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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 231



翌日、アル=アッディーンの前に小隊長と三人の衛士達が顔を揃えた。
長椅子に腰掛けたアル=アッディーンには愛人のザフラがはべっており、その斜め前にはデデンがふんぞり返って突っ立っている。
皆は一瞬だけ自分達の立場を忘れ、アル=アッディーンを哀れに思った。
「…で、腹は決まったのかの〜?」
アル=アッディーンに問われ、先頭に立った小隊長は三人の部下達を振り返った。
「……」
三人は黙って頷いた。
もう腹は決まっているとでも言うように…。
そして小隊長は言った。
「…はい、アル=アッディーン殿下…我々は全員、アブラハムとナーセルの命と引き換えに……辞職を受け入れる事に決めました!」
「「「……」」」
皆、その一瞬、言葉が無かった。
アル=アッディーンは少し意外だったように目を丸くし、ザフラはまるで他人事のように『あらまあ可哀想に…』とでも言いたげな表情を浮かべ、デデンは何を考えているのかニタァ…とイヤらしい笑みを浮かべた。
「お…お前達、仲間を助けるために職を辞すというのか…!?」
「は!我ら一同、職か仲間かの選択を迫られ、仲間を取る事にいたしました!」
アル=アッディーンの問いに小隊長はキッパリと答えた。
他の衛士達も迷いの無い真っ直ぐな目でアル=アッディーンを見据えている。
「解らぬ!余には解らぬ!何故そこまで出来るのじゃ!?たかが同じ職場に勤める部下や後輩ではないか!!?」
彼らの心理が理解できないアル=アッディーンに小隊長は言った。
「解らないでしょう…あなた方には居ないでしょうからね…自分の人生と引き換えにしてでも命を助けてくれる人間が…」
「「「……っ!!!!」」」
その言葉はアル=アッディーン、デデン、ザフラの胸を深く突いた。
三人は揃って顔を耳まで真っ赤にして、うつむいて黙ってしまった。
「出て行け…」
アル=アッディーンはポツリとつぶやく。
そして堰を切ったように怒鳴り散らした。
「出て行けえぇぇ!!!!牢の中の二人を連れて今すぐ消えよ!!!!二度と余の前に姿を現すなあぁぁ!!!!」
「そうしますよ…では行こうか、みんな」
「「「はい!」」」
皆はむしろ勝者のように颯爽と部屋を後にした。
その晴れやかな表情に後悔は微塵も無かった。

「「……」」
アブラハムとナーセルは地下牢の中で黙っていた。
小隊長や先輩達がどちらの選択肢を選ぶかは判らないが、二人は“こうなったら死刑もいた仕方ない”と覚悟していた。
カツ…コツ…と暗い石の廊下をこちらへ近付いて来る足音がする。
「「…!!!!」」
二人はハッと身を強ばらせた。
獄卒が二人の牢の前で立ち止まり、言った。
「…お前達、出ろ。釈放だ」
「釈放…!!!」
「…という事は…!!!」
…皆は失職と引き換えに二人を助ける事を選んだのだ。
素直には喜べなかった…が、二人は助かった。

牢から出された二人が地下から地上へ上がると、小隊長と先輩達が出迎えた。
「よう」
「二人とも命拾いしたな」
「お前ら、俺達に感謝しろよ〜?」
「ハハハ…これでお前らは一生俺らに頭が上がらないな」
皆にこやかに笑って二人を迎えた。
責める者は一人も居なかった。
「み…皆さん、僕達なんかのために…こんな事になってしまって…!!」
「申し訳ありませんでしたぁ…っ!!」
涙をボロボロとこぼしながら詫びるアブラハムとナーセル。
「泣くな。君達のせいじゃない」
「そうさ、それに何もお前達のためだけに決意した訳じゃない。少し前からずっと衛士を辞めたいと思ってたんだ。でも決心が付かなかった」
「俺もさ、だから今回の事は良い機会だったよ。むしろ感謝したいくらいさ」
アブ・シルは言った。
「…俺は“王家の騎士”という身分と、安定した収入を失うのが恐ろしかった…だからどんなに仕事がキツくなっても、自分自身ボロボロになっても、すがりつき続けていた…もしこの件が無ければ俺はいずれ死んでいただろう。結果的にだが、君達のお陰で命を落とさずに済んだよ…ありがとう」
「み…皆さあぁん……うああぁぁぁぁっ!!!!」
「うぅぅぅぅ…っ!!!!このご恩は一生忘れませえぇぇん!!!!」
アブラハムとナーセルは感極まり、男泣きに泣き濡れたのだった。


新都ではジェムが権勢を欲しいままにしていた。
セイルはその日もジェムに晩餐に招待された。
その日は特にジェムのお気に入りの臣下たち10名前後だけを招いた“仲間内”だけの食事だった。
「フフン…どうだ?美味いか、セイル?」
ジェムは瞳を輝かせながらセイルに尋ねる。
「は…はい閣下!とても美味しいです!」
「ハッハッハッ…!そうだろうそうだろう!それは東西大陸を隔てる大海の真ん中に浮かぶパラム島の沖でしか採れないパラムマグロの刺身だからな!」
ジェムは上機嫌だ。
「こんな…魚を生で食べるなんて、少し奇妙に感じますが…」
「かの地では当たり前のように魚貝類を生で食しているという。それを再現するため今回は生きたままこの王都まで運ばせたのだ。お前に食べさせてやりたいと思ったからだ、セイル」
「あ…有り難き幸せ!」
セイル意外の臣下達はジェムがセイルばかり気に掛けるのが気に入らなかった。
「良かったのう、セイル殿ぉ…ジェム様にここまでしていただけて…貴殿はイルシャ一の幸せ者じゃぞぉ?」
「これはジェム様に感謝せねばならぬなぁ?セイル殿ぉ…」

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