね?」

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