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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 248

ジェムは説き伏せるようにセイルに語って聞かせた。
「…セイル、良く聞くんだ。どうやらお前はとんでもない勘違いをしているようだからね…。そう、国家という物を巨大な機械に例えたとしよう…。一人一人の人間はその機械を構成する部品だ。そのアブ・シルとかいう男は底辺労働者…つまり最も取るに足らない消耗品に過ぎない。消耗品は壊れたら捨てて、新しい部品と交換すれば良い。いくらでも替えは効く…。一方、我々は違う。機械の中でも最も重要な部分…中枢も中枢…頭脳を司る最重要かつ掛け替えの無い部品だ。そんな貴重な部品が交換可能な消耗品なんかにいちいち同情していられるか?消耗品が壊れて使い物にならなくなったからといって、その度に憐れんで救いの手を差し伸べるか?…答えは否だ。そんな事をしていたら機械は円滑に動かなくなり、たちまち錆び付いてしまうだろう…。セイル、お前は自分が支配する側の人間であるという自覚を持つべきだ。我々と彼らは生きる世界が違う。そもそも人間としての種類が違うのだ。解るね?セイル…」
「……」
とんでもない事を平然と語るジェムに、セイルは絶句した。
思いやりや信頼が欠落した人間が如何に恐ろしい存在なのか身を持って思い知る。
同時にアブ・シル一人を救えずアブラハムの期待を裏切る結果になりセイルは己を責める。
「・・・・・・(アブラハム、ごめん。アブ・シル先輩を助けられない。自分の無力さが悔しい・・・)」
ジェムの理不尽かつ傲慢な態度と考えにセイルは殴りかかる衝動を抑えていた罪人として牢に捕らわれている父オルハンや家にいる祖父ウマル、幼馴染みミレル、剣のアルトリア、使用人たち、母ヤスミーンたちの事を考えると耐えるしかないセイルをジェムは更に追い詰めるように言う。
「セイル、だからお前は大局的に物事をみるのが出来ないんだ。お前は聖剣ルーナに選ばれし聖剣の勇者にして、この大執政ヤヴズ・ジェムの片腕として我がイルシャ王国を盛り立て繁栄させるのがお前の生まれ持った使命なのだ。それから逃れる事は許されない運命なのだよ」

セイルは絶望で目の前が真っ暗になった…。

クルアーン家ではアブラハムがセイルの帰りを今か今かと待ちわびていた。
アルトリアも一緒だ。
「セイルのやつ遅いなぁ…早くしないとアブ・シル先輩が手遅れになっちゃうぞ…」
「焦ってはなりませんよ、アブラハム殿。セイル様からジェムに頼めば、きっとアブ・シル殿を助けてくれるでしょう」
「そうですね、アルトリアさん。今は信じて待つしか無いか…」
そこに、ミレルが現れてセイルの帰宅を告げた。
「坊ちゃまがお帰りです!」
「来たか!待ちわびたぞセイル!」
アブラハムとアルトリアは玄関へと駆け付けた。
「セイル!ジェムに頼んで医師と薬…手配して…もら…えた…か…」
「……」
アブラハムはセイルの沈んだ表情を見てすぐに悟った。
ダメだったのだ。
「そ…そんな…嘘…だよな…?」
「…済まない、アブラハム…僕は……君達の力には…なれなかった…」
「……何で…何でなんだよおぉぉっ!!!?」
「済まない……」
「ぐ…っ!!!」
ただ謝るセイルにアブラハムはそれ以上彼を問い詰める事は出来なかった。
「ハ…ハハ…まあ、普通に考えれば当然だよな…こんなの…虫の良い頼みだったんだよな…そうだ、君達に助けてもらえるなんて考えた僕が馬鹿だったよ!!」
「アブラハム…」
「あぁ…済まない…君に当たり散らすのはお門違いだったね…でも、無力な僕達にとって、君は最後の希望だったんだよ…」
「……」
「嫌な思いをさせたね…僕はアブ・シル先輩の所に帰るよ…君も来るかい?…」
「…いや、こんな結果になって…合わせる顔が無い…」
「…そうか…じゃあ、僕、行くよ…」
アブラハムは去って行った…。

「…ちくしょおおおおぉぉぉぉぉっ!!!!」
突然セイルは叫んだ。
そして突っ伏して石の床を何度も殴りつけた。
拳に血が滲む。
「セイル様…!」
見かねたアルトリアが止めに入った。
だがセイルは泣き叫びながら床を殴り続ける。
「ちくしょう!!ちくしょう!!ちくしょう!!!…何で…何で…!!」

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