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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 237


さらにはジャバル州太守アル・ディーンの元へも…
「こ…これは…!!」
「やりましたねディーンさん!とうとう雪辱を晴らす時が来ましたよ!あの時ジェムに膝を折って屈辱に耐えた甲斐がありました!」

そして、東方鎮台府のイルシャ・サーラ鎮東将軍の元へも…
「ついに…ついにこの時が来たわ…!!」

…という具合に、この檄文によってイルシャ王国中に衝撃が走った。

…衝撃が走った……だけだった。
どういう事かと言うと…

‐ナハルシャット‐
「若!戦支度とは一体どういう事です!?」
「これを見ろ!アルシャッド王太子が打倒ジェムに立ち上がった!」
「何と!し…しかし若、アルシャッド殿下にお味方するので…?」
「いや、しないぞ」
「ではジェムに?」
「それもしない。…ただ“いざという時”に素早く動けるよう戦支度を整えておけと言っただけだ」
「さすが若、賢明なご判断でございます」

‐ハクル‐
「フフン…確かにヤヴズは嫌いだ…しかしまだ動かんぞ…天下のイシュマエル家がそう簡単に腰を上げるものか…他の大貴族達の動きも気になるしな…」

‐イスカンダリア‐
「しっかりしてください閣下!」
「う…うぅ〜ん……ハ…ハーシィ、困ったぞぉ…どうすれば良い?…王太子とジェム…我らはどちらに付けば良いのか…?」
「こういうのは様子を見ていて勝った方に付けば良いのですよ」
「なるほど!それは名案だな!」

…以下は似たような会話になるので割愛する。
そう、みな日和見に走ったのである。
ジェムに対して含む所のあるアル・ディーンやサーラですらだ。
彼らは皆一州の領地と領民を預かる太守であり総督…私情で軍を動かしはしない。
日和見と言っても、そこには大勢の人々の命が掛かっているのだ。
慎重になるのは当然である。


一方、王妃達が各地に檄文を送り付けた事はジェムの耳にも入った。
「王妃がアルシャッドを旗印にして反旗を翻したぁ…?」
「はい、ジェム様…いかがいたしましょう?」
「小癪な…叩き潰せ!!」
ジェムは手にしていた銀の杯を床に叩き付けた。
「では王都衛士隊を出しますか?」
「いや、アルシャッド如きに王の軍を動かすまでも無い!周辺諸州の太守の連合軍で充分だ!」
…という訳でジェムはさっそく自分の子飼いの太守達に命じて軍を編成させた。


数日後、ジェディーン家の屋敷…
「これは一体どういう事なのおぉぉっ!!?」
王妃がヒステリックに叫んでいる。
何故かと言うと、挙兵したは良いが予想に反して兵が全く集まらないのだ。
「まさかアルシャッド殿下にここまで人望が無いとは思いませんでしたわ…」
「お黙りドゥンヤザード!!」
「…いえ母上、叔母上の仰る通りです。この国の人々は既に私の事を正統な王位継承者とは思っていないのでしょう…」
当のアルシャッドもこの結果には凹んでいた。
彼は戦争は気が進まなかったが、国の現状を憂えてはいたので、打倒ジェムは何とか果たしたいと思っていたのだ。
王妃は半ばヤケになって宣言した。
「そんな弱気でどうするのです!?こうなったら籠城戦を行い、城を枕に討ち死にしましょう!!最期まで王族としての誇りだけは貫き通すのよ!!」

ここでジェディーン家の屋敷とその周辺の地について詳述しておく。
屋敷と言っても城壁と堀を有するちょっとした砦…というか城であり、その周囲には城下町が広がっていて、町全体がまた城壁に囲まれている。
つまり町自体が一つの要塞なのであった。

ジェディーン家配下の兵士達が籠城に備えて城に食糧を運び入れ始めると、いよいよ戦争が近いと悟った一部の領民達が風を喰らって逃げ出し始めた。
だが大部分の領民は留まる事を望んだ…というか他の土地へ行っても今やイルシャ王国中が慢性食糧不足状態である。
どこの州も他州の難民に食わせる飯の余裕が無い…つまり行き場が無かった。
中には一度逃げて戻って来る者もいた。


そしてついにジェム配下の太守達の連合軍がジェディーン領に攻め寄せて来た。
双方の兵力は、攻め手の太守連合軍が3万、守り手のジェディーン家軍が5000…。
太守達は余裕で城を落せると考えていた。
ところが意外な抵抗にぶつかる。
何せ籠城側はもう逃げ場が無い。
ここを死に場所と軍民一体となって死に物狂いで抵抗して来たのであった。


そして籠城戦が始まってから一ヶ月が経った。
「えぇい!!たかが五千足らずの反乱軍に一体何をてこずっているのだ!!?」
ジェムは苛立っていた。
一日も早く反乱を鎮圧させねば太守達の中には加担する者が現れるかも知れない。
長引けば長引く程その可能性は高くなるのだ。
シャリーヤは言った。
「…その件に関しましてジェム様に是非ともお伝えしたい事があると軍使が参っております」
「何だと!?よし、通せ!」

通された軍使はジェムに平伏して述べた。
「大執政閣下におかれましてはご機嫌麗しく…」
「早く本題に入れ!!」
「は…はあ、実は我が軍の兵糧が底を尽きつつありまして…新たな兵糧を送ってくださらなければ籠城戦を続ける事は困難かと…」
「兵糧だと!?ふざけるな!!そんな物はそっちで何とかしろ!!」
「で…ですが閣下!我が州は閣下のご命令で備蓄の食料を供出いたしました!その上この凶作では食料など…」

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