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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 232

「…は、はい…まったくです…」
セイルは自分より何十歳も年上で、しかも遥かに位の高い宮臣達から嫉妬混じりのジト〜っとした言葉を掛けられてタジタジであった。
というのも今日この場に集まったのは(セイルを除いて)ジェムに媚びに媚びて媚びまくって尻尾を振って出世した輩ばかり…悲しきかな、今のジェムの周囲を固めるのはそういう人間達ばかりなのであった。
調子に乗った一人がセイルにイヤらしい視線を向けながら言った。
「しかしジェム様ぁ、いくら高価な食材も味の解らぬ下賎の輩には豚に真珠でございますよぉ…」
「げ…下賎の輩とは僕の事ですか!?」
ここまであからさまに馬鹿にされては、さすがのセイルも騎士として黙っていられなかった。
だがその男はおどけて言う。
「おやおやぁ〜?私はセイル殿の事だなんて一言も言っておりませんよぉ〜?ただ一般論を申し上げただけでございますぅ〜」
「ぼ…僕の方を見て仰っていたではありませんか…!」
「…ハッ!まったく…これですよ、皆さん…セイル殿は被害妄想の塊のようなお人だ。私は別にあなたの事を言った訳ではなかったのに…不愉快だ!謝罪していただこう!!」
「そ…そんな…」
こういう風にシラを切られてはセイルはそれ以上何も言えない。
もちろん男はこうなる事を見込んでいたのだ。
「さぁ!!何をモタモタしているのだ!!?早く謝罪をしてもらおうか!!私に頭を下げて“申し訳ございませんでした”と言え!!!さぁ!!!さぁ!!!!」
男はセイルに掴み掛からん勢いで迫って来る。
(こ…この人は正気じゃない!頭がおかしいんだ!)
セイルは恐怖を感じた。
一方、黙って事の成り行きを見守っていたジェムは、側に控えていたシャリーヤに告げた。
「シャリーヤ…」
「…かしこまりました、ジェム様」
シャリーヤと数名の白衛兵がその男を囲む。
「どうぞこちらへお越しください…」
「な…何だお前らは!!?俺ではなくクルアーン・セイルを連れて行けえぇ!!!」
男は連行されて言った。
そして…
「あぁぁ…た…助けくださあぁい!!私が悪かっ…ギャアアァァァァッ!!!?」
…すぐに中庭の方から男の悲鳴が聞こえて来た。
「僕の臣下にキチ●イは要らん…」
そう言うとジェムは杯をあおった。
「「「……」」」
皆は顔面蒼白になっていた。

「……」
セイルは王宮から自宅への帰り道、馬上で独り考えていた。
(今日もジェムは残酷だったなぁ…でも僕を助けてくれた…もしかして彼は感情の表し方が間違っているだけで、そこさえ正せば意外と話の通じる人間なんじゃないだろうか…何とか本人に気付かせる事が出来れば…)
そんな事を考えながら歩いていると、ふと前から声を掛けられた。
「ボーっと考え事をしながら歩いていたら壁にぶつかりますよ、セイル様」
「アルトリア!迎えに来てくれたんだね」
「王宮への出入りが禁止されてしまいましたからね…どれ、私が馬をお引きいたしましょう」
アルトリアはセイルの馬の綱を引いて並んで歩き出した。
「どうでしたか?今夜のお食事会は…」
「うん、ちょっとした波乱があったけど今日も何とか無事生還だよ…」

そんな事を話しながら二人は新都の夜道を歩いた。
まだあちこちに建設中の建物が多く見られる。
空には星々と大きな月が輝いていた…。

人通りの無い通りに差し掛かった時だった。
「ハァ…ハァ…た…助けてくれぇ!!!」
突然、肩から血を流した騎士らしき男が曲がり角から飛び出して来たのだ。
「ど…どうなさったんですか!?」
「お…追われてるんだ!仲間もいたがみんな斬られてしまった!た…頼む!助けてくれぇ!」
「セイル様!」
「うん!」
セイルとアルトリアは顔を見合わせて頷き合う…そこへ…
「…その男をこっちへ寄越してもらおうか…」
「「…っ!!!」」
「ひいぃぃっ!!!?こ…コイツだぁ!!」
三人の前に血塗れの剣を手にした一人の剣士が現れた。
頭の上から足の先まで全身真っ黒な衣服を身にまとい、顔は布で隠しており目しか見えない。
「この通り魔め!!」
セイルは剣(今は聖剣ではない)を抜いて構える。
すると黒い剣士は言った。
「…通り魔?…冗談だろう…こっちはヤヴズ・ジェムの命令を受けて反逆者共を始末してるだけだ…お前はジェムの側近のクルアーン・セイルだな?…ならばこちら側の人間だろう…邪魔をするな…」
「…そ…そうなんですか?」
セイルは剣を構えながら男に尋ねた。
「あ…ああ、そうだ…宮殿に忍び込んでヤヴズ・ジェムを暗殺する計画を皆で相談していた…で、でも全く実現性の無い計画だった!仲間内の酒の席での冗談から始まったような物で…話してる内にどんどん熱くなってしまって…ああぁぁぁ!!!た…頼む!!命だけはあぁ…!!!」
事情を知ったセイルは黒い剣士に提案してみる。
「あ…あのぉ…彼一人だけでも見逃してあげるという訳には…?」
「いかんな…こっちは皆殺しにしろと命令を受けてるんだ…もし見逃したら逆にこっちの立場が危うくなるからな…こんな馬鹿共のためにそんな目に遭うのはゴメンだ…」
黒い剣士は冷淡に言い放った。
「う…うあぁぁ〜っ!!!!」
次の瞬間、男は一瞬の隙を突いて逃走を試みた。
「…逃がさん!!」
だが黒い剣士は素早い動きでセイルの横を抜けると、瞬く間に男に追い付き、背中からバッサリと斬ったのだった。

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