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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 246



「…ここ…で、良いんだよな…?」
アブラハムはセイルの家の前に来ていた。
ちなみにナーセルはアブ・シルの家族を呼びに行かせた。
あいつは劣等感から来るセイルへの嫉妬と嫌悪で頭が凝り固まっているから会わせない方が良いと彼なりに判断したのだった。
そして今、セイルの家を見て正解だったと思う。
目の前にあるのは立派なお屋敷だ。
自分のような底辺労働者が訪ねて良いのかと思わず迷ってしまうような…。
たぶんナーセルだったら怒りで発狂したかも知れない。
「セイル…あいつ、立派になりやがったなぁ…」
アブラハムは様々な想いを込めてつぶやく。
友の栄達を素直に嬉しく思うと共に、その友が今や遠い所に行ってしまった事を感じさせられ、無性に寂しく感じられた。
アブラハムは自分の薄汚れた襤褸(ぼろ)を恥ずかしく思った。
そして不安に思った。
セイルは果たして会ってくれるだろうか…。
今や自分とセイルとの身分は天と地ほども開いてしまっている。
住む世界が違う…。
ひょっとして未だに友達だと思っているのは自分の方だけなのではないだろうか…。

「ど…どうしよう…?」
アブラハムは扉を叩く事が出来ず、しばらく門の前でキョドっていた。
すると…
「ちょっとアナタ!家に何かご用ですか?」
「は…はいぃっ!!!」
後ろから声を掛けられ、慌てて振り向くと、屋敷の使用人と思われる二人の少女が立っていた。
一人は気の強そうな子でキッとアブラハムを睨んでいる。
もう一人はオドオドした様子で、その子の影からこちらをうかがっている。
二人ともかなり可愛い。
荷物から、どうやら市場から食材を買っての帰りらしい。
アブラハムは言った。
「す…すいません。僕はセイル君の衛士府時代の同僚で、名をシャフィーク・アブラハムと言います」
「衛士ですって?それにしては随分みすぼらしい身なりねぇ…怪しいわ」
「…さる事情で衛士の職を失ってしまい、今は無官の身です」
「なるほど…それで坊ちゃまに就職口を世話してもらおうと…失礼ですが、そういう方は坊ちゃまに許可を取るまでもなく、お断りいたしております。ええ、確かにウチの坊ちゃまはお優しいお方ですから、昔の知人が困ってると知れば救いの手を差し伸べられるでしょう…」
「!!…でしたら是非お取り次ぎを…」
「…ですから坊ちゃまのお耳に入れるまでもなく、そういうお方は全て一切お断りいたしているんです!!…そうでもしなきゃ、あのお人好しの坊ちゃまの事です…来る人みんな助け始めて際限が無くなってしまいますからね…」
「そんな…お願いです!!確かにセイルに頼みたい事があって来たけど、それは僕の事じゃないんだ!衛士府時代にセイルもお世話になった先輩が病気で死にそうなんです!」
「え……!?」
人命が関わっていると聞いて、その使用人の娘もさすがに顔色を変える。
しかもセイルが世話になった人が…。
それまで黙っていた大人しい方の娘が口を開いた。
「ミレル…これはさすがにセイル様にお伝えした方が良いんじゃないかなぁ…?」
「そ…そうね、ファルーシャ…それじゃあ私、坊ちゃまに知らせて来るから、あなたはこの人を客間へお通しして…」
「ええ」
「あ…ありがとうございます!!」
アブラハムは頭を下げた。

案内された客間で待っていると、すぐにセイルが現れた。
「アブラハム!!」
「セイル!!」
二人は駆け寄り肩を抱き合った。
「痩せたなぁ!アブラハム」
「そういう君は以前とちっとも変わってないな、セイル」
「話はミレルから聞いたよ。あぁ…君が衛士府を辞めたなんてちっとも知らなかった…もし知ってたら力になれたかも知れないのに…!」
「気にしないでくれ。自分で撒いた種だ…それより今日は昔話をしに来たんじゃないんだ」
「そうだったね。教えてくれアブラハム、死にそうな先輩って一体誰なんだ!?」
「落ち着いて聞いてくれ、セイル…アブ・シル先輩なんだよ!」
「アブ・シル先輩が!?そんな馬鹿な…!!」
「信じられないかも知れないが本当だ!アブ・シル先輩も衛士府を辞めさせられたんだよ。そして家族を養うために新都の建設現場で過酷な労働に従事して、すっかり体を壊してしまったんだ!町医者の話では、この国で最高の医師と薬を使えば助けられるかも知れないって…!」
「ちょっと待て!そんなの僕だって無理だよ!こう見えて家計が苦しいんだ…」
「君にそんな期待なんてしてないよ!期待してるのは君のご主人様さ!」
「まさか…ジェムに!?」
「そうだ!ジェムなら最高の名医も高価な薬も簡単に用意できるだろう!?」
「確かに…!」
「だからお願いだセイル!君からジェムに頼んでくれ!もう僕達にはそれしか道は無いんだ!君だって先輩を死なせたくはないだろう!?」
「当たり前だ!…ミレル、今すぐ僕の礼服を用意してくれ!これから王宮へ行く!」
「…そう仰ると思って、もう用意しておきましたよ!」
「さすがだよミレル!待っててくれ、アブラハム。僕の頼みならジェムはきっと聞いてくれるはずだ」
「あぁ…セイル、何て頼もしいんだ…もう君だけが頼りだよ…」
アブラハムは目頭が熱くなった。

そしてセイルは王宮へと馬を飛ばした。
「待っててください、アブ・シル先輩!あなたを死なせはしない…絶対に…!!」

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