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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 247

「やっぱりセイルに頼って良かった。これでアブ・シル先輩は助かるよ・・・もし、セイルが手を差し伸べなかったら・・・」
セイルに助けを求めて正解だったとアブラハムは実感する。
同時にセイルがアブ・シルを助けるのを拒否したら。
自分もナーセルみたくセイルを妬み憎んでしまう嫌な人間になると思ったからである。

ージャズィーラ・マディーナ宮殿―

「なに、セイルが僕を尋ねに来ただと?」
「はい、夜分なので控えの間に待機させましたが、如何致しましょう?何やら急いでるようでした」
湯浴みを終えて寛いでいたジェムはセイルが自分を尋ねに来たとシャリーヤから聞かされ目を丸くして喜ぶ。
「へえ〜彼が僕を尋ねて来るとは珍しい。よし、セイルを連れて来てこい!シャリーヤ」
上機嫌なジェムはセイルをこっちに連れて来いとシャリーヤに命令する。
一方のシャリーヤは事務的な口調で返すとジェムの命令を実行するが、何処と無く不機嫌だった。
「御意・・・畏まりました・・・ジェム様・・・」
しかし、そんなシャリーヤの不服をジェムは全く気付いてなかった。

セイルはジェムの部屋へと通された。
「ジェム閣下!」
「やあセイル!良く来たね。さぁ、そこに座れ。一体こんな夜遅くに何の用で来たんだい?」
ジェムは子供のように頬を紅潮させてセイルを招き入れた。
「実は…今日は閣下に折り入ってお願いしたい事があって参りました」
「ほお…お願い?君が?この僕に?これは珍しい!何だ?遠慮せずに言うといい。可愛い君が望むなら金でも領地でも好きな物をくれてやろうじゃないか」
この言葉にセイルの表情もほころぶ。
彼は言った。
「は…はい!実はお願いというのはですね…」

…そしてセイルはアブ・シルの現状と、彼を救うために力を貸して欲しいという事をジェムに伝えた…。

…ところが、ジェムの答えはセイルにとって意外な物だった。
「…なるほど…で、君はその先輩を助けたいと…」
「はい!是非とも閣下のお力で…!」
「ふむ…セイル、君には悪いが、それは出来ない相談だ」
「…っ!!!?」
予想外の答えにセイルは一瞬絶句する。
「…訳が解らないという顔をしているね。良いかい、セイル?そのアブ・シルとかいう男…元衛士だか何だか知らんが、今は官職にも就いていない一介の建築作業員なのだろう?そんな者を何故この僕が…事実上イルシャ王国の頂点に君臨し、全てを支配するこの僕が…わざわざ救いの手を差し伸べてやらなければならないんだい?もちろん君にだって彼を助ける義務も義理も無い。たかが一時期、同じ職場に所属しただけの人間だろう?たったそれだけの関係じゃないか…」
「!?…たったそれだけの関係って…アブ・シル先輩は何も知らなかった僕に色々な事を教えてくれた…とてもお世話になった人なんですよ!?閣下にだってそういうお方が居らしたでしょう!?」
「…先任者が新人に仕事の仕方を教えるのは当然の義務だ。何故そんな当たり前の事に恩義を感じる?」
「いや…それはそうなんですけど…!!そこにはもっと、こう…仕事とか、先輩とか後輩とか…そういう垣根を超えた、人としての触れ合いや交流みたいな物があって…!!」
「……?」
セイルは必死に訴えたが、それは人として一番根幹にあるべき他者への愛情や信頼といった物が欠落したジェムという男には全く理解不能な事であった。
仕舞いにジェムはとんでもない事を疑い始めた。
「……セイル、何故そんなに必死にその男を助けようとするんだ?…まさか!お前その男と恋仲だったんじゃあるまいな!!?」
「そ…そんな訳ないじゃないですか!!」
セイルは即否定するが、ジェムはセイルに詰め寄る。
「おい、セイル…正直に言え…今なら素直に本当の事を話せば許してやるぞ?…そいつがお前の“初めて”の男だったんだろう!?吐け!!」
「誤解です!!僕は閣下以外の人と“そういう関係”を持った事は無いです!!」
「本当か!?聖典の上に手を置いて、全能なる神々に誓って言えるか!!?」
「信じてくださいよぉ!!!」
「…解った。お前を信じよう、セイル…」
「…嬉しく思います。閣下…」
「だがそのアブ・シルという男を助ける事は出来ん!!」
「何故ですか!!?あなたのお力を持ってすればそんなに難しい事ではないでしょう!?」

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