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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 234

アリーの言い分も一応は理解できるオルハンであったが、ジェムの恐ろしさや家族の事を考えると協力は出来なかった。
「貴殿の言い分は最もだ。しかし、私には家族がある。それに閣下を説得するなんて不可能だ…まてよ!ハイヤーム殿、一人だけ閣下を説得できる人間一人だけいる」
「オ・・・オルハン殿、それは一体誰なんですか!」
ジェムを説得出来る人物がオルハンからいるといわれ驚くアリーは誰なのか訊ねる。
「私の息子のセイルだ。あれは閣下に気に入られ寵愛されている。あいつならば備蓄の食料を売るのを中止出来るかもしれん!」
「実は・・・セイル殿にその事を相談しようとしたら・・・ジェム閣下や白衛兵たちに邪魔されるのです」

「そ…そう…なのですか……」
オルハンの頭の中で計算が働きだす。
邪魔するという事はジェムは既にこの男の意図を知っている…つまりそれは、ジェムは例え飢饉になろうと食料の売却はこれまで通り続けるという意思だ。
ここで安っぽい人道主義からジェムの意に反して反感を買うのは得策ならず…。
「あぁ…申し訳ないがハイヤーム殿、どうやら私はあなたのお力にはなれぬようだ。お引き取り願おう」
「何ですって!!?こちらはもうあなたしか頼りは無いのですよ!?お願いします!セイル殿を通してでも良いのでジェム閣下の説得を…!」
「お引き取り願おうと申したはずだ!あまりしつこいと人を呼びますよ!」
「うぅ…解りました。所詮あなたもジェムの腰巾着という訳か…失礼します」
アリーは部屋を出て行った。
一人になったオルハンは呟く。
「フンッ…自分だって腰巾着のクセに…しかしあの男があそこまで必死に言うという事は飢饉は本当に来るのか…?」
腰巾着でありながらジェムの不興を買いかねないアリーの行動を見下すオルハンを小馬鹿にするが、アリーの必死さと慌てぶりから飢饉が確実に起きるのを恐れ震える。
国庫の食料売却をジェムに進言したのは他ならぬ自分だ。
飢饉で多数の餓死者を出せば自分は間違いなく責任をとらされる。
そうなれば、最悪処刑され家名は断絶、良くて官位剥奪され財産を没収されるどのみち悲願の貴族にはなれない。

(不味い、不味いぞ。親父の鼻をあかしてクルアーン家を繁栄させられない。それ所かウズマと腹の子を養えない!)
明るい未来から一転絶望確実な未来にオルハンはジェムによって粛正されるのを想像して震える。
(俺は間違いなくジェムに殺される・・・待てよ。俺にはセイルという保険があるじゃないか!あいつはジェムのお気に入りだ。セイルに頼めば官位剥奪程度で済むかも知れんぞ!そう考えれば冷夏や凶作なんか怖くない)
…いや、例え彼の言う通り凶作になったとしても、その時はその時で考えれば良い事…今、現時点でジェムが自分に期待している役割はこれなのだ。
ならば自分はそれを実行するまでである。
また、いざという時には上手く立ち回れる自信もあった。
これまで彼はそうやって生き延びて来た。
こうしてオルハンは差し迫った国難から目を背け保身を選んだのであった。
心の片隅に小さな不安要素を残して…。




そして、夏が来た。
アリーの言う通り、気温は上がらなかった。
「いやぁ〜今年の夏は涼しくて過ごし良い夏でございますなぁ〜」
「まったく結構な事でございますなぁ〜」
皆まったく危機感ゼロであった。
そもそも飢饉という物を経験した者が皆無だった。
凶作不作は何度もあったが乗り切って来た。
初代女王イルシャ・ルーナの言い付けを律儀に守り、三年の蓄えを常にしていたからだ。
今は、それが無い…。

一方、既に危機を察知した農民達の中には、徴税官に賄賂を渡し、税として納める農作物の量を減らしてもらう者達が現れた。
彼らは解っているのだ。
飢饉の可能性が高い事…そしていざその時になったら自分達が最も被害を被るという事を…。
士族の徴税官達は賄賂をたんまり貰ってホクホク顔であった。

また、太守達も馬鹿ではなかった。
収穫高を誤魔化し、食糧の一部を手元に残しておいたのである。
ただし、王家の直轄地だけはそうはいかなかった。




そして季節は巡り、秋となった。
アリーの予想は大当たり、イルシャ王国は近年稀に見る大凶作に見舞われたのであった。

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