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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 225


イルシャ・アル=アッディーン。
アフメト王の弟で、性格は兄と正反対で奔放、何事に付けても派手好き。
国王一家をも凌ぐ豪華絢爛な暮らしを送り、夫人の数は何と三桁に及ぶとか及ばないとか…。
かつては王家の財産を湯水の如く使いまくり、宮殿と見紛うばかりの大御殿で連日連夜に渡って大宴会を催し、訪れた客達には最高級の美女、美酒、美食を惜しげも無く振る舞った。
だが、そのド派手な暮らしぶりから他の王族達からは好かれていなかった。
金の出所は王家の財産…国庫…つまり元は民から徴収した税。
それなのにこんな贅沢が許されたのも時代のお陰だった。
今から20〜30年前のイルシャ王国は、先々代国王の経済刺激策が功を奏し、非常に好況な上り調子の時代であった。
多くの国民が未来に夢と希望を抱きながら暮らしていた中、その夢を体現するかのような贅沢三昧の暮らしを送るアル=アッディーン王子は、貴族から庶民まで全ての人々から好かれ、愛された。
王族らしくない所も親しみを持たれる要因であった。
だが、時代が変わった。
好況と不況はあざなえる縄の如く巡り来る物で、ここ20年ほどイルシャ王国はずっと不況が続いていた。
こうなると王子に向けられる人々の視線は一転、厳しい物になって来る。
派手な暮らしは自粛せざるを得なくなり、ひっそりと身を潜めるようにして暮らすようになった。
さらにその性格から政界からも遠ざけられており、王族にしては珍しく重要な役職に付いていなかったので、世間の人々の前に姿を現す機会も無くなり、今やすっかり忘れ去られ“過去の人”と化していた人物であった。

「うわぁ、なんかスゲー懐かしい。まだ生きてたんだぁ〜」
「時代の寵児みたいな人だったからなぁ、あの人には今の時代は窮屈だろうなぁ〜」
しみじみ言うアブ・シル世代。
「俺知らないなぁ…」
「名前だけなら聞いた事あるかも…」
いまいちピンと来ないアブラハム世代。
ジェネレーションギャップという物はどこの世界にもあるようだ。
「…で中隊長殿、そのアル殿下という御方の護衛が今回の僕達の任務なんですか?」
「その通りだ。アル=アッディーン殿下は今回“ある重要な要件”でナハルシャット州へ行かれる。その道中の警護をするのが君達の任務だ。ちなみに指揮は小隊長に取ってもらう」
「重要な…要件?」
「一体何なんですか…?」
「そこまでは教えられない。君達はただ殿下を護る事だけを考えてくれ。何があってもだ!いいな!?」
「「「はっ!了解しました!」」」

ナハルシャット州といえばイシュマエル・ドルフの治める領地。
ドルフはジェムが政権を取る過程で色々と協力したにも関わらず、用済みとなった途端に何の褒美も与えられずに所領へと帰された。
ジェムに恨みを抱いている(可能性がある)はずである。
このような時期に、同じくジェムに恨みを持っている(であろう)王族の一人がそこへ行くという事は……皆は今回の任務には何かとてつもない裏があるような気がした。

が…


「なぁ…アブラハムさんよぉ…」
「…どーしたぁ?ナーセルさんよぉ…」
「何なんだ?こりゃ…」

翌日、アブラハム達はアル=アッディーンと共に王都からナハルシャットへと向かう街道を移動していた。
衛士達は馬、アル=アッディーンは馬車だ。
まず先頭に小隊長、次にアブラハムとナーセル、その後ろに四頭立てで金銀や宝石をあしらったド派手な装飾が施された馬車(これにアル=アッディーンが乗っている)、そしてその後ろ…殿(しんがり)を守るようにアブ・シルほか二騎が続く。

馬車の中に乗っているのはアル=アッディーン1人ではない。
もう1人いる。
馬車に近いアブラハムとナーセルには中の話し声が断片的にだが聞こえて来るのであった。

『ふへへへへへ〜♪こいつぅ〜♪可愛いヤツじゃのう〜♪ほれ♪ほれ〜♪』
『いやぁ〜ん♪殿下ったらぁ〜♪そんなトコさわっちゃイヤ〜ン♪』
『ふへへへへへへ♪』

「「…………」」
そう、一緒に乗っているのは若い女なのであった。
「なぁ、アブラハムさんよぉ…」
「…何だ?ナーセルさんよぉ…」
「俺はね…どんなに辛くてもね…不遇でもね…この仕事に誇りを持ってね……あぁ、ごめん…何か自分でも何言いたいのか解んねえわ俺…」
「がんばろうぜ、二日間の休暇が待ってる」
「そうだな、金と休暇だけが生き甲斐だ」
「君達、何ブツブツ話してるんだい?ボケッとしてると落馬するよ」
前を進む小隊長が言う。
アブラハムとナーセルは尋ねた。
「小隊長、あの女性は殿下の数いる奥様の内の一人なんですか?」
「それとも愛人ですか?なんかお忍びの旅っぽいですけど…」
小隊長は答える。
「うーん…身分的には殿下の臣下の妻…って事になるんだが…」
「えぇぇっ!!?」
「ふ…不倫ですか!!?」
「声でけえよバカ!…不倫ではない。俗に言う“拝領妻”ってヤツだ」
「ハ…ハイリョーズマ?」
「つまりさ、あの女性は元々は殿下の(数いる)正妻の一人に仕える侍女だった訳…で、それを殿下が見初めて“お手つき”にしちゃった訳…でも仮にも王族が身分の低い女を…しかも元々正妻の侍女やってた女を正妻として迎える訳にはいかない訳…」

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