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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 249

アブ・シル先輩一人も救えない自分の不甲斐無さがセイルは悔しかった。
ジェムに逆らえない逆に諌める事も出来ず引き下がったセイルは後悔する。
だから、臆病で情けない自分の弱さが憎いセイルは自分の手を石の床に叩き付けていた。

石の床を殴るのを止めないセイルをアルトリアは止めようとするが、セイルに突き飛ばされアルトリアは壁に激突する。
「セイル様!お止めください!それ以上はっ!!!」
「ほっといてくれ!何で!何時も僕は無力なんだよ!」
「だからって、自分を粗末にしないで下さい!」
「うるさい!どこまでも冷静でいられる君に僕の気持ちが解る訳ないだろう!」
逆ギレした当たり散らすセイルにアルトリアはウマルを呼んでくれとミレルに頼む。
「・・・これは相当堪えたようですね。当然といえば、当然ですがね・・・ミレル殿、ウマル殿を呼んで下さい」

その後、セイルはウマルに諭されて何とか落ち着きを取り戻したものの、この件は彼の心に深い傷と挫折感を残した…。

一方、アブラハムもまた無念さと己の無力さを噛み締めながら、力無くアブ・シルやナーセルの待つ所へと戻るしか無かった。
アブ・シルは新都ジャディード・マディーナ内の一角にある彼の家へと運ばれていた。
古い借家で彼はここに母と弟妹と共に暮らしている。
アブラハムは戸口に立った。
中から声が聞こえる。
「…先輩!もうすぐアブラハムとセイルが最高の医者を連れて来てくれますからね!」
「兄ちゃん!しっかりして!」
「死なないで!」
ナーセルの声と共に、家族だろうか…小さな子の声が聞こえる。
アブラハムは胸が詰まる思いだったが、意を決して戸を開けた。
「…た…ただいま…」
すかさずナーセルが駆け寄って来る。
「アブラハム!!遅かったじゃないか!この野郎!それで!?医者と薬はどこだ!?セイルに頼んで連れて来てもらったんだろう!?」
「……」
アブラハムは何も言えず、ただ力無く首を横に振った。
「……おい、冗談だろ…?」
「……」
「うあぁぁ〜〜んっ!!!!」
「兄ちゃあぁぁんっ!!!!」
その途端、アブ・シルの弟と妹は泣き叫び、母親は横たわるアブ・シルにすがりついた。
「セイル…あの野郎!!やっぱりおエラい上級士族サマは俺達みたいな貧民なんて助けちゃあくれなかったって訳だ!!」
ナーセルは拳を握り締めてセイルへの怒りを露わにする。
アブラハムは言った。
「違う!違うぞナーセル!セイルはアブ・シル先輩のために王宮へ行ってジェムに頼んでくれたんだ!でも駄目だったんだ!恨むならジェムを恨め!セイルじゃない!」
「どっちも同じだ!!所詮セイルだって支配者側の人間なんだよ!!だいたい本気で頼んでくれたかどうかも怪しいもんだ!!」
その時だった。
「…もう…止めろ…」
アブ・シルが口を開いたのだ。
「「アブ・シル先輩!!?」」
二人は慌てて彼の枕元へ駆け寄る。
「…俺がこうなったのは…全て俺自身が招いた結果だ…セイル君を恨むな…」
「せ…先輩…!!」
「…人にはそれぞれ寿命がある…そして俺の命はここまでだった…ただそれだけの事さ…」
そう言ってアブ・シルは力無く笑った…。

翌日、彼は逝った。
25歳だった……。


アブ・シルの死から数日後。

オルハンが収容されている監獄へウマルが面会にやって来た。
ウズマを保護した事やセイルの身の上に起きた最近の出来事をオルハンに話すためである。

「そうか・・・ウズマも腹の子供も元気で良かった。親父、改めて礼を言うよ」
「お前の子ならば、わしの孫だ当然じゃよ。しかし、オルハンお前変わったな。顔が優しくなったのう?」

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