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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 250

そう言われ、オルハンも心当たりがあったのか、フッと微笑んで言った。
「…ここに居るとな、色々考えさせられるんだ…今まで俺はコマネズミのように駆け回って、出世と蓄財に夢中になって来た…でも今振り返ってみると、自分が必死にやって来た事が、何だかひどくつまらない、取るに足りない事のように思えるんだ…俺は一体、何にあんなに夢中になっていたのかなぁ…なんてな…ハハハ…」
オルハンは静かに笑った。
「オルハン、お前……」
ウマルはこんな穏やかなオルハンを見た事が無かった。
彼の記憶にある息子オルハンは、いつもイラついていて、ピリピリと神経を尖らせ、目の前の小事にいちいち一喜一憂する…そんな男だったし、事実そうだったのだ。
オルハンは言う。
「…まぁ、わき目も振らず夢中で走り回って…それで得た物があったのもまた事実だ…ただ、もっとヤスミーンやセイルと向き合って話してれば良かったとは思う…今さら気付いても遅いけどな…」
「その言葉、あの二人が聞いたら喜ぶと思うよ」
「ハハ…よしてくれ…あいつらにとって俺は、家庭を捨てた父親だ…それで良いのさ…」
そう言って、オルハンはまた寂しく笑った。

帰り道、ウマルは様々な想いが胸に込み上げて来るのを噛み締めながら家路を辿っていた。
(オルハンよ…面と向かっては言えなかったが、ワシも同じ気持ちじゃ…ワシも若い頃、もっとお前と向き合っていれば良かった…そうしたら、お前の人生はもっと……)
…その時、ウマルを“気持ちの問題とは別の”胸の痛みが襲った。
「うぅ…っ!!?」
ウマルは耐えきれず、思わず胸を押さえてその場にうずくまる。
「…あの、大丈夫ですか?」
たまたま近くにいた若い娘が心配してオルハンに歩み寄る。
「…あぁ、大丈夫じゃよ。ありがとう…」
オルハンは笑顔を作って助けを断り、そして思った。
(…どうやら病魔は確実にワシの体を蝕んでおるようじゃのう…だが、まだじゃ…まだ死ぬ訳にはいかん…ワシはオルハンに代わってセイルの成長を助け、導く義務がある…それがワシに出来る唯一の罪滅ぼしなんじゃ…だからまだ死ねん…)


さて、アルシャッドを旗頭とした反乱軍は、勢力を増して王都へ向けての進軍を開始した。
しかしまだジェムは余裕の表情であった。
反乱軍の行く手にはイルシャ国内でも五指に入る要害と呼ばれる難攻不落のアーハンブラ城が待ち受けていたからである。
城に駐留している軍は少数だが、籠城戦を行うならば充分な兵力だった。
ジェムはアーハンブラ城主に対し、城に籠もって守りを固め、会戦は避けるよう指示した。

ところが、反乱軍が城を包囲して一週間と持たずして、アーハンブラ城はあっさり降伏してしまった。
実は城には兵糧の蓄えが殆ど無く、とても籠城を行える余裕は無かったのだった。
一週間だけ抵抗を試みたのは、一応ジェムに義理立てしたからである。

だが、食糧不足に困ったのは反乱軍もまた同じであった。
彼らもまた兵糧が尽きかけており、アーハンブラ城を落としてその兵糧を得る算段であったが、そのアテが外れてしまった。

「困りましたな…食料が無ければ戦えませんぞ」
「それどころか軍を維持する事すら困難です。いかがいたしましょう?」
ここは占領したアーハンブラ城の一室…反乱軍の幹部達が集まって話し合っていた。
似合わない軍装に身を包んだアルシャッドは神妙な顔をして言う。
「う〜む…こうなったら一旦ジェディーン領まで引き返し、改めてジャディード・マディーナ攻めの計画を練り直…」
彼の言葉を遮ってシェヘラザード王妃が宣言した。
「致し方ありません!!近隣の州から食糧を徴発するのです!!」
「は…母上!?何を仰います!?いけません!各州は既にジェムの命令で食糧の大部分を差し出し、いま手元に残っている分は領民達がこの冬を越すための分です!それまで取り上げてしまったら領民達は飢え死にしてしまいます!」
「だからと言ってアルシャッド様…よもやここまで来て引き返すおつもりですか?」
シェヘラザードの妹、ドゥンヤザードが眉を潜めて尋ねる。
「…その通りです、叔母上。私は国民の犠牲の上の勝利など望みません」
これに対してシェヘラザードは声を荒げて叫んだ。
「冗談じゃないわ!!ジャディード・マディーナを攻め落とし、憎きヤヴズ・ジェムを討つその日まで、私達は前進あるのみなのです!!そのために地方の民が何人死のうが知った事ではありません!!」
「しょ…正気ですか母上!?何千何百…いや、万単位の餓死者が出ますよ!確かに王位を取り戻す事も大事ですが、それでは本末転倒ではないですか!私は国民にそんな犠牲を強いてまで国王になりたくはありません!」
「お黙り!!!お前は黙って私の言う事だけ聞いてれば良いのよ!!!」
「は…母上…っ!!?」
アルシャッドはショックのあまり言葉に詰まってしまう。
シェヘラザードは将軍達に命令を下した。
「お前達!!さっそく各州の太守達に対し、ありったけの食糧を供出するよう使者を送るのです!!拒否した州は攻め滅ぼすと言ってね!!」
「「「ははあ!!!!」」」
将軍達はただちに命令を実行した。
「…何という事を…まさかこんな事になるなんて…」
アルシャッドは胸を痛めながらも、ただ事の成り行きを見守る事しか出来なかった…。

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