PiPi's World 投稿小説

剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 225
 227
の最後へ

剣の主 227

「す…済まん、俺が悪かったよ…」
いきなり怒鳴られて思わず素直に謝ってしまうナーセルであった。
アブラハムは以前自分がアブ・シルに似たような事を言われたのを思い出して少しおかしくなってしまった。

やがて、一行はナハルシャットに到着した。
街の門前で出迎えたのは何と太守イシュマエル・ドルフその人(と家臣一同)であった。
「アル=アッディーン殿下、ようこそナハルシャットへおいでくださいました」
「うむ、出迎えご苦労であ〜る」
下馬して深々と頭を下げるドルフに、馬車から顔だけ出して横柄に挨拶するアル=アッディーン。
王族と一地方の太守とはいえこれは無い。
だがドルフは不快感を露わにする事も無く(ひょっとすると不快とも感じていないのかも知れない)慇懃とアル=アッディーンをもてなす。
アル=アッディーンはドルフの家臣群の中に見知った顔を見つけた。
「おや、デデンではないか」
「ははあ!このデデン、殿下の御来訪に先立ちナハルシャット入りし、イシュマエル殿と共に歓待の準備を整えてございましてございます!」

この様子を見ていたアブラハムは小隊長に尋ねる。
「あれは誰です?」
「ジェディーン・デデン…さっき言った拝領妻を殿下から“もらった”男だよ」
ナーセルが言う。
「へぇ〜、でも考えてみれば主君の愛人を形式上だけの妻にするなんて…ある意味、忠誠の極みかも…」
「いやいや、あのデデンこそ君の言う“イルシャ騎士の誇りが無い”人間だよ。出世のためなら何でもする男さ…」
小隊長はそう小声で言うと、デデンに対して蔑むような視線を向ける。

ジェディーン・デデン。
その姓からお気づきかも知れないが、彼は第一王妃シェヘラザードの実家ジェディーン家の人間である。
王妃とは親戚で、自らも王族に仕える彼は、セイルの父オルハンと同じ人種…いや、ある意味オルハン以上の上昇志向と権力欲の持ち主であった。

デデンは実家ジェディーン家の人間と言っても実際は一門の中では末流に過ぎず。
本来は出世する見込みのないどこにでもいる下級貴族の一人であった。
そんな男が出世が出来たのはアル=アッディーンから拝領妻を貰った様に権力者たちに必死に媚びてゴマすりをして
出世の為ならば、同僚や部下も平然と利用する男であった。

「あのデデンは出世のためならば何でもするゲスだからな。そして、俺たちは殿下の遊興の護衛として借り出されたんだよ」
出世のためになんでもするデデンの節操のなさと今回の任務を知り小隊長が説明するとやる気が失せたナーセルをアブラハムは宥める。
「本当に要領の良い野郎ですね…この任務どうでもよくなりましたよ。結局はお偉いさんと要領の良い奴中心に世界は回ってるんですよね」
「ナーセル、落ち着いて何事もなければ良いんだよ。こんな仕事でも任務終了後は二日の休暇が貰えるんだよ」
「ああ、そうだったな。結局…俺たちは我慢するしかないんだな」
そう言って達観するナーセルの気持ちが少し解るアブラハムも胸中は複雑であった。
「……ナーセル……(もうこの国は終わってるな。こんな腐った王家なんて守る価値がないよ)」
「無駄話はやめよう。デデンに知れたら厄介だ。あいつは上に媚びるくせに下には尊大な男だ気をつけろ」
「「はい!小隊長!」」
小隊長に諭されアブラハムとナーセルはデデンに目をつけられないようにおとなしくすることにした。

一方、自分がどれだけ嫌われて陰口を叩かれてるのか気づいてないデデンはアル=アッディーンと話していた。
「デデンよ。温泉の準備はちゃんと出来てるんだろうな?」
「殿下、勿論でございます。このナハルシャット州は田舎ですが、良い温泉がありますからご安心ください」
「そうか、そうか、期待しておるぞ!新王都ではヤヴズの小僧が五月蝿くて適わんからのう〜」
「まったくでございますなぁ、殿下ぁ〜」
アル=アッディーンにペコペコしていたデデンだが、急に衛士達の方に振り返って言った。
「おい衛士ども!ボヤボヤするなよ!?護衛はもう良いから殿下がお城へ入られたら荷下ろしを手伝うんだ!貴様らは召使い代わりでもあるんだからな!解ったか!?このウスノロども!」
「そんな!?仮にも私達は騎士です!そのような…」
「承知いたしました」
そんな召使いのするような仕事は出来ないと言おうとしたナーセルだが、小隊長が遮った。
(しょ…小隊長!?)
(口答えをするなナーセル。彼は貴族、俺達は士族…そういう事だ。多少の理不尽は我慢しろ。悔しい気持ちは解るが、お前一人の問題じゃない。みんなの事も考えるんだ)
(…わ…わかりました……申し訳ありません…)
渋々うなずくナーセル。
「……」
アブラハムは小隊長の言葉は正しいという事は解っていた。
彼は既婚で子供が二人いる。
ナーセルはまだ若く守るべき物も失う物も無い。
だが、ナーセルの主張だってもっともだ。
こんな扱いを受けて黙っていなければならないなんて…。
結局どっちが正しいのか彼には解らなかった。

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す