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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 243

ガザフィの子分は怯えて言った。
「お…親分、ヤバいですぜ…」
「チッ…仕方ねえ、今日は分が悪い。引き上げるぞ」
チンピラ共は逃げるように去って行った。
「あ…ありがとうございます!先輩」
「皆さんも…おかげで助かりました!」
頭を下げるアブラハムとナーセルにアブ・シルは笑って言った。
「気にするな。ヤツラはツルまなけりゃ何も出来ない連中だ。ならこっちも数で対抗するまでさ。ここに居る皆も一度はヤツラに騙されたクチだよ」
「それにしても、まさかここで先輩に会えるとは思ってませんでしたよ」
「俺も驚いた。君達はもう帰りかい?」
「「はい!」」
「そうか…俺はこの後も連勤だ。じゃあな!」
「「…っ!!」」
二人はハッとした。
アブ・シルには養わなければならない家族がいる。
だから無理を押してでも働かねばならないのだ。
二人は胸が詰まった。
だが当のアブ・シルは全く気にしていない様子で飄々とした足取りで口笛など吹きながら現場に戻っていったのだった。
「ナーセル…アブ・シル先輩は強いなぁ…」
「うん…僕らに対して恨み言を言うでもなく…しかも疲れた素振りも全然見せないで…元気そうに振る舞って…」
アブ・シルは衛士隊に居た頃にも増してガリガリに痩せ細っていた。
それは彼が今いかに過酷な労働に従事しているかを物語っている。
それでも彼はそんな事など少しも感じさせないくらい明るく振る舞っていた。
二人は頭の下がる思いを抱きながら、現場の近くの食堂で粗末な食事を取り、その後タコ部屋に帰って寝た。

その日から二人はアブ・シルとも付き合うようになった。
彼は超人のように働きまくっていた。
連続勤務は強制ではないが、やりたいという者を止める者は誰もいない。
アブ・シルは二連勤(18時間連続)がデフォで、時には三連勤(24時間連続)もした。
そこまですると血尿が出る…とアブ・シルは言った。

「つまり血尿が出たら体がヤバイってサインな訳よ〜♪」
「は…はあ…」
「さいですか…」
ある日の昼の休み時間、アブ・シルは食堂でアブラハムとナーセルに楽しそうに語った。
何が面白いのか、二人は全く笑えなかった。
最近、二人は不審に思い始めていた。
アブ・シルのこの陽気さ、明朗さ…どこか変だ。
今もアブ・シルは骸骨のように痩せこけた顔で目のみ爛々と輝かせて話している。
「あ…あのぉ…」
「何だい?アブラハム君♪」
アブラハムは思い切って訊いてみた。
「先輩って…なんか最近すっごい元気ですよね…?」
「うん!元気ハツラツだよ〜♪ハッハッハッハッハッ!」
やはりおかしい…アブ・シルはこんな人じゃなかった…と二人は思う。
こんなセリフに「♪」が入って来るような人ではなかった。
「な…何か元気の秘訣でもあるんですか?」
今度はナーセルが訊いた。
「…知りたい?」
「や…やっぱり何かあるんですか!?」
「知りたいです!ぜひ教えてください!」
「う〜ん…でもアレ知っちゃったら二度と抜け出せなくなる…ってゆうか止められなくなるけど…それでも良い?」
「抜け出せなくなる?」
「止められなくなる?」
二人は嫌な予感がしたが「教えてください」と言った。
「…わかった。じゃあ、ちょっと…食事が終わったら一緒に行こうか…」

二人はアブ・シルと現場近くの裏通りに来た。
ある建物の前でアブ・シルは振り返って二人に尋ねる。
「二人とも金はあるかい?大した額じゃないんだが…」
「いくらです?」
アブ・シルが口にしたのは、普段よりちょっと良い食堂で一回食事するぐらいの額だった。
「えっとぉ…」
「す…すいません…ちょっと厳しいかもです…」
「仕方ないなぁ…よし!二人とも初めてだし、俺が出してやるよ」
「「サーセン!」」

建物の中に入ると薬屋のような雰囲気で、奥に店主と思しき老女が座っていた。
「おや、いらっしゃい…」
「おいバーサン、あれヤってくれ。この二人もだ」
アブ・シルは後ろの二人を指して言った。
「あいよ…見た所そっちのお二人さんは新顔みたいだねぇ…」
アブラハムとナーセルを見た老婆はニタァ…っと不気味な笑みを浮かべる。
「「ひいぃぃっ!!?」」
「おいバーサン、怖がらせるなよ」
「ヒヒヒ…なにも取って喰ったりはしないさ…ちょっとチクッとするだけだよ…」
そう言って老婆が取り出したのは…注射器だった。
「え…?」
「ちゅ…注射…?」
どんな恐ろしい拷問具が出て来るのかと怯えていた二人は拍子抜けする。
アブ・シルは腕を出して言った。
「よっしゃあ!イッパツ頼むぜバーサン」
「あいよ!」
そして老婆はアブ・シルの腕に注射した。
「うおぉ〜〜っ!!!みなぎって来たあぁ〜っ!!!」
途端に元気になるアブ・シル。
「せ…先輩、一体何なんですかソレ?」
「カロポンだよ。最近流行ってるんだが、知らないか?…ま、一種の栄養剤だな。過労がポーンって飛ぶからカロポン!」
「なぁ〜んだ…栄養剤かぁ…」
「俺てっきりヤバイ系の魔術か何かかと思っちゃってビビりましたよぉ〜」
「ハハハ…ちょっと値は張るが、これ打つと力が湧いてきてバリバリ働けるんだ。お前らも打ってもらえよ」
「それじゃあ、お願いしようかな…」
「あ、じゃあその次俺も!」
「まいどあり…ヒッヒッヒ…」

…さて、聡明な読者諸氏は既にお気付きかも知れないが、実はコレ、覚醒剤である。
アブ・シルが痩せ衰えたのもハイだったのもコレのせいなのだが、この世界の人々はまだ薬物の有害性については(特に民間レベルでは)知識として浸透していなかった…。

ちなみに東方鎮台府にとばされたイルシャ・サーラが、かの地で国内に持ち込まれる麻薬を取り締まっていたが、それは非常に先進的な取り組みなのだ。

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