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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 239

彼らは夜逃げの準備をしていた。
白衛兵達が屋敷に来るという事は事実上“逮捕”である。
(ついに…ついに“この時”が来てしまったんだ!こんな事ならもっと早く逃げていれば良かった!あるいは逃げる準備だけでもしておくんだった!俺とした事が何たる不覚だ!)
…彼は心のどこかで思っていたのだ。
何の根拠も無く、自分は大丈夫だ…と。
だがジェムの“責任の追及”という名の八つ当たりは、ついに彼の身に迫って来たのであった。
 バアァァーンッ!!!!
扉が勢い良く開け放たれ、白い軍装に身を包んだ兵士達がドカドカと雪崩れ込んで来た。
「「ひいぃぃ…っ!!?」」
オルハンとウズマは震え上がった。
隊長は室内を見回して言う。
「これはこれはクルアーン殿、ご病気と伺っておりましたが、これは一体どういう事ですかな?」
「い…いや、つまり…病気なので…いつ何があっても良いように、身辺整理…的な?」
全身から汗をダラダラ垂れ流しながら言い訳するオルハンの腕を隊長はガシッと掴んだ。
「さぁ、参りましょう…ジェム様がお待ちでございます…」
「あ…あぁぁ…」
オルハンは人生の終わりを覚悟した。
「うむ、潔くてよろしいですぞ」
「あんた達を相手に・・・これ以上の抵抗は無意味だからな。最期に妻(ウズマ)に一言だけ言わせてくれ・・・願いを叶えてくれたら荷の中にある宝石や貴金属は貴様らの好きにして構わん!」
ウズマと話をさせたら荷の中にある貴金属や宝石は好きにして良いオルハンが言うと。
白衛兵達は目の色を変えて喜びオルハンの願いを聞き入れる。
「よろしいでしょう。手短にお願いしますよ」
「解った。ウズマ、こうなってすまない」
「あんたは悪くないわ。あんたのお陰であたしは自由になれたのよ」
「ウズマ・・・ありがとうよ。俺もお前がいて幸せだよ」
「うぅぅ・・・あ・・・あんた・・・」
泣き出すウズマをオルハンは宥めると今後の身の振り方を言う。
「泣くな。もうすぐ母親になるんだぞ。腹の子の為にも生きてくれ。そして、俺が屋敷を出たら真っ先にセイルを頼れ」
「あたしみたいな愛人を受け入れてくれるの?」
「あいつは本当に優しい子だから大丈夫だ安心しろ。それにセイルはジェムの寵臣だから安泰だ。お前は腹の子の為にも生きてくれ」


そしてオルハンは王宮へと連行され、ジェムの前に引き出された。
「クルアーン・オルハン、なぜ呼ばれたか解るか?」
「…だいたい想像は付きます…」
「話が早くて助かる…今回の事態を招いたのは全て貴様の責任だ!!この罪は重いぞ!よって貴様は全ての官位を剥奪の上、全財産も没収とする!!」
「く…っ!!!」
覚悟はしていたが実際に言い渡されてみると込み上げて来る物がある…父ウマルを見返したい…その一心で数十年やって来た。
同僚からは陰口を叩かれ、家族には嫌われ…それでも人間の価値は地位と金が決めるのだと信じて、己の道を貫いて来た…それらが今、全て水泡に帰したのだ。
彼の人生の全てが今、目の前から消えた。
そんなオルハンにジェムは冷たい言葉を投げかける。
「何をボサっとしている!?貴様は既に無官の身となったのだぞ!宮殿への立ち入りは許されん!即刻この場を立ち去れ!!」
「……」
オルハンは黙って自分の息子と同い年の主君を…いや、元主君を見た。
今にして思えば、いくら出世のためとはいえ、よくこんなガキにペコペコと頭を下げていたものだ。
「クルアーン・オルハン!!聞いているのか!!?」
「……うるせえよ…」
「な…何だと…っ!!?」
ジェムは驚いた。
だがもっと驚いたのは他ならぬオルハン自身だった。
思わず口をついて出た言葉だったのだが…
いや、これは良い機会だ…とオルハンは思い直した。
どうせ自分にはもう失う物は何も無いのだ。
何でも自分の思い通りになると思っているこの甘ったれガキに最後に一つ教えてやろう…。
「おい!!オルハン!!今何と言った!!?貴様、この僕を誰だと思って…!!?」
「だから、うるせえって言ってるだろうが!!ピーピー喚くしか脳の無えお坊ちゃまがよぉ!!」
「な…何だとおぉぉっ!!?」
ジェムの顔が見る間に真っ赤になっていく。
おうおう、面白くなって来やがった。
こういうプライドの塊みたいなヤツを怒らせるのは楽しいぞ。
だいたい前々からコイツのナルシストっぷりには嫌気がさしてたんだ。
自分が絶対に正しいと信じて他人を見下すような態度も気に入らなかった。
言ってやれ。
言ってやれ。
もうオルハンは自分を抑える事が出来なかった。
彼の中で何かが壊れた。

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