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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 226

「何でダメなんですか?」
「そりゃあ体面というか、体裁というか…とにかく面倒くさい物が色々あるんだよ、身分の高い人には…」
「プププ…お前とは無縁の言葉だなアブラハム」
「失礼だなナーセル!僕だって重んじるべき体面くらい持ち合わせてるぞ…それで?小隊長」
「うん、そこで殿下は彼女を形式上だけ自分の臣下と結婚させて、夫婦にしちゃったんだよ。そうすれば臣下の家を尋ねるっていう名目で愛しい人と好きな時に逢えるからね。もちろん臣下は主君の女性に手を出す訳にはいかないから、絶対に間違いが起きないように敷地内に別邸を建てて彼女を住まわせてる…」
「け…形式上だけの夫婦…?」
「酷い…その臣下が可哀想じゃないですか…」
「いや、臣下は臣下でちゃんと妻はいるし…それに別邸の建築費も女性の生活費もちゃんと殿下が出してくれてるから…。それにさ、殿下と女性との間に子供が生まれたら、戸籍上は臣下の子だけど実際は殿下の子だからね。殿下が“我が子”に目をかけてくれれば自ずと臣下の家格も上がる…なかなか良い事ずくめなんだよ」
「えぇ〜、でも僕はちょっと嫌だなぁ…やっぱ普通の人生が一番ですよ」
普通が良いと言うアブラハムに小隊長は自分たちには『拝領妻』は無縁である事を苦笑しながら語る。
「まあ、我々一般士族達にはには無縁な話だけどね。ああいうのは貴族階層や上級士族でないと無理だよ」
「ですよね〜いくら美女でも自分の物になれなかったら意味ないですよ」
平凡な暮らしの良さを認識するアブラハムの言葉にナーセルはジェム直属の騎士に出世したセイルを悪し様に陰口を叩く。
「この国は王族とお貴族たちが中心なんだよ。それでもクルアーンみたいに付いてる奴もいるけどな。現にセイルの野郎はジェムさま直属の近衛騎士さま。こっちはろくに休暇もない不公平だぜ全く・・・」
「落ち着けナーセル。クルアーン君の出世は私も予想外だったよ。確かに彼は『ヤヴズ兄弟の変』で活躍した。しかし、近衛騎士に抜擢されるとは思ってもみなかったよ…」
ナーセルを宥めながら小隊長もセイルの出世に驚く。
上級士族の子弟が十代で近衛騎士になるなんて前例がなかったからである。

セイルが出世した理由は『ヤヴズ兄弟の変』の手柄ではなく別の理由だとナーセルは言う。
「小隊長、違いますよ」
「違うってどういう事だ?」
「クルアーンの出世はジェム閣下に尻を差し出して男色のお相手をしたからですよ。ああ言う気弱で女顔の野郎は男娼に多いそうですよ」
セイルが出世したのは上手くジェムに取り入ったからだとナーセルは思い込んでいた。
元々、ナーセルはセイルに対して悪感情はなく普通に同僚として接していた。
しかし、士族の子弟ではありえない大抜擢や今回の遷都でイルシャ・マディーナが荒廃してしまい。
ジェムの悪政や賊たちとの不毛な戦いのせいで身も心も磨り減らしていたナーセルはジェムの寵愛の元でセイルは新王都で面白おかしく暮らしてると思い込み被害妄想に支配されているナーセルをアブラハムと小隊長は厳しく諌める。
「おい、ナーセル落ち着けよ!」
「冷静になれ。任務中だぞ!」
「…すいません。でも、本当に世の中は不公平だよ…良い目を見るのは要領の良いヤツばっか…」
なおもブツブツ言うナーセル。
一方、アブラハムは気付いたらセイルをかばっていた自分を不思議に感じていた。
彼も異例の大出世を遂げたセイルには良い感情を持っていなかったはずだった。
(そうか…僕、なんだかんだ言ってセイルが好きだったんだな。アイツとアルトリアさんと一緒に連続殺人犯を探して夜の王都をうろついたっけ…他にも色々あったよなぁ…)
アブラハムは過ぎ去りし日々に思いを馳せた。
王都の街もあの頃とはすっかり様変わりしてしまった。
「男のクセに枕営業とか…アイツにはイルシャ騎士の誇りが無いのかよ…女の腐ったようなヤツっていうのはクルアーンみたいな人間を言うんだろう…」
まだしつこくボヤいているナーセルに、アブラハムは怒鳴ってやった。
「おいナーセル!いい加減にしろよな!セイルがそういう人間じゃないって事はお前だって知ってるはずだろ!?セイルが取り立てられたのはアイツの実力と実績だ!男の嫉妬は醜いぞ!」

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